第46話 婚約破棄は出来ませんでしたが幸せです
「お嬢様、準備が出来ましたよ」
「ありがとう」
真っ白なウエディングドレスに身を包み、鏡の前に立つ。今日はブライン様と私の結婚式だ。
「オニキス、とても綺麗ね」
「本当に、そのドレス、オニキスちゃんにとても似合っているわ」
「オニキスちゃん、とても素敵よ。これならブライン様もきっと、メロメロね」
お母様と王妃様、お義姉様が褒めてくれた。本当に私、ブライン様の元に嫁ぐのね。なんだか不思議だわ。
昨日は両親とお兄様家族と一緒に、公爵家で食べる最後の晩餐を楽しんだ。私は次期王妃、よほどの事がない限り、今後公爵家に帰る事は許されないのだ。そう考えると、なんだか寂しいわ。
「さあ、ブラインも待っているわ。そろそろ行きましょう。あの子、今日は鼻血が出ないといいけれど…さすがに他国の王族がいる前で、鼻血が噴き出るなんて醜態を晒すわけにはいかないものね…」
王妃様が心配そうに呟いた。確かにブライン様の鼻血姿、結構衝撃的だものね。一末の不安を抱きながら着替え部屋から出で、控室へと向かう。控室には、お父様と陛下、お兄様とランプ、さらにブライン様が待っていた。
「あぁ、オニキス。なんて綺麗…」
「オニキス、きれい」
「ありがとう、ランプ」
ブライン様よりも早く私の傍に駆け寄ってきてくれたのは、ランプだ。私に飛びつくランプをそのまま抱きかかえた。
「おい、ランプ!どうして僕より先に、オニキスに抱き着くんだ!いくら甥でも許さないぞ!」
私に抱っこされているランプに向かって、ブライン様が怒鳴った。ちょっとブライン様、まだランプは小さな子供なのですよ!そんなに怖い顔をして怒ったら、可哀そうだわ。
案の定
「えぇぇぇん、でんかが…」
そう言ってランプが泣き出してしまった。私から慌ててランプを受け取るお義姉様。
「殿下、ランプはまだ1歳半ですよ。小さな子供に嫉妬するのはお止めください。さすがに見苦しいです!」
「たとえ子供でも、ランプは男だ!そういえば以前も僕に内緒で、オニキスの柔らかそうな胸に顔をうずめていたな。おい、ジョンソン。君は息子にどういう教育をしているんだ」
「どうもこうも、ランプはとてもいい子に育っています。殿下こそ、1歳児にむきになるなんて、恥ずかしくないのですか?」
「何だと!」
お兄様とブライン様の言い合いが始まった。さすがにランプに嫉妬するなんて、お義姉様もドン引きしている。
「止めなさい、2人とも。ほら、もうすぐ式が始まるよ。さあ、行こう」
陛下がその場をうまくまとめ、なんとか事なきを得た。そしてお兄様家族や陛下、王妃様、お母様が部屋から出ていく。
私たちも部屋から出て行こうとした時だった。
「オニキス、私の可愛い娘。本当に殿下と結婚してしまうんだね…正直不安しかないが、どうか幸せになってくれ。もし殿下とうまく行かなかったら、いつでも帰ってきていいのだよ」
そう声を掛けてきてくれたのは、お父様だ。そんなお父様をギロリと睨んでいるブライン様。
「お父様、17年間、大切に育てていただき、ありがとうございました。はい、私はブライン様と結婚いたします。確かにすれ違ってしまった事はありましたが、今はお互い信頼し合っております。それにこの7ヶ月間、共に手を取り合い困難も乗り越えて参りました。きっとこれからも、色々な困難が待ち受けているかもしれません。でもその時は、またブライン様と手を取り合い、乗り越えていきますわ。ね、ブライン様」
「もちろんだ!オニキスは僕が守るよ!公爵も、大船に乗ったつもりでオニキスを僕に託してくれて構わない。さあ、そろそろ行こう。あぁ、僕の可愛いオニキスは本当に綺麗だね。ダメだ…鼻血が…」
「ブライン様、耐えて下さい!真っ白なタキシードに鼻血が付いては大変ですわ。お父様、そこにある紙を取ってください」
「これか!本当に殿下は」
お父様から紙を受け取り、急いでブライン様の鼻を拭いた。幸い噴き出ていなかった為、タキシードは汚れていない。よかったわ。
「ブライン様、今日は鼻血厳禁です。どうか心穏やかにお願いします」
「すまない、つい興奮してしまって。でも大丈夫だ。君への口づけももう慣れたし。ほら」
そう言うと私の唇に、チュッと口づけをした。
「殿下、私のいる前で、その様な事はお止めください!それは本番ですればいいのです」
すかさず怒るお父様。
「公爵は本当によく怒るね。さあ、僕たちもそろそろ行こう。それじゃあ公爵、また後で」
お父様と別れ、ブライン様と一緒に教会の入口へと向かった。今日は他国の王族たちも沢山来ていると聞く。なんだか緊張してきたわ。
「オニキス、緊張しているのかい?可愛いね。そういえば、今日は初夜だね。僕はこの日が楽しみすぎて…」
「ブライン様、また鼻血が噴き出るので妄想はお止めください!それにまだ初夜は早いです。最近やっと口づけが出来る様になったばかりではありませんか?」
また鼻血が噴き出る!そう思い、すかさず叫んだ。近くにいた使用人たちも同じことを思ったのか、紙を持って飛んできた。
きっとこのまま初夜なんてしたら、間違いなくブライン様は出血多量で命がないだろう。そう思って伝えたのだが…
「大丈夫だ。その為に大量の止血剤を準備した。それにオニキスが応急処置をしてくれるから、大丈夫だろう?今日は何が何でも、初夜を済ませるから。僕はこの日を心待ちにしていたんだ。たとえ今日命を落としても、心残りはない!あっ、でもオニキスを残しては死ねないな。万が一別の令息にオニキスを取られたら!考えただけで腹立たしい!」
「ブライン様、落ち着いて下さい…大丈夫ですわ、あなた様はそうそうお亡くなりにはなりませんから…それに私は、別の殿方と再婚するつもりはありません」
無駄に怒りだしたブライン様をなだめる。この人は本当に…
本当にどうしようもない人だけれど、それでも私は彼が大好きだ。
つい数ヶ月前までは、婚約破棄したくてたまらなかったけれど、今は彼と共に生きていきたい。そう思っている。
「ブライン殿下、オニキス様。そろそろご入場の時間です」
「オニキス、さっさと面倒な式とお披露目パーティーを終わらせて、2人きりになろう」
「もう、ブライン様ったら」
「さあ、扉が開くよ、行こうか、オニキス」
「はい、ブライン様」
教会の扉がゆっくりと開く。しっかりと腕を組み、ゆっくりと歩き出した2人。幸せそうに歩みを進める2人を、沢山の来賓たちが温かく見守っている。
もしかしたらこれからも、沢山の困難が2人を待ち受けているかもしれない。それでもブラインの気持ち悪いほどのオニキスへの執着と、どんなブラインでも受け入れるオニキス。そんな2人なら、困難も乗り越えていく事だろう。
きっと…
おしまい
~あとがき~
これにて完結です。
ブライン、かなりキモかったですかね(;^_^A
少しだけ番外編を投稿予定です。
最後までお読みいただき、ありがとうございましたm(__)m
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