第8話

「いやいや、私めっちゃ庶民ですし、そんな気遣われるような立場でも身分でもないですから!」


「いえいえ、誠心誠意おもてなしするよう、お嬢様から言われておりますので。」


いや庶民だ、いえいえ大切なお客様ですとやり合うことしばし。

先に根負けしたのは私だった。

あんまり粘っても、かえって迷惑かけそうだし。


「わかりました。

それじゃあ、マリーさんが淹れてくれるのを勝手に見て勝手に覚えます!

それなら大丈夫ですよね?」


「そうですね、それでしたら。」


よし。お許しが出た。

小さくガッツポーズしたのが見られたらしく、マリーさんに笑われてしまったのは仕方ない。


その後もお茶のこととか、色々と話していると、いつの間にか結構な時間が過ぎていたようで、すっかり夜も更けていた。


「あ、もしかして私が寝ないとマリーさんのお仕事が終わらなかったりします?」


私のお世話係?に任命されてしまっているみたいなので、話し込んでしまって迷惑をかけてしまったのでは。


「いえ、決してそのようなことはありませんが、もうおやすみになられますか?」


「そうですね、眠くなって来たんでそろそろ休もうかなと。」


マリーさんのお茶でかなりリラックスは出来たが、それでも今日は色々とあり過ぎた。

さすがに眠い。


「かしこまりました。

それでは、おやすみなさいませ。」


そう言って灯りを消し、退出して行くマリーさんを見送ると、ふかふかなベッドの寝心地の良さも相まって私はすぐに眠りに落ちた。


翌朝。


ふかふかのベッドで気持ち良く寝ていた私は、居心地の良すぎるそこを離れるのを心底惜しんでいた。

まぁ、要するに寝坊した。


普段は朝になれば目が覚めるんだけど、環境と言うか世界すら変わっているんだから体内時計が狂っていたんだ。きっとそうだ。


くすくす笑いながら身支度を手伝おうとしてくれるマリーさんにめちゃくちゃ恐縮しながら、用意された若草色のワンピースに着替える。


髪はどうするか聞かれたけど、元々肩くらいまでの長さだし、梳いてもらうだけにした。

しかし、昨夜の夜着といい、何故こうもサイズの合う服が都合よく用意されているのか。

不思議だ。


朝食まではしばらく時間があるらしいので、淹れてもらったお茶を飲みながらのんびり過ごす。もちろん、その時にマリーさんの淹れ方を観察するのは忘れていない。


そろそろお茶を飲み終わるというタイミングで部屋の扉がノックされる。

応えると入って来たのは初めて見るメイドさん。

マリーさんと比べると少し歳上の20代後半くらいだろうか。


「おはようございます、ミリ様。

お支度がお済みでしたら、お嬢様のお部屋までお越しいただけますでしょうか。」


「あ、はい。わかりました。」


なんだろうと思いつつ、メイドさんの案内に従ってセリーナさんの部屋へ。

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