4-2 鶏鳴敢闘

日時

【四月二十六日 日曜日 十四時三十七分】

場所

【某県某市社日夕支部二階廊下】

人物

【詩刀祢】


 中級異品『刀』。

 外見、刀身十センチ程のサバイバルナイフ。

 与えられた振動によって刀身を伸長させる。その為、持ち運びには振動抑制機能を有した鞘を用いる。

 その刃はあらゆるものを斬り別ける事が可能。

 適応条件、親しい人物の殺害。

 現所持者、社日赤支部手特務実行部隊獏詩刀祢。


 眼前の人物が銃を構えるよりも早く、詩刀祢は刀を振った。

 切っ先が正確に心臓を貫き、そのまま胴体を上方向に斬り別けていく。

 頭が綺麗に真っ二つになったところで、刀身は彼女の手元にまで縮んだ。

 尋常ならざる修練によって刀は彼女の手足と同等となり、心技一体の境地に達していた。

 直ぐさま刀を鞘に収めた彼女は通信を入れる。


「二階廊下区画三、殲滅終了。」


 彼女の後ろには七人分の斬死体が散らばっていた。


「了解。そのまま下層の援護に向かわれたし。」

「了解。」


 一度だけ振り向いた詩刀祢は、小さく溜息を吐く。


(死ぬとわかっていて社に楯突くなんて。)


 瞳に呆れと憐憫を映して、彼女は駆けだした。

 走りながら詩刀祢は状況を整理する。

 襲撃者は夕鶏。

 異品を公にし、一般にも分配すべきという思想を持つ危険団体。

 異品の恩恵を広めると言えば聞こえはいいが、その母体は異品を軍事的に利用しようとした過激派。現在も上層の思想は変化していないだろう。

 なにより醜悪なのが、新興宗教を偽って信者を集め洗脳し戦闘員とする手法だ。

 今し方斬った者達を思い出して、詩刀祢は奥歯を噛んだ。


(それにしても、今回は規模が大きすぎる。)


 これまでも各支部で散発的に夕鶏の襲撃は発生していた。

 しかし、今回の襲撃ではその比ではない。


(数十人規模の襲撃なんて。)


 現在報告が上がっているだけでも三十名を超える侵入者が確認されている。

 総数は五十を軽く超えるだろう。

 これほどまでに大規模な襲撃となれば、内通者かかつて社に所属していた人間の可能性が考えられる。


(まさか、彼女じゃないよね?)


 詩刀祢の脳裏に一人の人物が浮かぶ。


(もしも、彼女が関わっていた場合。今回の襲撃の目的は異品じゃないかもしれない。)


 頭に過ったのは、考え得る限り最悪な想定。

 その考えを振り払うように、彼女は足を速めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る