巫山戯た童子
掘立式建設物と竪穴式住居が混在する平野。
少し行ったところにはハツセ川と言う川が流れており、イヨド湖という大きな湖に流れ着いていく。
ここは狩猟採集民族の郷。トミの郷。
そこでは土を捏ね、土器を作り。槍を磨き。刃を交え。狩りにいく準備をし、各々が己の好きに暮らしてる。
「…………。暇だ」
地震を起こしてしまってから約一週。
私は郷の近くにある巨木で頬付きながら。郷のみんなの営みを、ただただボケーっと眺めていた。
理由??
やる事がないから。
まず魔法でみんなの手助けをしようにも、やる事がない。
小さな問題は郷の皆んなが自力で解決してしまうし。一週間程度で大きな問題が、そう何度もおこる訳もない。
食料は干害の影響で獲物の動きが鈍いことが多いので、いつもより安定して狩れるらしいし。
水は湖がとても小さくなったとはいえ、まだまだ残ってるから大丈夫だし。まじで何もない
一応みんなにとっては大神様なんだからと、どんな小さな事でも祈ってくれたら何でもしようと言っても。誰も何も祈ってくれないし。
せいぜいあって、無病息災とか、厄除開運とかだけど。それはやり方がわららないから出来ないし、神様としてもやる事がない。
それに。なんていうか、地震の起こしちゃったせいか、避けられてるっていうか、腫れ物みたいな感じに扱われてる気がするんだよなぁ。
別に、『おっす!大神!!』みたいな感じで、気軽に接してくれていいのに……。
この状況はなんとか改善したいけど。
唯一普通に話せるミカに言っても、
『お、畏れ多い。今でも、大神様には多大なるご迷惑をお掛けしているのに、これ以上など……っ!!』
とかで、まともに取り合ってくれない。
いや、迷惑じゃないから!!なんならもっと迷惑かけて!!
暇つぶしの魔法もそろそろ飽きてきたし、暇で暇で仕方ない。
ここ数日はそんな感じだ。
「はぁ…。なんか面白いことないかなぁ……」
「だ、ダメだよ!お兄ちゃん!」
ん?おや?
木の下から声がする。
「大丈夫、大丈夫!要は大人にバレなきゃいいんだろ?」
齢8歳あたりの兄弟。アカハヤとクロハヤが郷の方とミムロ山の方を交互に見ながらコソコソと話してる。
あのヤンチャ供…っ!また何かやらかすつもりか……。
聖女だった頃、こいつら、というか主に兄の方には苦労させられた。
この世界での聖女は、聖職を主にする何でも屋みたいな感じだったので。子守とかも結構させられてたのだが。
特にこいつは大変だった。
よく逃げ出すは、他の子に喧嘩を売るは、よく物を壊すは、よく物をなくすは……。
そのくせ。怒ろうにも、センスがいいのか全然捕まらないし。
なんなら、慣れてきてのか。落とし穴とか、捕縛トラップ張ってきて楽しみだしたり。
いつも間にか、家を魔改造して罠だらけにしてたり。
いつの間にか弟子なんか作りやがって、二人では到底できないような大掛かりな罠を張り出して!
そして引っかかった私を見てケラケラと……ッッ!!
なんか、思い出したら腹たってきた。
けどまぁ、このガキはそんな奴だ。
干害で、あんなにしおらしくなってたから、少しは成長したのかと思ってたんだけどな。
やっぱ根は変わんないか……。
「で、でも!!危ないよ!?」
弟の方がアカハヤを止める。
「いーよー!クロハヤー、そいつを止められるのはお前だけなんだからねー!」
クロハヤは兄のアカハヤとは対象的に。結構おとなしいってと言うか、素直な子だ。
いつも誰かの後ろでオドオドして、誰かの後ろについて行こうとする。周りを気にして合わせていくタイプの子。
現代で生きてた時によく見た、the陰キャって感じの性格。
そんな感じの性格だからか。いつも(悪い意味で)行動力の化身みたいな、アカハヤの手伝いをしていた。
それで、アカハヤのいたずらがバレて、クロハヤと一緒に叱られてた事を鮮明に思い出せる。
だから多分。なあなあでアカハヤの悪事に加担しちゃうんだろうけど……。
「ま、その時はその時か」
人殺しとか、強姦みたいな、よっぽどの事じゃなければ見逃してやる。飽きるまで見守っといてやろう。
ま、暇つぶしにもなるし、ちょうどいいかな〜。
「大丈夫だって!ちょっと山に入るぐらいなら大神様も許してくれる筈だよ!」
………………。
「……ブロークンブランチ」
バキッ!
…バサ!!!!
「はい、アウト。それは“よっぽどの事”なんだわ」
流石に、ミムロ山に踏み入らせるのはヤバい。
ミムロ山には祭祀を山内で行う時以外、誰も踏み入ない。
その為、動物たちにとっては人という天敵がいない、とても安全な土地になっている。特に禁足地なんて聖女ですら入れない禁断の地だから、どんな動物がいるかわからない。
アイツらは、ミカや私が簡単に入ってるから勘違いしてるのかわからないけれど。ミムロ山は、細心の注意を払いながら登らないといけない、とても危険な山なのだ。
そもそもこの山は全なる神の頭の坐す神山を、軽々しく登るとバチが当たるし。万が一、禁足地にでも足を踏み入れたら本当の大神様の怒りを買ってしまう。
そうなれば、また郷に天災がおこってしまう可能性だってあるのだ。
「……絶対に帰らせないと」
「ほ、ほら!!大神様も怒ってるし、やめようよ!!」
「ふ、ふん!!俺には関係ないね!!行くって言ったら行くんだよ!!」
「え!?ま、待ってよ!!」
少年たちは木々の中に踏み入れる。
仕方ない。
「……ま、家に帰るまで遊んでやるか」
麓までなら、大人は普通に行ってるから大丈夫だろうし。
それに、万が一動物が襲って来ても私が守ってあげれば問題ない。
流石に、それ以上行ったら。祟りがヤバいから本気で追い返すけどね。
…さてと、こいつらを追い返すような魔法か。
それも、本気で攻撃して倒すわけじゃなくて。ただびっくりして、帰ってくれたらいいだけだからー……。
派手さ重視で攻撃力皆無な、ネタ魔法主体で出せばいいかな?
「ミストエリア」
ともすれば!!
まだ朝早い今の時間なら霧を発生させられるし。
この太陽の角度ならまだ簡単にできる筈!
「くらえ!!トミ郷フラッシュ!!!」
ピカ!
「ん?…なんだ反射か」
「うわぁぁああああ!?!?」
クロハヤが尻餅をつく。
アカハヤは見てなかったか。
「ッチ!」
…運のいいクソガキめ
「どうした?大丈夫か?」
「ゆ、幽霊!!!幽霊がぁっ!!!」
「は?……どこにも居ねーじゃん」
「居たんだって!!」
今使った魔法は、影を霞に映す『ブロッケンファントム』という魔法で。
水分と温度を調整し霞を発生させ、ちょうどいい位置に光がくるように日光を反射させ、いい具合に散乱させる、という。結構な難易度と多大なる魔力消費を誇るくせに、影をその霞に映すという効果しか得られない。難易度と使用魔力に対して、効果が全く見合っていないクソ魔法だ。
マジで糞、二度と使うかこんな魔法。
費用対効果が少なすぎる。『ウォーターボム』で地震を出す時より疲れるって絶対割に合ってない。
「見間違いかなんかだろ、早く行こーぜ」
「お、置いてかないでぇ!!」
アカハヤが足を進め、それに置いておかれまいとクロハヤが後を追う。
まぁ、見てないみたいだし。あれぐらいじゃ帰んないよなぁ、コイツは。
「じゃあ、次の魔法だ」
:
:
;
「フリーフォールバグ」
「ぅわ!!?!……って、なんだアオムシか」
「やっぱり怒ってるんだよ、帰ったほうがいいって」
「(ファミチキ下さい……)」
「今、ファミチキ下さいって言ったか?」
「え?言ってないよ?……てか、ファミチキって何?」
「しらね」
「シュミラクラゴースト!!」
「う、うぁぁああああ!?!?!?!オバケぇぇええ!!」
「驚きすぎ、あれただの木だぞ」
「っもう!グランドサウンドっ!!」
「ね、ねぇ……なんか、音、聞こえない??」
「……ファミチキか?」
「違うよ!!?」
「早く帰れ!!ブラッドレイン!!!」
「うわぁぁああああ!?!?!??雨!血の雨がぁ!?!?」
「ッッ!!??」
「か、帰ろうよ!ねぇ!!!」
「だ、だれが帰るか!」
:
;
・
郷を離れてから30分くらいか。景色はガラッと代わり、黄土色と深緑の葉々がジメジメとした世界を作り出す。
「ぜぇ、はぁ…」
ダメだ、アイツら全然帰らない。
結構怖い魔法打ってる筈なんだけど、全然帰ってくれない。普通に『うわ!?』とか言ってたから、怖がってないってワケじゃないみたいなんだけど。それが逆に意固地にさせているみたいだ。
そろそろ禁足地にも近づいきたから、本格的に返さないとヤバいのにぃっ!
なにか、何か策は……。
そうだ!!
「サンドマシンガン!」
ブォぉぉおぉぉおおおおおおお!!!!
「っいた、イタタ!!!」
「痛い!痛い!!」
風で小石を舞い上げてアイツらに当てる。
もちろん目とかに当たって失明とかしないように、心臓より下あたりを狙ってるから安全だ。
流石に後遺症の残るような怪我をさせるのはヤバいからね。
「クロハヤ!こっち来い!こっち!!」
木の裏に隠れて風をやり過ごす。
よし、
これはあくまで、舞台を整えるセット。
本番はここからだ
今まで、私は魔法を一つ一つ発動させてきた。
魔法を研究する時、対照性を保つためにしてきた事で。言わば癖のようになっていた。
別に、魔法を同時発動させても、順番に発動させても、消費魔力は同じぐらいだったから、いちいち分けるの面倒だしってわけじゃない。
本当に、面倒とかじゃない。
こ、コホン!
ともかく!一つ一つ発動させていたけど、全く異なる魔法どうしを足し算のように足して魔法の効果を上げる事が出来るんじゃないだろうか?
特に、
「シュミラクラゴースト!!!」
「からの〜!ランダムウィンド!!」
勘違いを主題に置いた魔法なら!
「うっ!」
二人は今、風でしっかり目を開けてられないし、小石のせいで他に目を向ける余裕なんてない。
風から逃げようとしても、今私が乱気流を起こしたから逃げようがない。
こんな不安定な視界の時に、『目口がついてる人型の何か』っぽく見えるものを見たら、どうなるか。
「う、うぁぁぁああああああ!?!?!?!?!」
「お、おい、大っきい声出すな!!…い、いいか?ゆっくりアイツの方を見ながら下がってくんだ」
「よっし!!成功!」
その人型の何かを、バケモノかなにかと勘違いする。
現代なら、これでもただの自然現象だ。で済ませてしまうかもしれないが、ここは原始時代。
まだ神も霊も信じられてる時代だ。最悪、トラウマレベルだろう!
恐れろ、恐れろ……。
ブォぉぉおぉぉおおおおおおお お お お お お お お!!!!! ! ! !
「ん?って、あれ?なんか風強くなってる?」
ちょっとハイになり過ぎてたかな?
「弱くなれ〜弱くなれ〜」
これで良しっと!
さーって、ちょっとした想定外も対処したし。コイツらのアホみたいなビビり顔を堪能するとしよ、う……?
「うん?風が弱くならない??」
ザァァァぁぁああああああ あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! ! ! ! !
葉も舞い踊る。
「というか、だんだん強くなってッっっ!!!!!」
「風よやめ!!」
ブォォぉぉぉおおオオオオオおおおおおお!!!!!!!!!!
「え?なんで??どうして!?魔法が制御できないッッ!!!なんで!?今までこんな事一度もなかったのに!!!」
風が止まない。葉々が舞い踊る。
マズイマズいまずい!!早く止めないと、アカハヤたちが怪我しちゃう!!止まれ!止まれ!止まれ!
「止まれッッ!!!!!!」
ふっ…………。
「……え?、止まった?」
よ、よかっt──
シャーっ!
「……え?」
後ろから『何か』が聞こえる。
それはまるで蛇が外敵を威嚇する時に鳴らすような声。
恐れる二人は、私の後ろを見上げながらゆっくりと下がっている。
まるで、私の後ろに何かいるように。
いる、そこに何者かがいる。
蛇か、それ以外の何かなのか、鬼なのか。見てない私にはわからない。
もしかしたら、見なければ素通り出来た何かだったかもしれない。
見るなのタブー系の怪異は多い。いくら非科学的でも、転生や魔法がある時点で、どれだけバカらしくてもその可能性を考慮に入れないバカはない。
でも、この子達はもう見てる。
あったかもしれない禁忌を破ってる。
それなら、この子達を守るために、見ない手はない
私は、後ろの“それ”を刺激しないように、ゆっくり後ろを振り向く。
トグロを巻いてこちらをジッと見つめる人間大の腹の大きな蛇。
その後ろには、禁足地がもうすぐそこまで迫ってた。
シャーっ!!!
そこでようやく
私は気づいたのだ。
──『ああ、手遅れだったのか』と
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます