精霊の姫巫女
『異世界転生』
それは一度ある世界で死んで、死んだ世界とは違う異世界でまた新たな生を受ける事。
つまり、私は一度死んでる。
あの時は自殺だった。
きっかけは姉の事故。
2015年○月△日
その日、まだ中学2年だった私、
大阪旅行、普段は沖縄や北海道など、普段は父が行かないような所に旅行していたが、来年は高校受験だから、と私の我儘を通してくれたのだ。
事故が起きるまで、とても楽しかった。
あべのハルカス、大阪城、通天閣、道頓堀、難波。USJ。
いつもはテレビで有名人がしゃべっている物を、地方特有の都会蔑視の目線で斜に構えていた心は綺麗に抜け落ちて、すっかり摩天楼の迷宮に魅了されていた。
とても楽しかった。
楽しすぎて浮かれていた。
最終日の前日、遊び疲れてホテルに帰るところだった。
気づけば、あとホテルまで数十メートルのところだった。
その時私は浮かれてて──、
「──でも終わる前に行けてよかったよね、バックトゥザヒューチャー」
「ね!アレ結構面白かったから残してくれたらいいのに」
帰り道、今日行ったテーマパークのアトラクッションの話を一通り話して、次に姉が切り出したのは、もうなくなるという有名なSF映画のアトラクションの話だった。
入ってすぐのジェットコースターや恐竜のエリアの急流滑りなどのように位置を移動してる訳でもないのに、アレだけの迫力を出す技術とアイデアには確かに私もびっくりした。
実際にあの映画を見たことがなかったけど、帰った後にでも見てみよう。とそう思えるほどに。
「まぁ、来年になったら、バックトゥザパストになるし仕方ないんじゃないか?」
「それはそれで面白そうね、バックトゥザパスト」
過去へのタイムトラベル、か。
そういえば、創作では何度も見たありふれた設定だけど、現実では可能なのかな?
今より小さい頃に見たSF科学考察本に影響を受けてか、私はいつも空想のものを科学的に考えてはアレがおかしいコレは妥当。などと上から目線で評価することを繰り返していた。
考察系の中二病だったともいえるだろう。
とはいえ、それが繰り返せば癖になるというものだ。
「そういえば
タイムトラベル。一番主流な方法は次元を移動するやり方だっけ?
次元を移動する方法は今のところ実証する事すら出来ていない筈だったけど、ブラックホールなどを利用する理論があった筈だ。
「…えーっと、
考え事の真っ最中というのものは集中しているもので、こんな時には姉の呼び声も届かない。
ひも理論によれば重力は別の次元に影響を及ぼすから、それを用いることで物質の次元移動も可能とか。ブラックホールは近づけば近づくほど相対的に見て近づいてる物の時間が0に近づいていく、その0になる境界である事象地平面を(ry
「あ、ダメだ、また
とはいえ、そんな私の奇行にももう慣れているのだろう、姉は呆れつつも暖かく見守ってくれた。
それ以外で考えると、量子論からのアプローチだろうか?
時間の不可逆性を語る上で使われるエントロピー増大の法則は、あくまでマクロの世界で適応され(ry
「
そろそろ長いと母も注意する。
ホテルはもう近い。あとは道を渡ればすぐに着く。そういうのもあっての事だったのだろう。
実際に遅延選択量子消しゴム実験で過去の事象が未来の事象によって決定す(ry
母の声も私には届かない。
「
姉が茶化して声をかける。
その性質を用いれば、タイムマシンも
だが、その声は何かに気づいて途中で止まった。
横断歩道の向かい側。
目的地はすぐそこだろうと私は勝手に足を進める。
姉に背を引かれた。
「ぇ!?」
キィぃぃと甲高い音。
そしてすぐに衝撃音。
信号は真っ赤だった。
私は白と紺のボーダーを渡っていた。
眠たかった。遊び疲れていた。歩き疲れていた。考え事に集中していた。
その時、私はそんな言い訳を頭の中で必死に考えてた。
姉は私のせいで死んだ。
その日から勉強を毎日最低、平日は家で5,6時間、テスト前は7,8時間、休日は10,11時間はした。酷い時は一日中やっていた。
罪悪感から逃げたくて、でもお姉ちゃんが生きてたらって考えて、たどり着いた先にあったものが勉強だったから。
高校受験は当初志望校としていた所よりも遥かに上の高校を受けた。
志望校に受かったとき、最初に考えたことは『姉が喜んでいるか』だった。
そして、目標を失った私は、いつしか姉のことが私の重りとなっていて。
ついには部屋に引き篭もった。
ゲーム、アニメ、漫画、動画。現実を、あの時の事を忘れさせてくれるものはあれこれ構わず遊んだ、見た、読んだ。
でも、あの時の事を忘れようと必死に努力すればするほど、怖くなって、嫌になって、だんだん自分がどうでも良くなって。
結局、首を吊って自殺した。
死んだら、お姉ちゃんの所に行けると思って。
お姉ちゃんに謝れると思って。
だから、今世に転生した当初はどうやってまた死ぬかを考えつづけていた。
そんな時に出会ったのがミカだった。
あの時の事を、多分ミカは覚えてないだろうけど、あの言葉が私に生きる意味になったのだ。
それからはいろんなものを改善した。
どれが、どういう風に出来ているかなんて前世では全く考えたことなんてなかったけど。うろ覚えの知識を使っていろんなことをした。
建築物の建て方の指導。土器、武器、罠の改良。科学医療に基づく治療。
農業は知らなかったが、やっていたそれは本格的なものでなく、狩猟生活をしていた為、簡単な知識で事足りたのはとても助かった。
姉を死なせた知識が、郷を発展させていった。
その罪悪感はもちろんあった。
でも
全ては、皆んなの為に。
もう、私のせいで、誰かを不幸にしない為に。
そう思う事で蓋をしていたのだ。
だから、よかった。
今回は、意味もなく、死ななかった。
今度は、誰かの為に、
あの時のお姉ちゃんみたいに。
朝、山の麓にある祭壇に二人の少女の姿が見える。
一人は祭壇に美味しそうな
祭壇に
「ふぅ、これで終わりかな?」
あの旱害のせいもあり食事としての量はすこし少ないが、それでも豪勢な
今日は日本晴れ。草木が水を得た魚のように生き生きとしている。
それは、昨日の雨が見せた景色だった。
「うーん?でもどうしよっか?」
ミカが困ったように頬をかく。
「んン」
肝心のわt、いや大神様がぐっすりと眠ってしまっている為。起こすべきなのか、起こさないべきなのか、どうするべきか分からず手をこまねいていた。
祀りは神を喜ばせる為のものなのに、起きないままでやるのはいけないし。かといって大神様を起こすのも不敬である。
だから、ミカには彼女の起床を待つしかない。
とはいえ、初日にコレではミカが困るのも仕方ないと言うものである。
「あはは、モモはいつもこんな感じだったのかなぁ」
ミカが半ば呆れ気味そうにそう呟く。
『モモ』といった時、彼女は心のどこかでちくりと何かが刺した気がした。
「ん?」
そんなこんな不快感を払拭しようとしていると、肝心の者が目を覚ます。
「おはようございます。大神様」
「あ、ミカ、おはよう」
「え?」
私が眠たそうに目を擦っている間に、深く腰を折りながら彼女は
私は大きく目を見開いてミカを見定める。
昨夜の話なんて寝起きですぐ思い出せる訳もない。
『全ての原因は、先代宮女トトビモモソ』
『彼女を宮女にした事で、私とあなた方の繋がりが離れ』
『このような事がないよう。宮女は代々族長の家から出す事に』
「あ」
気づけば、目の前には巫女服を着た幼馴染の姿。
昨晩の事を思い出す。後戻り出来ない罪悪感に蓋をしながら私はこういった。
「いや、なんでもないよ」
取り繕われた。
そうミカは思った。
でも、大神様のことだから何か考えがあるのだと、それを聞くのは野暮だとそう信じて、言葉を飲み込む。
そして、彼女は眉を寂しそうに結んだ私の顔を見てないふりをして舞を始めたのだった。
祭祀の法は郷に伝えられていない。先代宮女だったトトビモモソがその法を継承する事なく生贄になったからだ。
もちろん、ミカも正式な法の詳細は知らない。
だが、私はその法を話の種としてその法をミカに断片的に語っていた。
『毎日、毎日、御饌並べて、舞って。週一ぐらいでも許されると思うんだけどなぁ』
『神楽の方法?正直言ってあんまり覚えてないんだけどね?んーそうだな。最初に瞑想して、それから躍ってたら、いつも、いつの間にか終わってる、かなぁ』
『神楽の途中って、なんか夢を見てるみたいに、なんかふわふわするんだよ、ふわふわ!!…気持ちいいんだけど、なんか怖いんだよね〜』
そう愚痴のように語っていた。
その愚痴の内容こそ、聖女としての適正が高いという事実を突きつけているものと。現代創作のソレを異能の常識と捉えていた私が、その事実に気づく事はなかった。
私の名前。トトビモモソのトトビとは性質を言うもので、現在の〇〇おばさんや**坊ちゃんなどと同じである。
『トトビ』とは身体から霊体だけを出せる人間の事。
私は、聖女として最高の能力をもっていたのだろう。
もちろんそれは、いくら形が変わろうとも。
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