御室山の野口神
「ギ、ギギギッッッ‼︎」
痛いイタイ痛い痛いっっ!!!!
足の、右足の太ももに、蛇の細い牙がグッサリと刺さってる。
初めて感じるタイプの激痛。
ヤツはそれを離さない。
郷で行われている模擬戦は、あくまで模擬であるため命をかける事もなく。
狩りではこれほど細長い刃物を持った獲物なんていない。
クマの爪はここまで長くないし、イノシシの牙もここまで細くない。それ以外の動物は基本体当たりだから打撲。
だから剣で貫かれたような痛みというのは初めてだったのだ。
だから、少し反応が鈍った。
でも。
これは致命傷じゃない。
足が使えなくなっただけ。
だから、これぐらいっ!!!
「ウィン、ドォオ!!!」
葉が、枝が、ヤツに打ち付ける。
だがヤツは、私か抵抗したからかグッと力を入れ。
「ぅあ"あ"あ"!!?!?!」
振る
「ガッっ!??!?!!!」
振る
「グァッっ!!?!?!」
私をブンブン振り回す。
それはまるでお祓いをする巫女のよう。
「あグっっ!!!?!」
そしてヤツは、
ヴァ!!!
地面に向かって。
叩き下ろす。
打ち付けられる。
…このまま、
やられて、
たまるか…!!
思考が加速する。
何が出来る魔法それで出来る事は自然現象だけでもその場所その時点で発生が難しい物は無理なら現時点で可能なモノ地面にあるものは枯れ草落ち葉落ち枝石幹根これで何が出来る枯れ草無理落ち葉飛ばせるけどダメージがない落ち枝飛ばせる落ち葉よりダメ増やせるけどあんまり変わらない石ロックバレット難しい発生が遅すぎる幹どうやって攻撃に転用するかわからん根同上それ以外ナメクジ何になる葉っぱ落ち葉といっしょ風強くないつむじ風は残ってる、…残ってる
コレだ
地面が迫りよる
ぶつかる?
いや
間に合わせる。
「ダストッ────
────デビルっッッッ!!!!!!!!!!!」
ぶぶぶおおおぉ
ぶぶぶぶぶ おおぉ
ぶぶぶ おお
ぶぶぶ ぉお
ぉおお おおぉ お
ぉお おお
おおおおおおお
ぉぉぉ お
おお おおお
おおお ぉお
おぉおお
ぉおお
ぉお
!
! !
渦を巻くは旋風。
塵の悪魔が、風を巻く。
「─────ッッッ!!!!?!?!!???」
ヤツが声なき声で叫び暴れ、堪らず私を吐き出す。
弾き飛ばされる。
鮮血が舞う。
身体は宙に浮いている。
ヤツはまだ怯んでる。
チャンス
今できる魔法の中で最も攻撃力が高いのは
ロックショット
──これで!!
しとめる!!
「ロックショッt ァグァっッッ!??!?!??!?」
幹にあたる。
私の軌道上にあった木の幹に足が当たる。
作用点が足にくるなら、人間の構造上必ず作用点から見て頭側の方に重心が来て、なおかつ頭側の方が長くなる。全体にかかる力は重心から出た力と考えられる為。出来るのは私中心の後ろ方向ベクトルの力のモーメント。
つまり、私の身体は仰反るように回転する。
もちろん──、
しまっ、軌道がっ!!
──放物落下を基準に考えられていた狙いも一緒に。
ヤツがいる場所は、
石弾の射線上から、外れている。
せっかく、
せっかくのチャンスだったのに!!!
ヤツが大きなつむじ風から抜け出す。
そして……。
カ
ッ
・
・
・
!
ヤツは身を呈すように射線上に向かい、石弾を食らった。
「………、……は?」
カランカランカン……・・・
木に弾かれた石がコロコロとどこかの隙間に入る音が、茫然と鳴り響く。
石弾は蛇の鱗を超え、身体を抉っていた。
その傷からは、黒いモヤが止めどなく流れ出している。
なんで?
チィー……。
弱々しく威嚇しながら、私を睨んでゆっくりととぐろを巻く。
怪我の隙間から絶えず流れ出る黒く禍々しい霧が、あたりを埋め尽くす。
ヤツに戦いの意志はある。力が入らない中何とか頭を上げようとすらしている。
それなのに、なんでヤツは自分から石に向かった?
何の意図があってそんな事を?
チィー……・・・
もう、立てるような傷ではないのだろうに。ヤツはグイッ、と力を入れて立ち上がる。
そして、
「なん…、…」
ヤツは黒いモヤになって消えた。
「なんで……?」
──「守りたい人がいる者は強い」というのは、守るために行動が制限、取れる選択肢が少ない故に追い詰められ、リスクに対するハードルが著しく低下した結果であり。精神状態的には自棄に近い。
ヤツが最期にいた場所の後ろには、大きな大きな木があった。
その木の根には大きな隙間がいくつも出来ていて、その隙間を覗くと綺麗な黒のアオダイショウがいるのが見えた。
「…あ」
──普段より確固とした覚悟を持って挑む精神的な有利。
そしてその覚悟から来る、普通なら選ばないような選択を取る事によって相手の読みを外させる事。
基本的にこの二つが「守りたいものがいる者は強い」という事象を生み出している。
くりんとした何もわかってないかのように純朴で無垢な目で私を見ると、彼らは隙間から顔を覗かせ、とぐろも巻かずにこちらを真っ直ぐ見つめた。
──とぐろを巻くのは、自らの体を丸めて次の行動を素早く行う為の防御としての意味が強く。敵が近づいてきた時には、トグロを巻いて威嚇し、それでも引かない場合に噛み付く。
ヤツを仕留めたのは私だ。
この小さな蛇達より、あの大蛇の方がよっぽど強いという事を、知ってるだろうに。
私はくしゃりと顔を歪め、彼らに向き合う。
「ぁあ、、。」
そして、暗い暗いベージュ色の深緑の中。
私は、一つ呪文をゆっくりと、まるで謝罪するかのように唱えたのだった。
「
──次の日、私はいつも通り木の上に登り、ボーっと郷を見つめる。
眼下では、ミカに「待てー」と叱られ、二人の子どもが駆けていた。
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