第45話 お父様たちが出した結論は…

「皆様、お待たせして申し訳ございません。さあオニキス、こっちにおいで」


ブライン様が皆に挨拶をした後、そのまま私を連れ、ソファーに座った。もちろん、私にぴったりと寄り添っている。


「公爵、見てくれ。ブラインはすっかりオニキス嬢を克服した。どうだ、この仲睦まじい姿は」


得意そうな顔でそう言った陛下。ブライン様や王妃様も満足そうに頷いている。


「確かに見たところオニキスに触れても、鼻血が噴き出すことはないようですね。ただ、寄り添うだけでは夫婦生活は出来ません。オニキス、殿下の頬に口づけをしなさい」


お父様がそう言ったのだ。口づけはダメよ。だってまだ、口づけをすると鼻血が噴き出るのですもの…


「えっと…あの、口づけは…」


「結婚式でも口づけはしないといけないんだよ。本来は唇にするものだが、今回はほっぺたでいい。早くしなさい」


さらにお父様が促す。どうしていいか分からず、ブライン様の方を見つめる。すると


「オニキス、僕の頬に口づけをしてくれ。僕は大丈夫だから」


笑顔でそう言ったのだ。でも、昨日も口づけの練習をしたけれど、鼻血を出していたわ。大丈夫かしら?そう思いながら、ブライン様の頬に口づけをした。と、次の瞬間。


鼻血が噴き出たのだ。


「ブライン様、大丈夫ですか?すぐに止血剤を!」


この半年、ブライン様の鼻血は嫌という程見て来たのだ。処置の方法だってお手の物。手際よく処置を行う。


「ブライン様、大丈夫ですか?さあ、横になってください」


「ありがとう、やっぱりまだ口づけはダメみたいだね」


そう言いつつ、私の膝に頭を乗せる。もしかして口づけが出来ないから、婚約破棄をする事になるのかしら?不安からお父様をじっと見つめた。


「殿下はまだオニキスを克服していない様ですな…仕方ない、約束通り…」


「公爵、待ってくれ。見てくれ、あの2人の仲睦まじい姿を。それにブラインもオニキス嬢も、この半年本当に頑張ったんだぞ。それもこれも、2人が結婚をしたいがためにだ。第一、もう各国の王族には招待状を出してある。今頃中止になんて出来ない事くらい、公爵だって分かっているだろう!」


「確かにそうですが…でも、口づけが出来ないと…」


「お父様、陛下の言う通り、この半年間ブライン様はそれこそ命がけで頑張っておられました。私もブライン様の傍で彼を支えたいと考えております。どうか…どうかこのまま私たちを結婚させてください。お願いします」


私もお父様に頭を下げた。


「公爵…まだ結婚まで後1ヶ月ある。この1ヶ月で、必ず口づけを成功させてみせる。だから、どうか婚約破棄はなしの方向で。それに父上も言っていた通り、今更婚約破棄が出来ない事くらい、公爵が一番よく知っているだろう?可愛いオニキスを僕に渡したくないのは分かるが、往生際が悪いよ」


「殿下の言う通りですわ。オニキスも殿下の傍にいたいと言っておりますし、あなただって今更婚約破棄は出来ないなと、昨日おっしゃっていたではありませんか?」


「お前!いらん事を言うな。オニキス、本当に殿下と結婚を勧めていいのだな?本当だな?」


「ええ、よろしくお願いします」


お父様ったら、いくらなんでもしつこいわ。


「はぁ~、分かったよ。私だって今更婚約破棄が出来ない事くらい分かっている。ただ…ちょっとくらい抵抗させてくれてもいいだろう」


「公爵、この期に及んで大人げないぞ。ただ…公爵との約束のお陰で、ブラインは死ぬ気でオニキス嬢を克服したのだ。だから、公爵には感謝しているよ。ありがとう」


「陛下に感謝されましても…」


苦笑いのお父様に対し、満面の笑みの陛下。


「話はまとまったわね。それじゃあ、改めてブラインとオニキスちゃんの卒業祝いを行いましょう。さあ、皆、食堂に移動して」


「ブライン様、起き上がれますか?」


「ああ、余裕だよ。本当は起きていられたんだけれど、オニキスの膝枕がとても気持ちよくてね」


「もう、ブライン様ったら」


「あらあら、ブラインとオニキスちゃん、本当に仲良しね。この分だと、近いうちに孫の顔も見られるかしら?」


「王妃様、気が早いですわ。でも、もしかするとそうなるかもしれませんわね」


そう言って王妃様とお母様が笑っていた。私達の子供か…でも、口づけもまだなのに、1ヶ月後に初夜を迎えられるのかしら?


「さあ、さっさとパーティーを終わらせて、口づけの練習をしないとね。後1ヶ月しかないんだ。頑張って練習をしないと。それに1ヶ月後には初夜もあるし…」


ニヤリと笑ったブライン様の鼻から、たらりと鼻血が…


持っていたハンカチで、その鼻血をふき取った。もう、ブライン様ったら、どうしてこんなに鼻血が出るのかしら?


「殿下、なんですか?その締まりのない顔は!それにそんなイヤらしい目で、私の可愛いオニキスを見るのはお止めください!やっぱり殿下に嫁がせるのは心配だ…今からでも…」


「公爵、失礼な事を言わないでくれ!オニキスは僕の婚約者だ!公爵がごねようが暴れようが、今更婚約破棄は出来ないのだから、諦めてくれ!」


私をギュッと抱き寄せながら、ブライン様が叫ぶ。悔しそうな顔のお父様がブライン様を睨んでいるが、これ以上はお父様も何も言わなかった。


その後は6人で卒業パーティーを行った。

なんだかんだ言って、私たちの婚約を認めて下さったお父様、私たちの為に、必死にお父様を説得してくれた陛下、そして命の危機にさらされながらも、私を克服してくれたブライン様。


本当に皆に感謝だ。

改めてそう感じたのだった。



【あとがき】

~卒業パーティー後のオニキスとブライン~

「オニキス、さあ、早速口づけの練習を始めよう。まずは僕からオニキスに口づけをするね」


オニキスの柔らかい頬にブラインの唇が触れた瞬間、鼻血を吹き出すブライン。それを見て急いで手当てをするオニキス。


今度はオニキスからブラインに口づけをするが、やはり鼻血が噴出した。何度か繰り返しているうちに、ドクターストップがかかる。


「ブライン様、今日はこのくらいにしておきましょう。それでは私はこれで」


「待ってくれ、オニキス。君の為にドレスを準備したんだ。このドレスに着替えて帰るといい。約束通り、制服は僕が貰うからね」


「…分かりましたわ。それでは、すぐに着替えて参ります」


別室で着替えを済ませると、ブラインのエスコートの元、馬車に乗り込むオニキス。オニキスを見送った後、物凄いスピードで自室に戻ったブラインは…


「あぁ、オニキスの脱ぎたての制服。まだオニキスの温もりが残っている」


オニキスが脱いでいった制服を抱きしめ、臭いを嗅ぎながら幸せに浸るのだった。


※次回最終話です。

よろしくお願いしますm(__)m

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