自然霊の戯れ
「それでは大神様、私はここでお暇させていただきます。失礼しました」
ミカが祭祀を終え朝霧で奥の見通せない山道を降りて行く。
そして少し経ってから…、
私はホッと胸を撫で下ろした。
「……あ、危なかった。昨日なにがあったのか完全に忘れていた」
起きぬけに『おはようございます。大神様』なんて言われ、思わず素で『モモだけど』って返しそうになってしまった。
まぁ、追撃はされなかったから、上手くて誤魔化せたとは思うが。
あそこで本当にそう返してたら、昨日の事が全て無駄になっていた事だろう。
十年は寿命が縮んだ気がする。まぁ、何回も死んでる私が寿命に関して言うのもなんだけどね。
まぁ、
さて、突然ではあるが『転生特典』と言葉を知っているだろうか?
まぁ、サブカルを少しでも嗜んでると知ってるような知識だからもちろん知ってる事だろう。
…え?知らない?じゃあ説明をば。
『転生特典』
異世界から転生転移してくる人が持つ、元の世界(いわゆる前世)ではありえないような超常的な力である。
多くの場合、それは神様からの授かりものだとか、転生転移後に発現する事が多く。その姿がまるで前世でのゲームの期間限定インストール特典などのようだから転生特典と言われる。筈……。
まぁ、それの語源はどうでもいいのだ。
問題はそれを知っているかどうか。
もちろんこんな事を急に言い出したのには理由がある。
昨晩から見えるのだ。白い霧が。
視界全体に広がっていて、たまに薄っすらと赤み、青み、黄みがかって見える霧のようなナニカ。
ドロドロもしているし、清く清々しい雰囲気もしている、神さびた謎の靄。
とはいえ、これが何なのか大体の検討が付いている。
魔力。
魔法や魔術といった超自然的な力を行使する際に使う、不思議なエネルギー。
霊力でも、神力でも、妖力でも、なんでもいいのだが。前世からRPGやラノベなんかでよく耳にする『魔力』と言うのが一番しっくりくるだろう。
夕霧にしては長続きしすぎだからね。
つまり、それを見る能力『魔力視』それが私に与えられた転生特典。
昨晩までは赤と黄が薄っすらと見えたものが、今はそれに加えて、紺や緑が薄っすらと見えるのは。
雨が降り水の魔力と、草木の魔力が強まったとかなのかな?
だとすると……、
白い霧として見えるのは、火の魔力、水の魔力、草木の魔力、土の魔力、それぞれの魔力には色々な色があり、それが混ざり合って光色の三原色の要領で白くなるから、とかだろうか?
魔力は電磁波のように波動としての性質があり、それをなんらかの器官で受容して色として認知してる。
とか。それなら、X線や電波みたいに不可視光の属性の魔力もある可能性も出てくるだろう。
見えないが確実にあるモノの魔力。無属性とか闇属性とかか?
いや、あくまで私が色として認知してるだけで、波動となんら関係のない可能性も十分にある。
数字や形、単位などを色として認知する『共感覚』というものもあるのだ。
早々に波と断定するには危険すぎるか。
っと、前世のくせでつい考察してしまったが。
つまり、この身体になってから魔力が見え始めたという事だ。
そうして魔力が見えると言うことは、恐らく魔法も……
と、言うことで!
魔法を、使っていこうと思います!
魔法、そう魔法!
ファンタジー世界でお馴染みの
この世界にはないと思っていたけど、魔力感知出来ないと使えない系のものだったなら話は別!今は特典の魔力視でばっちり感知できる!!!
さて、先代曰く。
この世界では魔力は『力』ではなく『生き物』らしい。
この世界の魔法理論は、どちらかというと『精霊魔法』の理論に似ていて。
人や動物も含んだ自然現象は精霊の働きによる者で、それら大神様が包み、操っている。らしい。
人間や動物でいう所の魂が、自然にとっての精霊で、人や動物が魂の思うままに行動するように、自然も精霊の思うままに動く、そうだ。
そして全ての主人である大神様は、この山、ミムロ山を御神体とし、『個にして全なる神の頭』として潜在されている。
曰く。個にして全であり、全てを内包し、全てを流転させる。
全ての精霊や人はその中にいるからこそ生きられる。至高の存在、らしい。
そしてこの郷に怪異が訪れないのは、この神が我らを守っているから、だそうだ。
と言っても、聖女だった私もその存在を見たことはないし。
祭祀の時に何となく、そこに何かがあった気はするがしっかりと知覚したことはない。
まぁ、祭祀の時はトランス状態なのか身体ここにあらずって感じだから、普段しっかりとわかる事でもちゃんと知覚することはできないんだけどね。
つまり、魔法を使う、精霊を使うには、誰かや動物を使って何かする時のような運用が必要という事だ。
人とか動物よりも、実体が無い分より扱い難いのかな?
ラノベなんかの設定で、契約した精霊に何か対価を払う、またはお願いして魔法を出すというのがあるが、それに近い感じ。
私が聖女だった時に使おうと『この地に住まう精霊よ!!』とか言って努力をし続けたのに、一向に報われなかったのも精霊との関係がなかった事も原因の一つにあるのだろう。
だが、今の私にはそれが見える!!
魔力が!
精霊が!!
今なら!
今の私なら!!
魔法を使えるのでは!?!?!?
と、言うことで。
たまたま見つけた、薄っすら赤い魔力に向かって強く念じながら詠唱してみた。
「火の精よ、
魔力あげるから!!!もうあるだけむしり取ってもいいから!!!お願いします燃えて!!!ほんとお願い!!!後生だから!!!燃えてくださいなんでもします!!!もうなんならちょびっとでもいいから!!!赤いの見える程度でいいからぁ!!!
その祈りに答えてか、念じれば念じるほど赤く赤く膨れ上がっていく魔力。
それが中央に集まってもっともっと赤くなる。
もく、もく、もく………。
煙が上がる。
そして、煙が上がり………
………………………。煙が、上がった。
「いや燃え上がらんのかい!!」
今のなんていうか神秘的で荘厳で、そんな期待させるような雰囲気醸し出しながら。
もうすぐ燃え上がるぞ…!!みたいな煙ボンボン出してんのに。いざ燃えるぞってなったら、燃え上がらんのかい!!!
いや、たしかに煙が出てるってことは酸化反応によって熱がちゃんと起こってるって証拠なんだけどね?
でも、なんていうか、地味っていうか。
いや、魔法は発動できるっていう確かな根拠足り得るんだけども、それでもやっぱり地味っていうか…!
まぁ、念じる時にちょっとでいいとは言った気もするけど、やっぱ地味っていうか……
「い、いや、まだだ」
まだ終わらんよッ!!!
確か、昨日泣いた途端雨が降ってきた。
たまたまかも知れないが。もしこれが魔法的な効果で起きた現象なら、感情と天気が同期して魔法が発動したということだ。
感傷的になるだけで雨が降るのならば、ちゃんと詠唱すればより高い効力を望めるのではないだろうか?
と、いうことで、詠唱。
「あめあめふれふれかあさんが」
雨降って!!お願いほんとに雨降ってください!!!魔法の力ってすげーっていうのやりたいのに、『あれ?魔法ってそこまですごくない?』『科学のほうがすごいじゃん』みたいな感じになるのほんと嫌だから!!!ファンタジー作品結構読んでたから魔法に対して結構夢を持ってたんです!!!ほんとにお願いします!!!
だんだんと暗い雲が太陽を隠す。
「お?これは結構期待できるのでは?」
ポツ、ポツ、ポツ、ポツポツポツポツポツポツ………。
そして、ここに柔らかな雨が降り出した。
「ふ、降ったぁぁぁあぁあああああ!!!!」
さっきの火を見て、もしかしたら私、魔法あんまり使えないのでは?って思ってたけど。別にそうでもなかったみたいだ。
でも、昨日より雨は弱い。
「よし!今度はもうちょっと強くしてみよう!!」
っていうわけで詠唱を──
ザぁぁぁぁァァァァァァァァァァアアア!!
「…え?」
何故か、雨は強くなった。
「なんで?」
まだ念じてもいない。
ただそう思っただけで雨脚が強くなった。
という事は。
もしかして、詠唱とか祈りとか関係ない感じ?
それとも、偶々偶然強くしようとした時に強くなったか?
じゃあ今度は祈らずに……。
「ロックバレット!!!」
ブォッッッッ!!!!!!!
カンッ!!
強風が突然吹き、その風で動いた小石がドミノ倒しにぶっ飛んでった。
「………。なんだろう、思ってたのと違う」
なんかこう、謎パワーで浮いた石が、謎パワーで飛んでく感じだと思ってた。ロックバレット。
謎パワーでビュン!!って。
…いや、でも、しっかりとした詠唱も強い祈りもなく発動はできた。
私が放った声は一声。それで魔法は発動した。
なら魔法のトリガーは──
「──言霊、か?」
確かに今まで使ってきた魔法は言葉にして行使していた。
『雨降れ』『もうちょっと強く』そして『
火魔法が不発に終わったのは中途半端に分かりにくい言葉だったから?
でも、それなら感情との同期は?
いや、あれこそ偶然雨が降ったタイミングが良かっただけである可能性も……。
「むむ〜??」
「…とりあえず、反例が一つでもあったらその説は『偽』になる、よね?」
と言うわけで。念じてみるか!!!!
「スゥー」
雷落ちて!!雷落ちて!!雷落ちて!!雷落ちて!!雷落ちて!!雷落ちて!!雷落ちて!!雷ぃぃぃいいいいッッ!!!!
ゴロゴロガッシャーン!!!!!!!!!!
「落ちたァ!?!?!?」
雷が!?!?!?
「……詠唱も、祈りも、言葉も関係なく????」
じゃあなんだ?魔法って何に反応してる????
感情か?いや、でも、さっき嬉しいのに雨が強くなったし。
怒ってもないのに雷は落ちた。感情でもない。
精霊は一体何を基準に魔法を出してくれてるんだ??
トリガーはなんだ????
「あーもう!! ウザイ!!!!
そろそろ雨止んで!! マジで! 寒いし!!」
ザーーーーーサーーーーー、
ポツポツポツポツ、
ポツ、ポツ、
ポツ、、
ポツ、、、
ポツ
だめだ。マジでわからない。
そもそも魔法ってなんだ??
なんでこんな意味わからない事が出来るんだ??
精霊ってなんなんだ??
自然そのものの魂とか何言ってんだ??
魂とかそんなのあるのか??
それって客観的に観測できるのか??
科学的根拠はどこにあるんだ?????
「あー、わっかんね」
ダメだ。考えれば考えるだけ頭がおかしくなってくる。
こんな意味わからんモノを平然と扱っている、ファンタジー世界の転生主人公って結構ヤバイ奴だったのでは???
「……まぁ、何も考えずに使えばただの便利な物、…モノ?だもんね」
魔法とは深く考えれば考える程ドツボにハマる何かだったようだ。
「考えるだけ無駄、か」
とりあえず、私は思考を放棄した。
そもそも魔法は『魔の方法、法則』だ。すごい人が謎パワーで引き起こすよくわからない方法の事だ。
私のような凡人が考えたところで時間の無駄だったのかもしれない。
一応対照実験を試みてみるが、詳しい証明はアインシュタインとかが勝手に証明してくれるのを願っておこう。
まぁ、多分、絶対、アインシュタインいないけど。
「まあ!せっかく魔法が使えるんだから楽しまなきゃね!!!!」
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