玉子を咥えた巳さん
朝霧が覆う祭壇に、私とミカの二人。
二人は祭壇の方を見ながら、眉をひそめた微妙な顔をしていた。
祭壇には、見慣れない濡れ物が置いてある。
そう、
白くて丸い、表面は硬いが脆く、落としたらすぐに割れてしまいそうな、そんな物体。
多くは鳥類や爬虫類のメスが生み出し、必死の思いで温(ry
『卵』だ
「も、申し訳ありません!!二度もこんな失態をっ!!!」
ミカが、すぐにでも切腹しそうな雰囲気で頭を下げてそう言う。
神様と思われてるから若干距離が遠いのが少し寂しいが、それは後々解消していこう。
今は卵の話だ。
「いや、ミカの所為じゃない。
昨日ミカが帰ったあと、忘れ物がないかしっかり見といたから」
卵に気づいたのは、起きて数分経った後。
いつもどうりミカを待っていた時に、昨日と同じ場所で、おや?と発見した。
昨日の朝の事が気がかりで、昨夜は入念に辺りを調べておいたのだ。
その時は、おかしな物は見つからなかったから。『まぁ、そんな事何回もする娘じゃないしね』とベットに入った事を覚えてる。
そして起きたら同じ場所であったのだから、わかりやすい。
「……多分、夜の間に誰かがこっそり捧げたんだと思う」
「誰かが、ですか?」
「そ、自然の力でここまで来た、とは考えにくいでしょ?それも二回も」
「なるほど、この様なところまで自然と卵が転がってくるなど考えられませんからね。だから何者かが捧げたと。流石大神様です」
となると、人為的なものと考えた方が自然だ。
この一帯の他の郷は、族長のナガスネを恐れて離れていった。
だから、この近くには私達の郷以外ない。人が原因ならこの郷の人間以外はあり得ないとみていい。
「一応みんなに、夜出歩いてないか確認しといて?夜の山は危ないからさ」
「ご心配いたみいります」
さて、あれがミカの所為じゃないとわかった。
夜にこっそりここに来てる輩がいると、神の坐す山に分け入る愚か者がいるともわかった。
前に、あのアホ二人が、この山に入るなんて馬鹿やった時に語ったが。
ミムロ山は、簡単に登っていい山ではない。
狩りにここを使う事はないし。仮に狩りに行くことがあっても、緊急時に麓のかなり低いところに踏み入れる程度のものだ。
この山は正しく神山。
軽々しく、二度も三度も、しかも祭壇まで来るなどあってはならない。
もしそんな事をした暁には。大神様の怒りに触れ、今代が末代になり、それは波紋のように周りへ伝染していくだろう。
絶対に怒らせてはいけない。絶対に侵してはいけない。
それがこの山だと。
郷ではそう伝えられてきた。
もし祟りが始まれば、そうそう旱害どころの話では済まされない。
だから、やる事は二つ。
確認と、対処。
説得できたなら万々歳。姿がわからず、話し合いで対応できなければ。
その時は、仕方ない。
「じゃ、ご飯お願いね」
「承知いたしました」
さてと、決戦は夜だ。
蛇の次に出るのは鬼か、それとも
──人か
……次の日
「…ぁぁぁあぁあぁああああああ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!!!!!!!!!」
「あー、えっと、まぁ、なんとなくお察しますが。…どうなされましたか?」
祭壇には、昨日も見た濡れ物がポンと置かれている。
そう、
白くて丸い、表面は硬いが脆く、落とし(ry
『卵』だ
「い、いつの間に……っ!」
「……心中お察しします」
だって、昨日の夜から朝までずーっと見張ってたんだよ!?ずーっと!!
昨夜の夕飯で郷の誰かが来たわけじゃないという事は確定済み。夕飯から帰った後の忘れ物は確認した。
昨夜に卵は絶対なかった。確実に言える。
卵はなかった。
なのに!なのにぃ!!なんで卵が、またここにあるんだよぉ!?
なんでぇ!??ちゃんと見張ってた筈だよねぇ!!?ちゃんとぉ!!!
よ、よし、おちけt…
落ち着け、冷静に分析しよう。
卵があったのは、私が見張っていたところからは、ちょうど死角になる場所で。昨日とはちょうど反対側。
一昨日と、昨日と、は同じ場所に律儀に置いてた癖に、見張っていた今日は反対側。
つまり、あの磐座に隠れれる程度の大きさで、それでいて私に見られたくなく、見られない方法を思考できる存在。
「ご報告します。
昨日少し夜を更かし、郷を出るものがいないかと見張っておりましたが、誰も家を出るものはいませんでした。
何かお役に立てればと思ったのですが…、申し訳ございません」
「いや、誰も出てないって事はわかったから。
ありがとね調べてくれて」
「!…勿体無きお言葉です」
あの磐座はそこまでの大きさはない。小さな椅子として腰掛ける事ができるぐらいの大きさしかない、とても小さな岩だ。
もちろん腰掛けるのは不敬だからやらないが、それぐらいしかない。
私から隠れるようにあの場所まで行ける人間なんて、いない。居たとしても、赤ちゃんサイズでもなければ無理だろう。
これは人間の犯行ではない。
なんらかの動物の犯行だ。おそらく、ついてた液体はそいつの唾だろう。
つまり犯人は、磐座で隠れれる程度の大きさしか持たない、卵を咥えて持ち運ぶ事ができる動物。
小動物の犯行、かな?
ただ、疑問なのは。
なぜこんな事をやっているのか。
人なら、信仰心を示す為に供物を捧げるのは普通だろうと思うけど。
今回の相手は動物だ。飼われてもない野生動物。
どうして、ただの野生動物がわざわざ私にバレないように卵なんて捧げにくる?
動物に信仰心なんてあるのか?
いやあるとして、私にバレてはいけない理由ってなんだ?
うーん。
そいつに直接聞けたら簡単なんだけど。野生動物が言葉を話すとは思えないし……。
いや、この前のような、ファンタジーなヤツなら可能性として考えられるのか?
「……はぁ。とりあえず、捕まえるのが先決かな」
相手の全貌は見えてきた。
小さいと言っても、卵を咥えれるならそこそこ大きさは必要だ。
上から、磐座を見張っていれば簡単に見つけられるだろう。
次の日。
「………………」
さいだんに、みなれた忌々しき、あのクソみたいなぶったいが、おかれてある。
そう、
白(ry
『
「……ぁ、ぁぁあああ"ああ"ああ"あ"あ"あ"あ"あ"!!"!!"!"!"!"!"!"!" ! " ! " ! "」
「絶っっっっ対!!!!捕まえてやラァぁっぁぁああああああ!!!!!!!!」
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