3-1 朝三墓死

日時

【四月二十六日 日曜日 五時四分】

場所

【某県某市駅前広場】

人物

【夢礙】


 まだ空が白み出す前の暗い広場に二つの人影が浮かんでいる。


「久しいね、九難くなん。君が社を抜けた時以来だから、三年振りかな。」


 男の声が静かな空気に響いた。

 気さくな、軽い感じのする声だった。


「お久しぶりです。このような機会を用意して下さりありがとうございます。」


九難と呼ばれた女性が答える。


「僕がしたことは特にないよ。夕鶏ゆうけいも君が協力してくれるなら都合が良かったんだろう。」

夢礙むげ様は夕鶏の総帥では?」


 夢礙と呼ばれた男は「様なんて止してくれ。」と笑う。


「作ったのは確かに僕だけど、もう僕の場所ではないかな。今回みたいに面白そうな物語同士を繋ぎ合わせるくらいのことしかしないし、僕はもうそれで充分なんだ。」

「物語ですか。」


 夜明け前の暗さの中、九難の表情を見た者はいなかったが、その声色は何かを噛み締めるようだった。


「そう、物語さ。君がどんな物語を今日見せてくれるのか、期待してるよ。」

「いいのですか? 私のしようとしている事が叶えばこの世の物語は終わるかもしれませんよ。」

「構わないよ。それならそれで、面白いハッピーエンドだ。」


 やがて、うっすらと東の空が白みだし、長い一日の始まりを告げた。



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