木にも降りず、石にも宿らず








「──ッ!!」


駆ける、掛ける、賭ける。



足の痛みなんて気にせずに全速力で駆け抜ける。

辺りに見えるのは萎れた木々と黄枯色の草だけ。いくら探せどミカの姿はどこにもない。



山中を駆ける。

願いを掛ける。

無事を賭ける。



探せど探せど見つからない。

「クッソ!」

探さないといけない範囲が広すぎるし。影になってる場所が多すぎる。

このままじゃいつまでたっても見つからない。


もっと効率的に捜すんだ。何か、何か…?!




わかってる。

もし本当にミカが襲われて遭難してるなら、助けた所で無駄だって、わかってる。

怪我した人間が山の中で遭難したらどうなるか。


そんなの小さい頃からよく言い聞かされている。




「…魔法」

そうだ、魔法。探知系魔法で一帯を調べられたら一発で広い範囲を捜せし、それにそれなら地形の問題もなくなる。これなら一気に全域を調べられる筈…っ!




腹がすいた猛獣に喰われるか。

身体が寒くなって死ぬか。

出血で死ぬか。

発狂して死ぬか。


生きて帰っても虫に喰われてて死ぬし。

怪我から入った病原体にやられてても死ぬ。




「レーダー」

周囲に電波を発し、その反射波に当たったものの位置をあぶり出す。

コレなら広範囲を効率よく捜せるはず…!?




助かる道なんてほとんどない。

そんなのわかってる。




電磁波を利用して対象物に発射し、その反射波を測定することで電波が反射した場所の距離や方位を図る魔法。つまり、電磁波が当たったものの位置を測る魔法。それを障害物の多い森の中で使用する。




でも、それでも、私は助けるって約束した。ミカだけは絶対に助けるって約束した。




「な、ん…!??」

点、点、点点点点点点点点…。

まばらだが反応が私を囲んでいる。『何か』に囲まれてる。

どれだけ見渡しても、その反応が示す『何か』の姿は見当たらない。


まるで存在すらしてないかのように。




あの時、生前最期に会った時に。約束した。

ミカには冗談と捉えられたけど、絶対助けるって約束したんだ。


だから──




「こんな時に……っ!?」

私の周りを囲っているのは森の木だけ・・・・・で、反応は木に重なるよう・・・・・・・にあるのだが。焦った私はその反応を『誰か』と決めつける。

こんなところで時間を使ったら、ミカが手遅れになってしまう可能性だってあるのに…。




絶対にっ!!!

「──絶対に、死なせてたまるもんか」




まぁ、ミカは今忌み小屋で休んでるんだけども。












曇り空。

私の心を映したような泣きそうな暗い空の下で、ただただ私は捜し続ける。


ただでさえ木々に遮られた悪い視界が、さらに暗くなって見えづらい。



「ダストストーム」


子声でこっそり詠唱し、あたりに砂嵐を降らせる。



「あの、今急いでるんで退けてくれませんか?」



囲まれた。何にかはわからない、何かに囲まれた。

相手からの返事はない。



あたりにあるのは、私が吹かせた砂塵でより褪せ色になった山林風景。

でも、レーダーにははっきりと『何か』が捕捉されている。数十もの『何か』が見渡す限りいるらしい。



透過能力のあるモンスター。

とはいえ、砂塵を巻き上げても大まかな位置が目視できてないから、身体を透過する類の良くある透明化能力じゃなさそうだし。

影がない事から体色変化系の透明化でもない。もちろん、電磁波を使っているレーダーに写ってるということは屈折系の透明化でもないだろう。



おそらくコイツは、ハナカマキリのような擬態タイプ。

景色と完全に同化する事によって、あたかもその場に居ないように見せる能力だろう。厳密には透明化ではないかもだけどね。




「退かないってなら、こっちとしても攻撃しないわけにはいかないんですが」


…またしても反応はない。レーダーに映った反応を見ても身じろぎひとつしていないようだ、まるで生き物でさえないみたいに動いていない。






問題はこいつを迅速にどう対処するか。

前提条件としてある、コイツらを無視してでも一刻も早くミカを見つけないといけない。ってのを踏まえると極力戦いは避けたいのだが、この数で囲んでおきながらコチラの事をみすみす逃すわけもないだろう。



倒すにしても。ミカが近くにいる可能性もあるので、怪我してしまうような攻撃は攻撃は出来ない。

だが、この数を速攻で倒すためには、一撃で行動を出来なくする程度の威力を有した広範囲の魔法が必要。


躱すにしても、レーダーで捕捉できる限界域までびっしりといる透過能力持ちのモンスターを躱しきれると思えない。

もちろん、躱しながら適度にそれを狩っても、だ。






今はミカの安否を確認する必要から時間はかける事はできないし、雨などの水系魔法は低体温症を早める可能性があるから使えない。


炎系魔法はこの規模だと逃げ場を潰す事になり、一酸化炭素などでミカを弱らせる原因になる。


というか、自然現象が元の魔法しか使えない私が使える広範囲魔法というと、大規模破壊魔法がほとんどだし。災害レベルの魔法を使うだけで郷に被害が及ぶから使えない。




あぁ!!もう!!早くミカを見つけないといけないのにぃ!!

コイツらが邪魔してたら捜しに行けない!



……いや、逆に考えよう。ミカが近くにいなければ、超局所的な広域魔法程度なら放てる筈だ。それならコイツらを一斉に対処できる。


探知魔法だ。ミカを魔法で近くを探せば全てが一気に片がつく!!



「クレヤボヤンス!!!」

どこでもなんでも見れる魔法。千里眼。これならコイツらを刺激する事なくミカを見つける事が、って、ん???



あれ?「クレヤボヤンス!」



景色は何も変わらない。遠視の魔法だから景色が変わる筈なのに…。

なら同系統魔法で。



「リモートビューイング!!」



視界が変わらない。

じゃあ…!


「……バイロケーション!!!!!!」


っクッソ!

なんでこんな時だけなんでこんな時だけ使えない魔法ばっかり!!


遠視系魔法なら、簡単に見つけられると思ったのに……!!


……なら!

『サーモグラフィ』

頭の中で唱えると、景色が深い青一色に支配される。


ヨッシ!!今度は成功!!


物体から発せられる赤外線を色として見る感知系魔法。

赤外線はありとあらゆる物質から発せられ、それは温度の何乗かと比例して上がっていく。

レーダーと違い、赤外線を感知するこの魔法では。体温のない霊体を見れなくでき、逆に体温のある生物を見つけることができる筈だ。


ミカの身体のサイズ的に、正面はもちろん、あのたわわじゃあ横で隠れたとしても木からはみ出すし。

ここから見える遮蔽物は木しかないから、体温でその周りの温度が少し変化してる筈。

それがないという事は、おそらく近くにミカはいない。


条件付きだが、これで制限は消えた。

目視できる範囲ならどんな魔法でも使える!



「キュムロニンバス」

「ドライエリア」


雨が今にも降り出すほどに、曇り空が一層暗くなる。

それに反するように辺りの湿気が消え失せる。


もちろん、これは準備。

遊びで作っていた時にたまたま出来た、局地的な大規模攻撃魔法を使う為の準備だ。


積乱雲を作ったのは時間短縮、乾燥空気層を作ったのは副現象の抑制の為



本命はこっちだ──

「クラウドダウン」


雲が、空が落ちてくる。

質量をもって落ちてくる。




ダウンバースト

現代でも災害のひとつとして知られる。風害。


積乱雲が強い上昇気流によって生まれるのと反対に、なくなる際には雨によって強い下降気流を生じる。

この時、乾燥空気層があると融解熱などで空気は冷やされると密度が増し、下降気流が地面に大きな影響を与えるほど強くなって、降水は蒸発する。


現代において『乾いたダウンバースト』と呼ばれる現象。

瞬間風速30km/秒という、強力な台風と同じ風で周囲を薙ぎ払う局地災害。


音をもって顕現する。





吹き抜ける。

吹き荒れる。




風が、突風が、


荒れる!!




もちろん威力は抑えてある。

雨ほどではないにしても風でミカの状態が悪くなる可能性だってあるんだし。この神山の木を倒すなんてとんでもない事だから、そこら辺の配慮はもちろんしてある。


でも、この風圧では私に攻撃する事はできない!!



「今!!!!」

風に押されながら敵の間を抜けていく。

木々を抜ける。


走れば走るほど新たな反応が生まれてくる。

コイツら無限にいるのか?そうとも思えてくるほどだ。


暴風の中、サーモグラフィで捜しながら走るがミカは見つからない。


「っクソ」


躱しきれない。

早くしないと効果が切れてしまう。


怪我した足を必死に動かす。



急げ。

急げ

急げ!!

急げッっ!?



「…ぇ?」



サーモグラフィに見える、紅一点。



真っ青な景色のなかに一つ、小さな小さな赤い点が見えた。

明らかに人間大はない大きさの動物が草の隙間に隠れている。身体の形状と行動から考えてネズミか何かだろう。



なのにその反応はレーダーには映らない。

動いてもいるし絶対にいる筈なのに、なぜかレーダーには映らない。


レーダーは電磁波の反射で場所を比定する。

言わば、コウモリやクジラなどが視界の代わりとして用いるエコーケーションの電波版のようなものだ。


だから物理的なものの場所なら確実にわかる筈であり、それが…。




……あれ?



物理的なものの場所・・・・・・・・・なら確実にわかる』?


って、この原理だと霊的な存在って感知できないんじゃ…。

あいつら物理的干渉受けなさそうだし…。



「…いや、まさか」



一本の木に近づく。

反応が近づく。


そして、触れる。







へんかがない。ただの しらかし のようだ。







………スゥー




「…レーダー切るか」


そうして私は、ミカを捜しに駆けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

しんまい!! 試行錯誤の神様が往く かじゅう @0141kazyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ