第5話
「たぶん、落ち着いてはいないんだと思います。」
私の言葉の意図が掴めないのだろう。
首を傾げるセリーナさんに、さっき思ったことを伝える。
「それに。
たぶんまだ現実なのか夢なのかわからないんだと思います。
だって、私学校帰りにバイト先に向かって歩いてだはずなんで……。」
「そう……。そうよね。」
今こうして話していることこそが夢なのではないか。
瞬きをして、目を開けたら、そこはバイト先の喫茶店で、私は居眠りをしているだけなのではないか。
あまり流行ってないお店だからお客さんも少なくて。
暇を持て余した店長にコーヒーの蘊蓄を聞いたり、紅茶の淹れ方のコツを教わったり。
そんな日常に戻るんじゃないか。
そんな気がしている。
「だから、そんな顔しないでください。大丈夫ですから。」
心配そうに私を見ているセリーナさんに、努めて明るく答える。
この後どうすればいいのかとか、これは本当に現実なんじゃないかとか、考えないといけないのだろうけど、今はとても考えられそうになかった。
「そうね、しばらく落ち着いて色々考える時間があった方がいいかもね。
本当は私のことも含めて色々話しておきたかったんだけど、また日を改めた方がいいかもね。」
「あ、そう言えばセリーナさんは日本人……なんですか?
見た感じはこっちの人っぽいですけど。」
気を使ってくれて、また改めてと言ってくれたセリーナさんだけど、日本のことを知っていたり、ここは別の世界と言ってたり色々と気になる。
落ち着いて今の状況を考える上でも、気になることは聞いておいた方がいいような気がする。
「私は……。
今は日本人ではないわね。」
今は?
「前世が日本人だった……んだと思う。
少なくとも、私にはその記憶があるの。日本で社会人として生きていた記憶がね。」
「前世ですか……。」
「ええ。
思い出したのは5歳くらいの頃だったかな?
信じられないかもしれないけどね。」
そう言って笑うセリーナさん。
確かに、普通に考えたら何を言ってるんだこの人。って心配になるような話だが、今の私の状況を考えればそういうこともあるのかもと思えてしまう。
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