第44話 無事卒業式が終わりました

まだ隣でブツブツと文句を言っているブライン様をしり目に、卒業式が始まった。学院長先生の挨拶に始まり、在校生代表、卒業生代表の挨拶へと続く。


卒業生代表はもちろん、ブライン様だ。いつもの王子様スマイルで難なくこなす姿は、とてもカッコいい。周りの令嬢たちからも、黄色い声が聞こえる。でも…一歩プライベートな空間に入ると…


あんなにもカッコよくて私には勿体ない人だと思っていたけれど、ありのままのブライン様を見てからは、そんな事を思わなくなった。それに完璧なブライン様よりも、全てをさらけ出した今のブライン様の方がずっと素敵だ。


クロエ様はすぐに“気持ち悪い、生理的に受け付けない、変態”と言うけれど、私はそうは思わない。確かに私の似顔絵を部屋中に貼っている事や、私の私物を未だに集めている事、さらに私が使ったスプーンやストロー、マグカップをコレクションしている事を知った時は驚いたけれど、どれだけ私を大切にしてくれているという事だものね。


「オニキス、僕のスピーチ、どうだった?」


戻ってきたブライン様が、すかさず私に問いかける。おっと、考え事をしていてあまり聞いていなかったわ。


「えっと…とても素敵でしたわ…」


「嘘だね。君、別の事を考えていただろう?僕はずっと君を見ていたからわかるんだ。それで何を考えていたんだい?もしかして、まだ僕と婚約破棄をしたいと思っているのか!」


「ブライン様、落ち着いて下さい。ブライン様と過ごした日々を思い返していたのです。私は完璧なブライン様よりも、今のブライン様の方が好きだなって…その…」


なんだか恥ずかしくなって俯く。


「オニキス、何て嬉しい事を言ってくれるんだ!ありがとう。でも、人が話している時は、きちんと聞かないとダメだよ。分かったね」


「はい、分かりましたわ。ごめんなさい」


私の頭を撫でながらほほ笑んでいるブライン様に、素直に謝罪した。


「オニキス、式も終わったし、帰ろうか」


「はい」


再びブライン様と手を繋いで、ホールから出ようとしたのだが…


「オニキス様、これで卒業なんて寂しいですわ。卒業しても、仲良くしてくださいね」


「私もです。オニキス様には本当に色々とお世話になりました。ダニー様の事とか」


一斉に令嬢たちが私を取り囲んだのだ。さらに


「ブライン殿下、お慕いしておりました。最後に握手だけでも」


「ちょっと、抜け駆けしないでよ。ブライン殿下、どうかこれを受け取ってください」


ブライン様まで令嬢たちに囲まれたのだ。ブライン様はこの国一の美青年、さらに聡明でお優しく、最近では特に体を鍛えている様で、体つきもガッチリしている。まさに令嬢たちにとっては、理想的な男性なのだろう。


「君たち、申し訳ないが、僕とオニキスは今から王宮に戻らないといけないんだ。ほら、オニキス、行こう」


「「「「あぁ~ブライン殿下」」」


「「「オニキス様~」」」


令嬢たちの悲痛な叫びも空しく、私を連れ馬車へと戻るブライン様。


「相変わらずブライン様はモテますね」


「オニキスだって、令息たちの熱い視線を受けていたではないか。僕が日々睨みをきかせていたから、近づいてこなかっただけだよ。さあ、早く王宮に戻ろう。そうそう、君のその制服、僕に頂戴ね」


「…ええ、分かりましたわ…」


ブライン様は最近、私が愛用している物や長く使っている物をよく欲しがる。一体何に使っているのかしら?そう思って一度ヴァン様に聞いたのだが


“オニキス様は知らない方がよろしいです”


と言っていた。知らない方がいいとは、どういう事かしら?まあ、別にどう使われようがいいけれど…


ブライン様にエスコートされ、馬車へと乗り込んで王宮を目指す。隣でニコニコと私の顔を見つめているブライン様。私の顔を露骨に見られるようになってから、いつもこうやってずっと見ているのだ。最初は恥ずかしかったが、もう慣れた。


さらに腰に手を回したり頬ずりするところまでは大丈夫になった。ただ、まだ口づけとなるとダメな様で、私の頬に口づけをした瞬間、盛大な鼻血がぶっ飛ぶ。もちろん、私からもダメだ。


それでもわずか半年足らずで、私に普通に触れられる様になったのだから、大したものだ。


しばらく走ると、王宮に着いた。


ブライン様にエスコートされながら馬車を降りると、そのままいつも使っている部屋へと向かう。部屋に入ると陛下と王妃様、お父様とお母様も待っていた。


いよいよ今日、私とブライン様の結婚をそのまま進めていいかの判断が下る。なんだか緊張してきたわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る