2-2 事後不省
日時
【四月二十三日 木曜日 二十時四分】
場所
【社日夕支部共同食堂】
人物
【詩刀祢】
彼女は難しい顔をして、目の前の牛丼が湯気を上げるのを見ていた。
「おい、見ろよ刀が悩んでるぞ。」
「牛丼に生卵を入れるかどうかとか、そこら辺だろ。」
近くを通りかかった二人組の男性職員がそんな彼女を茶化す。
「私の名前は詩刀祢で、刀は異品の名前なんだけど。」
顔を上げた彼女は不服そうな顔をした。
「似たようなもんだろ。」
「なんでも一刀両断の刀でも悩むことがあるだな。」
「当然でしょ、繊細な女の子なんだから。」
その言葉に二人の男性職員は声を上げて笑う。
「諸君、元気なのは良いことだが、食堂ではもう少し静かに頼むよ。」
その後ろから白髪着物姿の女性が声をかけた。
驚いて振り向いた男性職員たちの表情は一瞬で緊張に包まれる。
「ついでに言うと、『手』の職員を彼女にするのは様々な観点からお勧めしない。如何に詩刀祢が可愛くてもね。」
「
子守里と呼ばれた女性は「失敬」と軽く笑った。
それを機と捉えたのか、二人の男性職員はそそくさとその場を後にする。
「彼らではないが、君が悩むなんてどんな厄介事だ?」
代わりに詩刀祢の前に座った子守里はテーブルの上に指を合わせて置く。
「まだ厄介事になるかわかりません。単なる勘違いかもしれないので。」
「興味深いが、まだ聞く時ではなかったらしいね。」
「すみません。確証が持てたら報告します。」
「構わないよ。邪魔をして悪かったね。」
子守里は席を立つ。
「因みに、牛丼には大葉とポン酢がお勧めだ。」
後ろ姿を見送りながら、詩刀祢は小さな溜息を吐いた。
(あの少年が私に声をかけたのは、本当に単なる勘違い? 万が一にも、記憶が保持されたままなんて事はないよね。)
牛丼の表面は乾き始めていた。
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