第17話 夢の中でも会いたいじゃん
「……あんまり、そういうことさらっと言ってくれるなよ。照れるだろ」
「お。照れろ照れろ~。……はっ、今のとか、めっちゃ本物の恋人って感じのやり取りじゃなかった? こういうの増やしていきたいね」
そこから彼女は一人、今日の反省へと入っていく。
俺はと言えば、「今度は手作りお弁当食べてもらうからね」とか、「朝から挨拶できたのはよかったね」とか語る、その美しすぎる横顔をまじまじと見てしまう。
こうして見ていると、動画のために無理をしているようには見えない。
むしろ心底楽しんでいるかのように映って、訳が分からなくなってきたのだ。
「全部あくまで、動画のため、なんだよな……?」
そして念のため、再確認を入れる。
彼女は間髪入れず、当たり前じゃんと答えて、こくりと首を縦に振った。
「でも、その代わり本気だよ、私は本気で練習して、もっともっと山名と恋人っぽくなりたいと思ってる。
これでも必死なんだよ? ほら、山名にはもともと幼馴染の日野さんがいるでしょ? 二人、ちょー仲いいじゃん。
でも、そこに割って入ってでも、山名の彼女は私じゃなきゃいけないから。私、きっと山名の心をつかんで見せるからね」
「……動画の中の話だろ。ちゃんとそこまで言えよ、誤解されるだろ」
俺は換気のための開けていた窓の外を見る。
目と鼻の先に見える窓は、日野家の、それも梨々子の部屋のものだ。
そしてうちの幼馴染は、美夜のことを「お邪魔虫」と言い切るほど、なぜか敵視している。余計な誤解を招きそうな発言は避けていただきたかった。
「ふふ、ごめん、わざと。聞こえてたら聞こえてたでいいの。ちょっとした宣戦布告だからさ、今の。私は本気で山名の恋人になるつもりだし!」
「……だから、動画の話だって言ってくれよ」
「あは、やーだ。分かり切ってることだから、あえて省略してるの♪」
「……あのな。無理やりにでも言わせてやろうか」
俺が冗談でこう言うと、美夜はけらけら笑い、「やだやだ」と言いながら狭い部屋を這うようにして逃げ惑う。
最終的に俺のベッドによじのぼって、くるっと布団の中にとじこもって、その潤む瞳で俺を見る。
「匂いたっぷりつけといたから、これで今日の夜は私の夢を見て寝られるね、山名。うわ、やば。今の恋人っぽいよね、夢で逢うなんて」
「……ファブリーズかけておくから」
「なら、ファブリーズに負けないくらいこすりつけるよ? 絶対、夢に出てやる~。夢でも恋人になってやる」
などと、この美人は言ってのけるのだ。
しかも追い打ちをかけるかのように、豊かなその胸元に俺の枕をぎゅうっと抱え込み、そこに優しい吐息をたっぷりと吹き込みながら。
……あぁ、調子が狂うったらない。
本当に細川美夜はいったいどうしてしまったのだろう。いや、どうしたもなにも俺が考えすぎているだけなのかもしれない。
こういうのも全部、動画の中でより恋人らしく振る舞うため。
動画を伸ばすため、だよな……? いや、きっとそうに違いない。
今はそう考えなければ、理性がどこかへと飛んでいってしまいそうだった。
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