12-4 起床転落

日時

【四月二十六日 日曜日 十六時三十八分】

場所

【社本部】

人物

【不明】


 一枚の銅鏡が分厚い座布団の上に置かれている。

 その前には着物を着て正座をした老婆。

 手には地図が表示された情報端末。


「これの使い方慣れとらんでよかったなぁ。」

「次回からはこれまで通り紙の地図でしましょう。」


 後ろで控えていた初老の男性が老婆から端末を受け取る。


「次なんかない方がええけど。」


 老婆が銅鏡を恭しく持ち上げた。

 磨き上げられた銅鏡が老婆の顔を映す。

 幾重にも刻まれた深い皺、薄い紅を引いた唇は乾き、丁寧に結われた髪は白髪、しかし瞳だけは瑞々しく光を映していた。


「今回はお預け。」


 老婆の言葉に次第に鏡面が曇っていく。それを認めた後、老婆は銅鏡を座布団に戻した。


「八咫烏は予定通り現地に向かわせます。脱走及び目覚めで生まれた覚醒体の処理がありますので。」

「そうね。」


 老婆が立ち上がる。


「ウチも一度日夕までいかないけんね。」

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