〇四
飯島から言われたことがなんとなく心に引っかかって、授業中ずっとキヨシの横顔ばかり眺めていた。
あれのどこが可愛い?
髪はなんの工夫もないおかっぱ、目が大きくて少しつりあがってる、ついでに眉も濃い。
くちびるの端と、左耳の手まえに小さなホクロがある。
背はちっちゃくて痩せ型、胸はぺったんこでお尻も小さい。
いつもヘラヘラしてるくせに気が強くて、髪の毛をつかまれても、頬を張られても泣かない。
小学二年の夏からずっとツルんでるけど、ガールフレンドというよりむしろ悪友だ。一緒にやんちゃなことをたくさんやったし、取っ組み合いのケンカだってした。あいつの闘志のこもった目でグッと睨みつけられると、大抵のものは気後れしてつい目を逸らしてしまう。
あれが可愛いだって? よく言うよ。
――おれはこれまで、キヨシを女の子として意識したことがない。
そもそも「キヨシ」なんて呼んでいるのが、あいつを女扱いする気のない証拠だ。
市営プールでお互い水着になったときも、お祭りの夜店で浴衣姿のあいつとならんで歩いたときだって、胸がときめいたことなんて一度もない。ふざけてスカートめくったり平らな胸を触ったこともあるけど、殴られた頬がヒリヒリ痛んだだけで、つまんないことしちゃったなという後悔しか残らなかった。みんなあいつの本性を知らないんだ。だから勝手なイメージ作りあげて、可愛いだなんて……。
そういえば今年の夏、一泊二日の課外授業をやったとき。
消灯時間が過ぎてもぜんぜん寝る気になれなかったおれたちは、部屋のひとところで顔を寄せ合い、好きな女の子の暴露大会というのをやった。
たいていはクラスのアイドルである松木奈々や、じつはフランス人との混血だと噂のある前川美遊なんかの名前を出してきたけど、驚いたことにキヨシが好みだと言ったやつが二人もいた。ラグビー部の浅川と、図書委員の関谷ってやつだ。まあ、浅川はキヨシだけでなく他にも何名か好みの子を挙げていたし、関谷というやつは自宅でヘビを三匹も飼ってるような変人だから、キヨシが良いなんてのが一般的嗜好じゃないってことは理解してるけど、それでもキヨシの名前が出てきたこと自体に、おれは少なからず衝撃を受けた。
山は遠くから眺めて初めてその美しさが分かるだって?
なに言ってるの。
ここから見るキヨシは、勝気で、生意気で、すばしっこそうな、たんなる痩せっぽちの女の子だ。遠くから眺めようが近くでマジマジと見ようが、それ以上でも以下でもないと、おれは自信を持って断言できるよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます