3-7 朝三墓死

日時

【四月二十六日 日曜日 十三時一分】

場所

【某県某市稲荷神社敷地内】

人物

【中園司季】


 しーさん、もとい詩刀祢さんに連れて来られたのは街中にある神社だった。

 中央通りからは少し外れているが色々な店の並ぶ区画に、圧倒的な存在感で鎮座する歴史的建造物。

 初詣は毎年この神社だし、中学の遠足で来た事もある。

 秘密の場所と言うには身近過ぎる。


「本名は中園司季だったよね?」

 詩刀祢さんが口を開く。

 当然知っているのだろう。


「詩刀祢さん酷い人ですよね。俺の事知ってるのに、知らない振りして。」

「君が声をかけたからでしょ。本来なら処理をした一般市民に接触したりしない。」


 それもそうだった。


「なんで声をかけたの?」

「わかりません。あの時点じゃ本当に覚えてなかったですから。」

「まったく、杞憂で終わってくれれば良かったのに。」


 独り言のように愚痴って、詩刀祢さんは社務所へと真っ直ぐに進む。

 休日、神社に併設された公園は親子連れで賑わっているが、こちらにはそこまで人が多くはなく、俺たちに注視するような人間もいない。

 社務所、遠足の見学だったかなにかで一度だけ入った事がある。

 足を踏み入れたそこの内観はその時の記憶とそう違いはない。

 御札なんかが置いてあり、その横に神社の人が居る事務所のような部屋と小窓がある。


やしろ日赤支部にっせきしぶ手特務実行部隊てとくむじっこうぶたいばく詩刀祢帰還しました。事情があり一般市民中園司季の社入場許可と子守里室長への連絡をお願いします。」


 詩刀祢さんは神社の人に向かって言う。

 すらすらと言ったそれが詩刀祢さんの所属なのだろう。本物の秘密組織だと変に関心してしまった。


「子守里霧部室長からの許可下りました。入場を許可します。」


 少しして、詩刀祢さんと俺は奥へと通される。


「これを。」


 神社の人から腕輪を付けられる。


「位置情報と生態情報をスキャンするもので、ついでに、不審な動きをした時には即効性の致死毒が注射されるから。」


 質問をする前に、親切な詩刀祢さんが説明してくれた。


「親切にどうも。」


 どうせ拒否権はないんだ。

 廊下の突き当たりにはエレベーターがあった。


「これから地下に下りるけど、結構速いから気をつけてね。」


 詩刀祢さんが言ったとおりに、エレベーターは自由落下するように下っていき、気圧差で居心地が悪くなる。

 数十秒の落下で加速度は消えた。

 エレベーターの扉の向こうには、白髪の着物の女性が待っていた。


「嘘を吐いてしまったね。永遠に会わない予定だったのだが。」

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