コンビニ強盗怖い

真•ヒィッツカラルド

【コンビニ強盗怖い】

俺は今年の春に七年勤めた会社を解雇された。


勤めていたと言っても派遣社員だ。


期間が過ぎたら再雇用されなくても文句は言えない。


別に仕事が出来ない訳でもないし、不真面目だった訳でもない。


景気が悪くなって会社が傾いたのだ。


だから俺や会社が悪かったわけでもないのだ。


ただ、時代が悪かったのだ。


しかも世間は不景気で再雇用先が見つからない。


解雇になってから失業保険で食いつないだが、それも三ヶ月前に終わっている。


だからもうお金がない。


今月の家賃を払うお金も無いし、電気代も先月から払っていない。


もう飯を食うお金すらない。


カップラーメンすら買うお金がないのだ。


だから、ひもじい……。


腹がグーグーと鳴りまくりだ。


もう二日間も飯を食べていない。


今は水道水をがぶ飲みで耐えている。


だが、水だけで耐えるのも限界だ。


仕方ないので俺は家の台所から包丁を持ち出してコンビニの前に立っていた。


飢えが決意を固める。


強盗をするしかない。


時間は深夜だ。


したくはないがコンビニぐらいなら襲えるだろう。


もう路上には人影どころか車も殆ど走っていない時間帯だ。


今しかない。


今ならコンビニ強盗だって出来るだろう。


悪気が有ってコンビニ強盗を働くんじゃあない。


これは仕方ないんだ。


生きるためだ。


これで捕まるならば仕方がない。


罰は受ける覚悟だ。


俺はコンビニの中を伺った。


お客は居ない。


店員らしい男がカウンターの中で電話を掛けている。


背の高い男だな。


電話中で、こちらに背を向けているから顔は見えない。


あの電話が終わったら押し入るぞ。


やるぞ、お金を奪ってやる。


それにしても長い電話だな。


こんな真夜中に何処に電話なんてしているんだ?


彼女にでも電話をしているのかな?


お客が居ないからって不真面目だ。


最近のコンビニ店員は呑気なものだな。


真面目に仕事をしろよって感じだぜ。


おっ、受話器を置いたぞ。


電話が終わったらしい。


よし、押し入るぞ!


俺なら出来る!


コンビニぐらい襲える!


Go!!


俺は自動ドアを潜って店内に飛び込んだ。


入って直ぐのカウンター内に居る店員に庖丁を向けて叫んだ。


「強盗だ、お金を出せや!!」


そして、俺はカウンターの入り口を塞ぐように立った。


これで逃げられまい。


俺が怒鳴ると店員は俺を睨み返した。


「ああ~、なんだテメェ?」


店員の態度が激悪い!?


何、この態度!!


ビビって無いし、ガラが超悪いぞ!!


店員はカウンターに手を置くと、ヒョイっとジャンプ一番でカウンターを飛び越えた。


そして、自動ドアの前に立つ。


背が高いのに身軽だな……。


あっ、もしかして……。


「逃げる気か!?」


「ちゃうわ」


えっ、違うのか?


「な、なんだ……?」


「ちょっと待ってろ」


「えっ、ええっ!?」


俺が戸惑っていると店員は、自動ドアの上のほうに手を伸ばす。


「何してるんだ!?」


「自動ドアの電源を切ってるんだよ」


「なんでっ!?」


「決まってるだろ」


自動ドアの電源を切った店員が怪しい表情で振り返る。


こ、怖い……。


瞳孔が開いてるよ……。


「テメェを逃がさないためだよ!」


うそぉ~~ん……。


なんだ、この店員は!?


訳が分からないぞ!!


笑みが狂気だしさ……。


「おい、俺は強盗だぞ!!」


「だから逃がさないようにしてんだろ。お前はバカか!?」


ええっ、そうなの!!


どうなってるの!?


「俺は包丁を持ってるんだぞ。怖くないのか!?」


「ちょっと昔の偉い空手家が言ったんだ。刀を持った敵は刀しか使わないから怖くないってな」


「いやいや、普通は怖いだろ!!」


それに、これは包丁だ。


刀ではないぞ。


「試して見ろよ」


「マジですか!?」


こいつ何を言ってるの!?


俺に刺されたいの!?


俺は刺したくないよ!?


お金が欲しいだけだから、お前の命なんて要らないからさ!!


「ほら、掛かってこないと俺からお前をぶん殴るぞ」


えっ、俺が殴られるの!?


反撃ですか!?


店員がカウンターのほうを指差しながら言った。


「カウンターの中を見て見ろや」


えっ、なに?


何を突然に言い出すの?


俺は言われるがままにカウンターの中を覗き込んだ。


すると、カウンター内の床には鼻血を流しながら男が倒れていた。


顔面血だらけだ。


前歯が何本か折れている。


無惨……。


気絶している様子だった。


「何、この惨劇!? 誰ですか、この人は!?」


店員がサラリと答えた。


「お前の前に強盗に入って来た男だ」


先客かよ!!


連チャンでコンビニ強盗の来店ですか!!


「なんで血を流しながら倒れて居るのさ!?」


「俺がぶちのめしたからだよ」


「返り討ちかよ!!」


「お前も掛かって来ないなら、ぶち伸ばすぞ」


何、この人は強いの!?


強盗を返り討ちにするほど強いのか!?


「俺が襲い掛かったら、絶対に返り討ちにしますよね!?」


「いや、返り討ちにしないから、だから掛かって来いよ!」


「嘘だ!! 絶対に嘘だ!! 絶対に返り討ちでぶん殴る気だよ!!」


俺が店員の拳を見たら、強く握られた拳には返り血だと思われる染みがへばり付いていた。


殺伐としている。


「しないって、だから安心して掛かって来な! 刃物だって持ってるんだから絶対にお前のほうが有利だからさ!」


「さっきと言ってる事が違うぞ!!」


こいつ、目をランランと輝かせながら言ってるよ。


息も少し荒くなってるしさ。


飢えてるのか!?


暴力に飢えてるのか!?


「いいよ、もう俺から行くからさ」


店員が一歩前に出た。


「やっぱり来るんじゃん!!」


スゥ~と店員の手が延びて来る。


すると店員が俺の持つ包丁を握り締める。


しかも刀身部分を素手で掴んでいた。


「えっ、えっ、刃先を掴んだよ!!」


「真剣白羽取りだ!」


「違う、これは違うぞ!!」


「握力が200キロを越えると、平気なんだよ。引いてみな、絶対に外れねえから」


うわっ、マジだ!!


引いても押しても動かない。


ビクともしない。


ビビった俺は自分から包丁を手放した。


「なんだ、もう終わりか?」


「ごめんなさい、ごめんなさい……」


俺は土下座して必死に許しをこうた。


「まあ、ちょっと待ってろ。さっき警察に電話したばかりだから、もうしばらくしたら警察も来るからさ」


「マジで~……」


さっき電話してたのは、警察に通報してたからなのか……。


店員は包丁を床に落とすと制服を脱ぎ捨てる。


何故か上半身裸になった。


そして、筋肉アピールをしながら言った。


「警察が来るまでにボコボコにしてやるぞ!!」


コイツが一番危険人物じゃあねえか!!


このままだと殺されるぞ!!


「俺は空手三段で、最近だと街頭で敵無しでよ。もう誰も喧嘩を買ってもくれないんだ」


「安売りし過ぎなのでは……」


「だ~か~ら~、俺と遊んでくれよ~。俺と殴り合ってくれよ~」


こんな怪物とは喧嘩なんて出来る訳も無い。


こいつと殴り合うぐらいなら警察に捕まったほうが幸せだ。


懲役のほうが楽である。


その時である。


数名の警察官が自動ドアをドンドンと叩きながら言った。


「警察だ。このドアを開けなさい!」


「おっ、やっと来やがったか」


店員が振り返った刹那、俺はカウンターの上からコンビニの制服を取ると素早く着込んだ。


そして、叫ぶ。


「自動ドアは電源が切れているだけです。力で開きますから入って来てください!!」


すると警官たちが自動ドアを力ずくで開けてコンビニ内に飛び込んできた。


そして、上半身裸の店員に飛び掛かった。


「大人しくしなさい!!」


「なんだテメェ! なんで俺に飛び掛かるんだ!!」


「いいから大人しくしなさい!!」


「うるせえ、ぶん殴るぞ!!」


「公務執行妨害になるぞ!!」


俺は店員と警官が揉み合ってる隙にコンビニから出て逃げ去った。


もうコンビニ強盗なんてこりごりだよ……。


コンビニ強盗怖い……。



【終わり】



面白かった、楽しかったと感じましたら☆☆☆レビューを頂けますと大変嬉しく思います。


また、別の作品もご覧になってもらえますと感謝いたします。


チョイ読みの短編作品からじっくりな超長編作品と様々と揃えていますので今後も真・ヒィッツカラルドの作品を宜しくお願いします。


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