第33話

「……。」


1歩先を歩くラウルは、庭園に出てからずっと無言だ。

いや、庭園に出るどころか、部屋を出てから一言も話さないし、こちらを見ようともしない。


あの乙女ゲームでもラウルは悪役令嬢を嫌ってたけど、ここまでか……。

見た目だけならすごい美少年なんだけどなぁ。


太陽の光を受けて鮮やかに輝く金髪に、澄んだ水色の瞳。

悪役令嬢がベタ惚れだったのも頷けるよホントに。

まぁ、その悪役令嬢は私なわけなんですが。


前世の記憶が戻る前の私だったら、一目惚れしてたかもなぁ。

なんて考えながらラウルの後ろ姿を眺めていると、突然ラウルが振り返った。

やば、ガン見してたのバレたかな?


「予め言っておく。

どうやって父上に取り入ったかは知らないが、僕はお前が大嫌いだ。

ご命令だから仕方なく婚約はするが、自分が愛されているだとか大切にされているだとかの勘違いだけはするな。

あくまでも、仕方なく、いやいや婚約するだけだ。」


「……はい。」


ようやくこっち見たと思ったら、第一声がそれ!?

取り入ったって何よ!?

まるで私が望んで婚約したみたいに言ってるけど、私だって嫌なんですからね!?


平静を装いつつ私がそんなことを考えているのを知ってか知らずか、ラウルはそれだけ言うと、もう用はないとばかりに踵を返して城内に戻って行ってしまった。


最悪な婚約から数年。そう数年が経った。

私としては婚約なんて絶対嫌だったんだけど、王家からの申し入れだった時点で、私にも我が家にも逆らう余地はなかった。


国王陛下は名君て呼ばれるに相応しいお方ではあるけど、息子である王太子のラウルにはかなり甘いところがある。

将来王位を継ぐラウルの立場をより強固にする為に、国内一の貴族である我が家と婚姻関係を結びたかったんだろうというのがお父様の見立て。


それで半ば無理やり婚約させられるこっちとしてはたまったもんじゃないし、ラウルだって何故かやたらと私のことを嫌っているから、もしかしたら破棄出来るんじゃないかとも思った。


それをラウルに話してみたら、「謙虚なフリか。吐き気がする。」だそうです……。


だったら、せめて関係を改善出来ないかとも考えた。

前世の知識があるから、内政チートとまではいかなくても、前世であってこっちにはないものを提案してみたりもした。

そうすれば私を見る目も多少はマシになるかと思ったんだけど、「小賢しい改革案でまた父上に取り入るつもりか。つくづく浅ましい女だな。どうせそれもお前が考えたのではないのだろう。」だそうです……。


もうこれは無理なのかも知れない。

普段は誰にでも優しく、その見た目はキリッとした美少年なラウルなのに、私を見る目は完全に死んでるし。

見るのも嫌だって言うのが全身から伝わってくる。


このまま最終的には断罪されて、辺境で孤独死するしかないのだろうか。

だったら、私はなんでこの世界に転生してしまったんだろう。


強制的に行かされている王太子妃教育を受けつつも、毎日そんなことばかり考えて憂鬱に過ごしていたある日、私は彼女と出会った。

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