なゐ神、地を憂う
「──さて、と」
ここまで魔法で遊ん……、研究してきて、大体だけどわかったことがある。
・魔法によって引き起こされる現象は『物理現象』(正確にいえば自然現象)であるという事。
・想像してた魔法が物理的に不可能、もしくは限りなく難しい場合。想像に最も近く簡単な自然現象が起こるという事。
・魔法によって引き起こされる現象が難しければ難しいほど、タイムラグと疲れが大きくなる事。
大きく分けてこの三つだ。
まず、魔法が物理だった事。
一見矛盾しているように思えるが。……うん、私もそう思う。私だって魔法(物理)なんて信じたくないよ。
でも、そう考えざるえないような結果ばかり出るんだから仕方ない。
例えば。
『クリエイトウォーター』は手から水が出てきたり、空気中の水分が集まって水になったりする魔法ではなく。足元に水が湧いてくる魔法であったり。『ヒール』も急に傷が癒えることはなく。良くて『止血が少し早かった気がする…』程度の魔法だったり。
逆に、絶対に物理的に不可能な魔法、『クリエイトストーンゴーレム』なんかは全く発動しなかった。
質量保存則や、エネルギー保存則なんかに反する魔法は、どんなに簡単でも絶対に思い通り発動しないけど。
自然現象は基本的に絶対起こるという結果が出てるし。
物理的に無理な魔法は、必ず自然現象に置き換わって発生している。
まぁ。
そもそもが自然にとっての魂にあたる精霊にお願いして起こしている事だから、自然現象以外どうしても起こせない。
と考えたら。理に適ってるし、結果的にもそう考えざるえないだろう。
……認めたくないけど。
次。想像したものが難しい場合。それに近く、簡単なものになる事。
これは前述の『クリエイトウォーター』や『ヒール』でもわかる通りだ。
『クリエイトウォーター』は、水そのものの生成はできてないし。何もない空間で、温度変化を起こして凝縮するなんて可能性、限りなくゼロに等しいから。『水を作る』に近い、水が湧き出ると言う結果になった。
『ヒール』も。生物学的に、一瞬で回復したら返って命の危険があるからか、少し回復を早めるだけだった。
魔法を発見した当初は『私の身体、魔法によって出来たスワンプマン的な何か説』を唱えていたのだが、この法則を見る限り違うだろう。
ただ。これに関しては『ラック』…運など物理的に観測不可能、もしくは難しいものを操る魔法はどうなってるかわからない。
魔力が減ってるのは確かなんだけど、しっかり発動できてるのか…?
これは要検証だ。
で、最後に魔法の難しさに応じて、タイムラグと疲れが大きくなる事。
これは、まぁ、魔法ファンタジー物を知ってたらなんとなく分かるだろう。
大魔法になればなるほど、詠唱に時間がかかって、魔力が多く必要になってくるっていう認識で多分大丈夫だ。
ただし、ここでの難しさの基準は、その時点において発生する可能性が低いものである。というのを注意。
火種になるような物がない時と、火種を用意してる時では『ファイア』の難しさは段違いだし。
晴天の時に『ライトニング』と唱えたら。雨雲が出来て、雨が降ってきて、ようやく雷が降ってくる。
多分だけど。
難易度に応じて、タイムラグや疲れが大きくなるのは。魔法が発動できる条件を整えるために、精霊さんが頑張ってくれてた時間や労力を取られてるんじゃないかなぁ。と思ってる。
と言っても、まぁ、私の想像でしかないんだけどね。
さて、長々とこの世界の魔法について語ったところで。本題なのだが。
みんなに考えてほしいことがある。
それは『ウォーターボム』を唱えた時、何が起きたのか、だ。
ファンタジックに想像するなら。水の塊がまっすぐ飛んでいって、それがボン!!って爆発する魔法なんかを想像したいけど。
まぁ、万有引力の法則とか質量保存則的に難しい。
水風船のような物が運良く飛んできて割れる。みたいな、ちょっと間抜けな魔法とかなら物理的にもいけない事はないけど。起こった事象はそれでもなかった。
もちろん。直訳で『水爆弾』だからと言って、核融合が起こり死の雨を降らせたとかそんなアホみたいな事でもない。
というか、そんな事が自然に起こるなんて、天文学的数字分の一の確率だし。もしかしたら、第二次永久機関を作るほうが簡単ってレベルの確率なんじゃないかな?
とても現実的じゃない。
で、結局。
直訳『水の爆弾』で一体なにが起こったのか。
それの答えは──
ミムロ山の麓。太陽は少し傾いてフタカミ山の近くに見えている。もうそろそろ空が色ずく時間帯。
イヨド湖のあちらと、こちらに明るい橋がかかっている。
その姿は、まるで地上の事など存外であると言わんばかりだ。
「……はぁ、現実逃避もここらへんにしときますか」
まぁ、これに関しては現実逃避しても仕方ないと思う。
だってあれだよ??『ウォーターボム』なんて名前の魔法を打ったのに、ウォーター要素も、ボム要素もない事が起きたし。
明らかヤバい現象だった割に使用魔力そこまで高くなかったんだもん。
なんというか、大きい石を押しただけなのに、下流で洪水が起こった、みたいな感じだ。
行った仕事に対して、あまりにも大きな効果が生まれ。行った仕事との関連性が見受けられないから、因果関係がわからないというか。
たまたま、タイミングよく起こっただけの事象にしか思えないというか……。
「…とりあえず、もう一回やろう」
また起こす事が出来なかったら、魔法で起こった現象じゃないって証明だしね!
『ウォーターボム!!!』
そう唱えて強く念じる。
先ほど唱えた時に起きた事も考えて、多少は力をセーブしてるけど。それでも、二回目なら条件は最初よりも簡単に起こるはずっ!
……、………何も、起こらない?
「……ふぅ、よかった。やっぱりアレはただの偶然だった──
──わけじゃないよねぇ……。」
そう、答えは『地震』
それが、魔法『ウォーターボム』を唱えて起こった現象だ。
……。いや、なぜ!?!?!?
『ウォーターボム』のウォーターとボムの部分どこ言った!?地震とか水要素も、爆弾要素もないよね!?
地震ってどっちかっていうと土じゃん!!水とは正反対じゃん?!陸海的な感じで!なのになんでウォーターでボムな魔法で起きるの!?
それに、地震って結構条件がそろわないといけないような現象だよね!?なんでタイムラグとか、疲れとかこんなに少ないの??おかしくない!?!?
いや、まぁ、魔法が意味わからないのはよく知ってるけどさ。
これまでは、まだ魔法の効果を予想できたのに、なんでこれだけこんな関係ない事が起こってるの……。
魔法マジ意味わからない……。
まぁ、幸い。動いてる人で感じる人がいるかいないかの。──震度でいうと大体2〜3ぐらいかな?そんな地震で。その前のも3〜4ぐらいの少し恐怖を覚えるぐらいの──地震大国日本に住んでたら、何度か経験するような地震だったからよかったものの。
これが、震度5とか6とかの明らかヤバい揺れだったらと思うと鳥肌が立つ。
海はないから津波はないけど、バリバリ炎を使ってるから火事炎上とかの可能性は十分に……、
「……、ん?いや、ちょっと待って」
今、私なんて考えてた?
日本に住んでいたら、何度か経験する地震……?
日本に住んでたら、……。
って!!!!
「ここ日本じゃないじゃん!!!!」
急いで山を駆け下りると、見慣れた日常につく。
いや、よく見ると見慣れた日常の所々が崩れ落ち、非日常が辺りを包んでいることがわかる。
「──ッ!!!」
ヤバいヤバいヤバいヤバい!!!!
忘れてた。完全に忘れてた。
ミムロ山とか、ハツセ川とか、イヨド湖とか。
日本みたいな土地ばっかで、すっかり忘れてたけど。ここは異世界だったッ!
地震大国日本ならこれぐらいなら、いつもの事と流せるが。ここは日本じゃない。
四つのプレート境界のど真ん中で、どこにいても地震の脅威に晒される先進国の変態技術によって造られた頑丈さなら、このぐらいの地震は笑って過ごせるが、この世界の建築技術じゃ歯が立たない。
前世でもそうだったように。日本での弱は、外国だと天変地異として扱われる事さえあるのだ。
それが異世界でも起こって不思議じゃない。
「みんな!!大丈夫!?」
………ん?
「そこの飾り付け間違ってるー!」
「あ!?ご、ごめん……」
「いーよいーよー、間違いは誰にでもあるし〜♪」
「これはここじゃなくてこっちね。わかった?」
「ぅん、ありがとう」
あ、あれ?
全然混乱して、ない?
みんないつもの事のように祭祀の準備を進めてる。
オツナとオンパラなんかイチャイチャしながらやってるし。
なんで?
いや、混乱に混乱を極めて阿鼻叫喚、とかじゃないからいいんだけど。
震度3って言ったら元日本人の私でも普通に『うわ、揺れてるじゃん』ってなるぐらいには強い地震のはずなのに。慣れてもいない異世界人、しかも干害を神様のせいとか言ってる文化レベルの人間がこんなに冷静に準備を進められる訳が……。
「あ!?そういえば。私が生きてた頃も地震何回かあったっけ?」
ああ、そりゃ慣れるか。
15年で数回あったのならかなりの頻度で地震を経験してる事になるし、そりゃ慣れる。慣れない方がおかしいレベルだ。
「はぁ…、早とちりしただけか」
なんか損した気分になる。
てか。あの子たち、いつの間にあんな青春するようになったんだろ??私が生きてた時そんな感じじゃなかったよね?
もしかして、私が生贄にされてる時に発展した感じ??
まぁ、あの時お祭り騒ぎだったし?発展してもおかしくはないよね?現代で花火大会見ながら告白するのと一緒の感覚でさ?
その花火大会、私が汚ねぇ花火になる前夜祭みたいなやつだけど。
……いや、まぁ、君らの恋と私の死は関係ないしね。いいんじゃないかな。うん…。
「はぁ…」
「さて!飾りつけは終わったんで少し休んでいてくださいね!少し経てば祭りを始めますから!」
簡易的な祭壇を郷に用意し、綺麗に飾り付けたミカは
こうして、(私のせいで)急に行われた臨時の神事はつつがなく終わった。
私はやるせなさと罪悪感から、郷の端で“の”の字を書いていた
▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
平野、稲が緑に揺れて広がり、その脇に円錐形の藁造りが並ぶ。
少しここから上がったところでは、もくもくと煙が上がり、匠がタタラを踏む。
稲作農耕民の国。
そこでは当時の最先端技術、鉄が作られ。この島の列強国イズモ、キビなどと隣接する軍事的に重要な土地でもあった。
そんな国の王である太陽神を前に一人の武士が報告に上がっていた。
「ニギハヤヒ様」
「ん?どうした?」
「ご報告します、ミムロ山の神がトミで雨を降らしたとの事」
「……なるほど、先程の地揺れはこちらへの牽制か。人格もない野蛮な神かと思っていたが。この異変には流石に気づいたようだな」
ミムロ山の神。
かつてイズモが侵略しようとした時、土着神ならではの圧倒的な霊力で、あのイズモの神をも恐れさせた神。
一度怒らせると、敵味方関係なく飲み込んでしまい、全てを無に帰す恐ろしい神だという。
だが、その実態は、人格の無い野生のままの精霊群。
どれだけ高い霊力をもって居ようが、本能で生きる馬鹿どもだ。
少し刺激してやれば簡単に自滅する。
あの知恵の神が言っていたことなのに、王はどこか間違っている気がしてならなかった。
「して、どのようにいたしましょうか?」
「ッチ、やむを得ん、少し予定を早める。
「は!五割五分、作戦可能範囲です」
万が一、万が一だ。
大きな過ちになる前に対処せねば。
戦の神としての勘が己に囁く。
「いや、奴はこちらに気づいている。かの神は
……そうだな、剣の霊力が六割を超えたら出陣としよう」
「──となると、あと半月程ですか」
「ああ、そうだ。それ以外の者も、今まで以上に武具の点検を怠らぬように伝えよ!」
「はっ!!!」
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