後編

 施設の外でスーツを着たアキナは、剣を振り訓練をしていた。施設の周りにはバリアが張られ、中にモンスターは近づけず、空気が満ちているので、ヘルメットを外しても平気だった。


「見事だな少年。」

「あんたらか・・・。」


ライオとノアがアキナに近づき、ライオは拍手をしている。


「何の用ですか?」

「・・・用?訓練のふりをして俺達を見張っていたのによく言うな少年。」


アキナは気付かれていたことに驚いた。


「何かやましいことがあるんだろ?」

「やましいことがあったらどうするの?」


アキナは、強く持っている武器を強く握る。しかし、アキナの背筋が凍る。ライオの顔は笑っているが、アキナはライオに殺気すら向けられなかった。


「大丈夫だ。ただ少年と話したいだけだ。」

「・・・何?」

「いや・・・・」


ライオのポケットで何かが光る。連絡用の機械だった。


「話したいのは俺じゃなくてこいつ。俺は少し外すな。」


そう言ったライオはその場を後にし、少し離れた岩陰に消えた。


「いい剣義ですね、誰かから習ったんですか?」

「おやじから・・・昔おやじもハンターだったんだよ。」

「そうなんですか。」


ノアはぎこちなく会話を始めた。


「で・・・何?」

「昨日はごめんなさい。」


真っすぐに頭を下げられ、アキナは戸惑った。しかし、アキナは少し笑った。


「俺達が普通じゃないのは解ってる。」

「そんなことは・・・。」

「ねえノア・・・、ノアが俺の年の時は、普通は俺の年の子供は何をしてるの?」


アキナの質問にノアは少し考え、アキナの目を見た。


「夢を見てると思います。何かしたいとか、何になりたいとか。」

「夢?それって生きていくのに必要?」


アキナの質問に、ノアは再び考えた。より深くノアは考え込む。そして、アキナにノアは頷く。


「生きた意味に必要だと思います。少なくとも私は・・・」

「意味?」

「自分が何のために生きているのかを、自分が決めるのに必要なんです。」

「ノアは夢があるの?」

「私はハンターになるのが夢でした。」

「今はもう無いの?」


ノアは空の様子を見た。つられてアキナも空を見た。


「出来るだけ遠くに行きたいです。」

「遠く?」

「この世界の私がいけるところまで、進めるだけ遠くに行きたいんです。」


アキナとノアは何も言わずに外を見ていた。まるで時が止まったようだった。


バリ・・・・


何かが割れる音が遠くで響く。アキナはノアも聞こえたか確認しようとしたが、ノアの姿を見て驚いた。ノアの緑の右目が光っていたのだ。


「何で?」

「ノア、今の音は・・・」

「少年!」


アキナの声をライオの声が遮った。アキナがライオを見ると、ライオの顔には笑顔が無かった。ライオは力強くアキナの肩を掴んだ。


「俺達の言っていたモンスターの死体はどこだ?」

「だから・・・」

「お前達が隠していることは解ってる。最初に聞いた時からな。」


ライオの言葉にアキナだけでなく、ノアも驚く。


「俺も孤児院出身だ。一日少年達の様子をみたてから、どうするか判断するつもりだった。」

「なら・・・」

「今連絡があった。あの死体は仲間を呼び寄せる。放っておけばモンスターが集まってくるぞ。」


アキナはライオの言葉を聞き、ノアの方を見た。ノアは光る右目を抑えていた。


「ライオさん、もう12体バリアを破って侵入してきてます。」

「チッ・・・」


ライオは再びアキナを見るが、アキナは明後日の方角を見ていた。


「おやじ・・・。」


アキナはライオの手を振りほどき、走り出した。


「少年!」

「アキナ君!」


ライオはアキナを追おうとしたが、遠目にモンスターの姿を捉え、足を止めた。ライオはアンプルを取り出し、中の液体を浴びた。


「ライオさんそれ・・・モンスターを集める液体。」

「侵入したモンスターは俺が引き受ける。お前は少年を追え!」

「・・・了解!」

「そっちにもいると思うから気を付けろ。」


ライオとのノアは逆方向に走り出した。


アキナは全力で6番倉庫に向かった。しかし、アキナの肩を誰かがつかんだ。掴んでいたのはノアだった。自分の全速力に追いつかれ、アキナは驚いた。


「俺急いでるんだけど。」

「解ってる。ここからどれくらい時間かかる?」

「そんなの聞いて・・・」

「いいから。」

「5分だけど」

「分かった。」


そう言ったノアはアキナの肩に触れ、もう一方の手に持っている時計を操った。


「な・・・ここ。」

「5分後の私達の位置です。」


そこは6番倉庫、ジーマン達のいる倉庫だった。


「おやじ。」


目の前に血の流れたトーマの手を引き、拳銃を持っているジーマンが、アキナ達の方に走ってきた。


「アキナ・・何故ここに。」


ノアと一緒にいることにジーマンは驚いた。その後ろにはタコ型のモンスターがいた。アキナはジーマン達の頭上を飛び越え、モンスターに斬りかかった。


「ジーマンさん、銃を・・・。」


ノアはジーマンに手を伸ばし、ジーマンは自分の銃をノアに投げ渡した。受け取ったノアは銃を構え、その横をジーマン達が走り抜ける。ノアの左の青い目が光っていた 。


「アキナ君!」


ノアの言葉を聞き、アキナはモンスターから距離をとる。


タアン・・・・・


発砲音は一発だけだった。しかし、その一発がモンスターの命を奪った。


「すご・・・・。」

「まだいます。」


驚くトーマの横に触手が蠢く、ノアの緑の右目が光る。


「社長!」

「・・・馬鹿野郎!」


トーマはジーマンの盾になろうと、モンスターに向かっていった。しかし、ジーマンはトーマの肩をつかんだ。


血しぶきが舞う。


トーマを庇うかたちで、ジーマンの腹部をモンスターの触手が貫いた。


「おやじ!」


アキナは貫いていた触手を斬り裂いき、ノアが銃で留めを刺した。


「何やってんだよ。あんたが死んだら皆が・・・」

「そうか・・・悪かった。」


倒れているジーマンをトーマが抱え、ジーマンの目から光が薄くなる。


「・・・おやじ。」


アキナの声にジーマンはそちらを向いてた。表情から意識が薄いことが見てとれる。


「アキ・・・」


ジーマンの目にはアキナではない誰かが写っていた。それを理解したアキナはジーマンの側に座った。


「お父さん。」


アキナの声を聞き、ジーマンは目をつぶる。


「アキ・・・済まなかった。お腹いっぱいにご飯を食べさせられなくれて、済まなかった。」


ジーマンの表情は変わらなかったが、その眼から涙が流れていた。


「もう二度と、失いたくなかったんだ。だから・・・・俺は子供たちを、金のために・・・」


ジーマンは手をアキナに伸ばす。


「頼む・・・アキ、あの子達のために・・・俺を許さないでくれ。」


アキナはジーマンの手を握り、ジーマンの目を見る。その表情は動かなかった。


「解ってる。俺達は貴方を許さない・・・・でも、愛しているよ。俺達はおやじを愛していたよ。」

「・・・・馬鹿だな、お前は・・・アキナ。」


ジーマンは笑い、静かに息を引き取った。










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