第34話

あの日、その場所を通ったのは本当に偶然だった。

王太子妃教育が早く終わり、そのまま屋敷まで帰っても良かったんだけど、憂鬱な日々が続いてたせいかな。

気分転換をしたくて、王都から少し離れた湖を見に行ってたんだ。


滞在時間はわずかだったけど、大きな湖を見てたら憂鬱な気分が少しは紛れた気がして、まだ何とか頑張れるって思えた。


そして、王都へ戻ろうと馬車に揺られていた時だった。

前を走る護衛騎士が何かを見つけたみたいで、唐突に馬車が止まった。


何だろうと思いながらも、大人しく待ってたら護衛騎士……あの日はジャックだったかな。

彼が珍しく厳しい声をあげているのが聞こえた。

いつも陽気で、私のことも笑わせてくれるようなジャックがあんな声を出しているなんて、普通じゃないことがあったのかもしれない。


本来なら、そういう時こそ大人しくしているべきなんだろうけど、好奇心に負けてしまって馬車から声のする方を覗いてみた。


あの瞬間の衝撃は、前世の記憶を取り戻した時や、ここが乙女ゲームの世界だと気付いた時と同じかそれ以上だった。


だって、そこにいたのは日本の女子高生の格好をした女の子だったんだから。

それが私とミリの出会いだった。


初めて会った時、ミリは酷く混乱しているみたいだった。

そりゃそうだよね、気が付いたらいきなり森の中にいたみたいだし。


戸惑っているミリを半ば無理やり馬車に乗せ、屋敷に連れて帰ることにしたんだ。

この世界でまさか出会うとは思ってなかった日本人というのもあるけど、そもそもあんな森の中に女の子1人残して置けないしね。


まして、ミリは本人は自覚が全くないみたいだけど、かなりの美少女だった。

まだ原石って感じだけど、磨けば必ず光る。

あのまま放っておいたら、良からぬ輩に捕まって大変なことになっていたかもしれない。


出会った時のミリは、まだここが今までいたのとは別の世界だって言うことは気付いてないみたいだった。

どうせすぐに分かることだし、私から伝えようかと思ったんだけど、ミリの気持ちを考えると中々言い出せなかった。


日本人としての生を終え、転生してここにいる私とは違い、ミリは生きたままこちらに来てしまった。

日本には家族や親しい人がいただろうに、突然その人達と引き離されてしまったんだから。


これまでこちらで生きて来て、別の世界から来た人が居るという話は聞いた事がなかった。

筆頭公爵家の令嬢で、一応は王太子の婚約者でもある私だ。

庶民や普通の貴族では聞けないような話も色々と耳に入っては来る。

それでも私が知らないだけという可能性はあるけど、他にはいない可能性の方が高いと思う。

そうなると、日本に帰れる可能性も当然……な訳で。

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