社叢中の守護神
紅葉のように黄土色に色づいた葉々から光が木漏れ、祝福のように睨み合う私とヤツを輝やかせる。
まるで、世界が
チィーー…っ!
さて、今回の戦いだが、アイツらがいないとなれば話は変わる。
まず守る必要がないから先行が取れるし、避け以外での移動が可能になる。そして何より大きいことは、積極的な攻撃ができるという事だ。
そもそも「守りたい人がいる者は強い」というのは、守るために行動が制限、取れる選択肢が少ない故に追い詰められ、リスクに対するハードルが著しく低下した結果であり。精神状態的には自棄に近い。
普段より確固とした覚悟を持って挑む精神的な有利。
そしてその覚悟から来る、普通なら選ばないような選択を取る事によって相手の読みを外させる事。
基本的にこの二つが「守りたいものがいる者は強い」という事象を生み出している。
逆を言えば、この状態は必然的に選択肢が狭まっている状態と言える。
だからこそ、アイツらという守る対象がいないとなると戦いやすい。
相変わらず、遭難の危険とかから雨を伴う事象とか炎とかは扱えないが、それでもただ相手だけに気を配れるというのはやりやすいのだ。
チィーー…っ!!
勝利条件は変わった。
『ミカが山を上がるまでにヤツが郷まで降りてこれなくする』こと。手段はなんだっていい。封印でも、拘束でも、殺害でも。
とりあえず、コイツが郷に降りられないようにすればいい。
ミカがこの化け物とあったら、こんな化け物が郷に降りるなんてあったら、みんな食われる。
それだけはいけない。ダメだ。
絶対に、何としても止めないと。
でも問題は、コイツをどうやって止めるか。
封印なんて方法わからないし、魔法は自然現象しか操れないのにどうやって拘束できる?
バインド?
それはただ絡まりやすくなるだけの魔法だ。蛇の拘束には使えない。
トラップ?
自然現象でできる即効の罠なんてたかがしれてる。
もちろん殺すにしても問題がある。
攻撃をして痛がっていたので、アイツに与えたものが危険と判断されている事は確かなのだが。
あの化け物をどれだけで殺せるのか、点でわからない。
衰弱を狙おうにも、実力が拮抗してる私とアイツとでは厳しい。
というか、そもそも衰弱するのか?動物としての機能がまだ残ってるかもわからない。
もし残ってるなら、変温動物だし寒さに弱いはずなんだけど…。
チィィーーッッッっ!!!!!!!!!
ってマッズ!!
流石に長考しすぎた!!
ヤツが黒いモヤを纏ってこちらへ突っ込む。
それはもう、対策済みだってのっ!!
「リーフマシンガン!!」
ブォぉぉおぉおおおおおおおおお!!!!!!!!!
リーフマシンガンの時に生み出される風でモヤを吹き飛ばし、共に飛ばした葉々で攻撃する。
さすがに葉っぱだけじゃ、止まってはくれないみたいだけど。
目隠し程度にはなったかなっ!?
「シュートスラッグ!!」
斜めに避けながら、葉っぱの中にナメクジが混ざって飛ばす。
が、
さすがにナメクジの粘液が蛇を溶かすなんて迷信は効かないか…。
「コールドウィンド!」
冷たい風を吹かせる。
さすがに氷結まではしないだろうけど、変温動物である蛇ならこれで動きが鈍くなっていくはずだ。
ドォォォォオオオオオオンンンンンン!!!!!
ヤツが着地する。
私はすでに体制を立て直してる。
ヤツがすぐさまコチラを睨んでとぐろを巻きなおそうとした。
こんな隙、逃す奴がいるか。
「ロックバレット!!」
チィッ!!!
ヤツが大きく息をすい込む。
カッ!!!!
当たった、がヤツは気にせず吸い込み続ける。
ブレス。
なら吹き飛ばす。
「ウィンド!!!」
ブォォぉぉぉぉおぉおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!
黒いモヤが風とがぶつかり。
…──っッッッ!?!?!?!?
モヤが吹き飛ぶ。
いない。
奇襲が来る。
バカの一つ覚え。畜生にはやっぱり頭はないようだ。
上、いない。
右、いない。
左、いない。
後ろ、いない。
い、いない!?
私は手を掲げながら、右に左にと体を振ってヤツを視界に入れようとするが。ヤツの姿はいくら探せど見つからない。
………クッソ、やられた!!!
隠れられた…!
モヤの煙幕を利用して隠れやがった。蛇のくせにイカみたいな事しやがって。…いや、用途的にタコか。
「…リーフシールド」
私を中心に風が周りだし葉が舞い始める。
つむじ風が私を中心に回り始める。
来れば、舞ってる葉で顔を傷つけるのは必至。とりあえず、これでヤツは迂闊には私を攻撃できないだろう。
少し心許ないが盾にはなってくれる筈だ。
あれ?でもつむじ風って…。
いや、今は関係ないな。戦闘に集中しろ。
とりあえず相手の位置把握だ。
早急にヤツの位置を特定しなければいけないのだが。
かと言って、探すために歩き回ることも出来ない。
相手に戦闘の意思がある場合、致命的な結果になる可能性がある。
蛇としての性質が多分に残ってるなら、この場合逃げる筈なのだが。もしヤツが蛇っぽい化け物だった場合、この行動は自身をより有利な立ち位置にする戦術的な行動と考えられる。
アカハヤたちが逃げきる前の煙幕で、姿を隠し飛び上がって突っ込んできた前例からもこの事が考えられるだろう。
戦闘において姿を隠す利点は大きく。相手からの反撃が来にくい、精神的に優位に立てる、攻撃のタイミングを自分の思い通りに出来る。攻撃が効果的な距離まで近づく事が出来る。などなど、かなりの優位を取れる。
そしてこの場合、迂闊に動く事と更に危険だ。
効果的に攻撃出来る距離に自ら近ずく可能性や、精神的優位を相手に知らせる事になったり、と全くといっていい程良い事がない。
相手の位置を知った上で動いたなら別なのだが、わからないうちは、何時でも何処からでも攻撃が来てもいいように構えておいた方がいいだろう。
「……っ」
しかし、本当にヤバいのはヤツが正真正銘の蛇である場合だ。
コールドウィンドでここら一帯が寒くなってるはずだから。長期戦になればなるほど有利になっていくはずだけど。それは相手がコチラとの戦闘を望んだ場合のみの話。
ヤツが逃げてしまえば話は変わってしまう。
「…どこにっ?!」
山の側へ逃げてくれたならまだいい。問題は郷の方へ逃げた時。
今は秋の終わりあたりだから、ここからどんどん寒くなる。
蛇は冬の間、地中に潜り冬眠して過ごす生き物であるため、コイツが次に現れるのは春。だいたい3月ごろと目安はあるが、それも目安でしかない為、正確に起きる時期はわからない。
そのため、来年の春は起きる時期がわからない化け物が郷のすぐ近くで潜伏している、という状態になる。
「早く、しないと…っ!」
そして、冬眠中の蛇が食事をすることはなく、冬眠を終えてすぐはエネルギーが少ない状態が続く。そのため越冬後の蛇は空腹だ。
さて、人間大の空腹な蛇が郷の近くで急に現れるとどうなるか。
考えるまでもない、
「………っッ!!」
食われる。
だから、麓側を重点的にゆっくりと身体を軸回転しながらヤツを探していたのだが。
「どこ、行きやがった、アイツ…っ!」
隠れられる場所から位置を絞ろうにも、そもそも隠れ場所が無限にある森の中ではそれもできないし。物理的干渉を一切しないヤツの体質から草木の揺れからの特定もできない。
体色も山に隠れやすい保護色で、蛇そのものの特性からか足音も出さない。
「………っ!!」
そもそも蛇は潜伏が上手な生き物だ?
冗談じゃない。
ここでヤツを見つけないと大惨事確定なのにっっ!!!
私は冷や汗を掻きながら、どこだどこだと探し回る。
かれこれもう1分は経ってる。
逃げたか?
もうとっくに逃げていたのか?
私は、トンデモないミスをしでかしたのか…?
戦闘中としては、あまりにも長い時間動かないものだからもう疑心暗鬼になり始めている。
…戦闘において一番やってはいけない事は、精神的弱者になる事だというのに。
ゆっくりではあるが、もう足を進めている。
まだ見つけてない。見つけていないのに、私は…。
「 … あ 」
ヤツが
まっすぐ、
むかって、
足
牙
ささ
「っっっっっgっgggがガがgガががガガガガがァ亞ァァァxあああああ亞あああああa aああゝああああああ亞亞あああああああ亜阿あああああ亞ああああ嗚呼ああああ啞ああああゝあああああああ亞あaaあああああアああゝaa aああああ亞ああああああ亜ああああaあアa aあ亜ああ亞ああ!?!?!?!?!?!?!!?!??!?!?!?!?!!??!!?」
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