第43話 卒業式当日を迎えました

ブライン様の過酷な訓練を始めてから、早半年。今日は卒業式だ。この半年間、ブライン様は随分と頑張った。本当に見ているこっちが辛くなるくらいに…


「お嬢様、遠い目をされてどうされたのですか?今日は卒業式ですよ。さあ、ご準備を」


いつもの様にマリンが制服を着せてくれる。この制服を着るのも、今日で最後ね。制服に着替えると、玄関へと向かう。


「オニキス、卒業式が終わったら、王宮に向かう予定だ。真っすぐ帰ってくるんだよ」


「ええ、分かっておりますわ、お父様。今日は私とブライン様がこのまま結婚しても問題ないか、判断する日ですものね。極力早く帰るようにいたします」


そう、今日はお父様との約束の日。今日までにブライン様が私を克服しなければ、婚約は解消、1ヶ月後に控えた結婚式も一旦白紙に戻すらしい。


ただ…他国の王族たちも招待している私たちの結婚式を、白紙に戻す事なんて出来るのかしら?そう思いつつも、お父様なら白紙にしそうだという気持ちもぬぐえない。


「オニキス、早くいかないと遅刻してしまうわよ」


固まってしまった私の肩を優しく叩き、促すのはお母様だ。


「そうですわね。それでは行って参ります」


馬車に乗り込み、学院を目指す。この風景を見るのも、今日で最後ね。そう思うと、なんだか寂しいわ。


しばらく進むと、見慣れた学院が見えてきた。3年間通った学院も、今日で最後なのね。馬車が停まると、ゆっくり降りる。


すると


「オニキス、会いたかったよ!」


この声は。


「ブライン様、おはようございます」


どうやら私を待っていてくれた様だ。この半年で、随分と私に慣れて下さったブライン様。もう私の顔を見ても平気だ。


「さあ、一緒にホールに向かおう」


私の手をギュッと握りしめ、ブライン様が歩き出した。そう、手を握っても大丈夫になった。ここまで来るまでに、ブライン様はどれほどの血を流したか…考えるだけで、恐ろしい。よく生きていてくださったものだ。


ホールに付くと、クロエ様の姿も。


「クロエ様!おはようございます」


クロエ様の方に走って行こうとしたのだが、ブライン様にガッチリと手を握られている為、行く事が出来なかった。


私に気が付いたクロエ様が、ゆっくりとこっちにやってくる。


「おはよう、オニキス。あなた、今日も元気ね」


「殿下、オニキス嬢、おはようございます。クロエ、殿下にも挨拶をしろと言っているだろう?」


クロエ様の隣で文句を言っているのは、ブレッド様だ。実はあの後、正式にブレッド様から婚約の申し込みを受けたクロエ様。本人は嫌がっていたが、ミレィシャル伯爵とブレッド様のお父様でもあるクラッシーノ侯爵が話し合って、無事婚約を結んだのだ。


クロエ様は


“どうして私がこんなゴリラなんかと婚約しないといけないのよ!”


と、怒っていたが、なんだかんだで2人は仲睦まじいのだ。


“ブレッド様、殿下は猛烈に変態なのです…あぁ、顔を見るだけで気持ち悪い…“


“コラ、クロエ。殿下になんて事を言うんだ“


どうやらクロエ様がお得意の暴言を吐いた様で、ブレッド様が怒っている。相変わらず我が道を行くクロエ様が、私は大好きだ。


「ミレィシャル伯爵嬢、僕だって君の顔を見ると虫唾が走るよ。もう二度と、僕の可愛いオニキスをそそのかさないでくれ!」


ブライン様がすかさずクロエ様に文句を言っているが、フンっとそっぽを向いているクロエ様。さすがだわ。この2人、実は仲があまり宜しくないみたいだ。


「それじゃあオニキス、また遊びに行くわ。あなたは王妃になるのだものね。仲良くしておいて損はないし」


「ええ、是非遊びに来てくださ…」


「遊びに何て来なくていいからな!卒業したら、もう二度とオニキスに近づかないでくれ」


私の言葉を被せ、クロエ様に向かってブライン様が叫んだ。ちょっとブライン様、どうしてそんな酷い事を言うの?さすがにクロエ様に謝ろうとしたのだが…


「殿下にとやかく言われる筋合いはありませんわ。あなた様の悪趣味、皆様にばらしてもいいのですよ。オニキス、また今度ね。それでは、ごきげんよう」


涼しい顔をして去っていくクロエ様。


「殿下、クロエが申し訳ございませんでした。それでは失礼します」


私達に頭を下げ、クロエ様の元へ急ぐのはブレッド様だ。ブレッド様はクロエ様が大好きな様で、いつも寄り添っている。


「クソ、あの女!本当に嫌な女だ!オニキス、いいかい?あの女にはあまり近づいてはいけないよ。分かったね。あと、ブレッドにもだ。君、ブレッドに興味を抱いていたよね。もしかして、ブレッドに近づきたくて、あの女と仲良くしていたのかい?」


なぜそうなるのだろう…


「そんな訳はありませんわ。私は8歳の時からずっと、ブライン様をお慕いしておりました。それにクロエ様は本当に素敵な令嬢ですわよ。彼女といると、毎日が楽しいのです。さあ、そろそろ式が始まりますわ。私達も席に付きましょう」


「そう言ってごまかして。いいかい?君は来月には僕と結婚して次期王妃になるんだ。それなのにあんな品のない女と一緒にいては…」


「ブライン様、式が始まる様です。席に付きましょう」


意外と口うるさいブライン様。昔は話の途中で鼻血を出していた為、特に何も思わなかったが、鼻血がある程度コントロールできるようになった今、長々と怒られることもしばしば…


でも…それも私と普通に接する事が出来る様になった証だと思っておこう。

そう思いつつ、2人で席に付いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る