3-4 朝三墓死
日時
【四月二十六日 日曜日 十二時三十五分】
場所
【某県某市中央通り】
人物
【中園司季】
いつの間にかカフェの予約の時間まで三十分を切っていた。
彼女の言う通り案外直ぐに時間は過ぎる。
「そろそろカフェに行きますか?」
「あと少し適当にぶらぶらしようよ。まだ余裕あるし。」
彼女らしい提案だ。
ここからなら徒歩でもカフェまでは十分もあれば着くだろう。
小心者の俺としては予約の十五分前にはカフェに着いておきたいが、奢って貰う手前今日はしーさんのペースに合わせる事にしよう。
ぶらぶらという言葉そのままに特にどこに行くのか決めてなさそうな彼女の足は、奇しくも俺とユズがよく通っていた通りへと向かう。
少しだけ、吐き気を覚えた。
「私さ、昔に友達を殺した事があるんだよね。」
何の気なしに、彼女がそう口走る。
「え?」
おおよそ日常では聞けないような台詞に耳を疑った。
「実際に殺したって言うとほんの少し語弊があるんだけどね。」
その問題は既に終わったしまったのだと言うように、彼女は軽く語る。
どんな意図があって彼女がそんな事を話すのかがわからない。
吐き気が少し強くなった気がした。
「正直、当時は生きていく自信すら無くしちゃって、酷かったんだよね。」
ミニシアターの前を通り過ぎる。
「でも、その友達の分も頑張らないといけないって気付いて、今の仕事を頑張ってるんだ。」
先週かけられていた「不死身伯爵VSゾンビ軍団」のポスターは既に下げられ、代わりに「畳ネーター」というよくわからないタイトルの映画ポスターが飾ってあった。
ユズが生きていたなら今週も連れ出されていた所だ。
吐き気が一層強くなる。
「あの、しーさん、これ以上は少し……。」
足が動かない。
このまま進むと、あの場所に辿り着いてしまう。
まだ向き合う心の準備なんかできていない。
彼女のように終わった事だという風には思えない。
「一週間前だったよね。」
不意に彼女はそんな事を言った。
「この先の建築現場の下で、高校生が鉄骨の下敷きになった事故があったの。」
「知ってたんですか?」
吐き気は臨界点を超え、頭痛さえしはじめた。
彼女は俺がユズの幼馴染みと知ってこの場所に来たのか。
なんの目的で?
「ニュースになってたでしょ?」
しかし、振り返った彼女は普通の表情で応える。
俺の、勘違い?
「ハクゾンくん。顔色酷いよ? 大丈夫?」
「あんまり、大丈夫じゃない、です。」
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