10-1 含笑転落
日時
【四月二十六日 日曜日 十五時五十四分】
場所
【社日夕支部一階手装備室】
人物
【詩刀祢】
「装備確認。」
人気のなくなった社の中。
「装備確認。」
全身を装備によって隙間なく覆われた八人の人間がそこに居た。
今や彼らには外界の音は全く届かない。
意思疎通は特殊な通信機を用いて行われていた。
対目覚め専用装備芳一。
一地矢を含む多くの犠牲の上に完成した多少の損傷があっても防音防振性を喪失しない完全装備。
難点があるとすれば、装備するのに手間が掛かることであり、訓練を積んだ特務実行部隊獏ですら、三分を要する。
「これより事案『朝』対抗作戦『二度寝』を開始する。」
隊長の他時真の号令で特務実行部隊獏は一斉に動き出した。
一階にはまだ鳴き声は届いていない。
装備に付けられた振動計を見て詩刀祢は僅かに心を緩める。
その瞬間、前方の床が崩れた。
「敵襲。」
先を進んでいた隊員がそれを素早く避け、各々武器を構える。
床から飛び出して来たのは、全長一メートルほどの巨大なペットボトルだった。
透明な身体の中には赤褐色の液体がなみなみと揺れている。
咄嗟に詩刀祢は刀を構える。
「斬るな。特性が不明だ。未知の覚醒体との不必要な戦闘は控えて先を進め。」
一人の隊員が詩刀祢の前に立つ。
「了解。」
「
他時真の命令がインカム越しに伝わり、一人を残して隊員達は覚醒体が出て来た穴へと飛び降りた。
着地した先で詩刀祢は目を疑った。
壁を突き破る覚醒体と廊下の中央に鎮座する覚醒体。
少なくとも二体の覚醒体が数分前まで社の職員が行き交っていた廊下に存在している。
それは明らかな異常事態だった。
詩刀祢は振動計を見る。
まだここまで鳴き声は届いていない。
にも関わらず、社の中をこうして普通に覚醒体が闊歩している。
(下の方にはどれだけの人間が残っていたの?)
社の職員は完全に退去した。
その事実から考えられるのは、これが夕鶏の侵入者という事だった。
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