第36話

出会って間もないミリに、何でここまで入れ込むのか自分でも少し不思議。


この世界で初めて出会った同じ世界を知っている人。

もちろんそれもある。


でも、何だろう。

無条件で信じたくなる、この人は大丈夫だって思える魅力っていうのかな。

そういうものが彼女にはある気がする。


それに、普段は元気に明るくしているミリが時たま見せる寂しげな表情。

きっと日本のことを思い出しているんだろうなって。


実はミリと出会ってから、何とか帰る方法がないものだろうかと思って、折を見ては王宮の図書館で調べ物をしたりしている。

けれど、今のところ手掛かりは無し。

一般には閲覧が許可されていないような書物なら何か見付かるかも知れないけど、そういった物を読むにはそれ相応の手続きが必要な訳で……。


ミリの本当の事情を人に話せる訳もないから、それも難しい。

あの寂しげな表情を思い出すと何とかしてあげたいと思うけど、現状は手詰まりといった感じになってしまっている。


王太子とかの協力があればもう少し色々調べられそうだけど、あの私を見るのも嫌だって婚約者様が協力なんてしてくれる訳がないからなぁ。


そんなこんなをしているうちに、私が貴族学校へ入学する日が近付いて来た。


貴族学校への入学、それはつまり、遂に乙女ゲームがスタートしてしまうということ。


ゲーム通りに進めば、私は一年生の終わりの日。

一年の最後を締め括るパーティで断罪される。


正直、自分の事はもうほぼ諦めている。

これまで何をやってもラウルとの関係は改善されるどころか悪くなるだけだったし。

そのおかげで社交界での評判も最悪だし。


まぁ、色々と頑張った成果で、国王陛下の評価や市井での評判は結構良いみたいだから、何とか家への被害は少なく済むと信じたい。


それにミリのことだけど……。

ものすごく悩んだけど、私のお付きとして一緒に学校に来てもらうことにした。


マリーは確定で来てもらうのは決まっていて、もう1人をどうしようかって話をした時に、最初に名前が出たのがミリだった。

私のお付きの侍女見習いっていう立場だし、元々真面目な仕事ぶりが評価されてた上に、最近はすっかり一人前の侍女って感じに成長してるし。

それに年齢も同じだからそうなるよねって感じではあるけど……。


これはマリーにも言えることなんだけど、私の近くにいることで嫌な思いをさせることがあるかも知れない。

何せ、学校に行けばそこには婚約者様や私を良く思ってない他の貴族達がいる訳で。


私自身に直接何かを言ったりやったり出来るのは、身分的にもラウルだけな分、私の代わりに何かされたり言われたりする可能性がないとは言えない。


まぁ、2人に何かしたらラズウェイ公爵家を敵に回すことになるってことはさすがに他の貴族達も分かってるとは思いたいけど。

とりあえず、私がなるべく一緒にいて2人をすごく気に入ってるって言うのを分からせておけば大丈夫かな?


あとは私がどう過ごすかだけど、まず第一に守るべきことは、極力ヒロインと関わらないこと。

きっとラウルとはすぐに親しくなるだろうから、婚約者という立場上全く関わることがないっていう訳にはいかないだろうけど、私から関わることは絶対にダメだ。


ゲームのように嫌がらせしたりとかはするつもりはないけど、一緒にいるのを見られただけでどんな噂を立てられるかわかったもんじゃない。

何もしなくても私が何かしたことにされそうな気もするから、そこの対策だけは考えておかないとかなぁ。


はぁ、考えただけで憂鬱になってくる……。

こうなると、やっぱりミリに来てもらうことにして正解だったなぁ。

ミリに癒されないと、きっと私の精神がもたないなこれは。


何とか、少しでも被害が少なく学校生活が終わりますように。

私はもういいから、私の大切な人達にまで害が及ぶようなことがありませんように。

今は、それだけが私の望みだ。

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