第38話 選択肢が与えられました
完全に固まった私たちの元にやって来たのは、クロエ様だ。どうやらまだいた様だ。
“オニキス、あなた、ブライン様からはどうしても逃げられない様ね…でもあなた、自分だけを愛してくれる人と結婚したいって言っていたから、ある意味よかったじゃない。それじゃあ、私はもう帰るわね。また学院で会いましょう”
そう呟くと、伯爵さまと一緒に部屋から出ていくクロエ様。確かに私だけを愛してくれる人と結婚したいと言ったけれど…
ふとブライン様の方を見ると、スヤスヤと眠っていた。そして血も止まっている。そっとブライン様に近づいた。
久しぶりにじっくり見るブライン様。やっぱりお美しいお顔をしていらっしゃるわ。そっとブライン様の髪に触れる。
「ブライン様、私を愛してくださり、ありがとうございます。でも…どうして私を見たり触れたりすると、鼻血が出るのですか?それじゃあ、私達は夫婦として生活できないではありませんか…」
ついそんな事を呟いてしまう。
「その事なのだが…オニキス嬢、申し訳ないが、ブラインがオニキス嬢になれるように、毎日ブラインに会いに来てやってもらえないだろうか。もちろん、今まで見たいな感じではなく、オニキス嬢に触れたり顔を見たりする練習をするためにだ」
「でも陛下、そんな事をしたら、きっとまたブライン様の鼻血が噴き出るのではありませんか?頻繁に出血していたら、ブライン様のお体に関わります」
頻繁に出血したら、さすがにブライン様の体の負担が大きすぎるだろう。
「そうだな…でも、これはブラインが望んでいる事なんだ。ブラインは誰よりも君の顔を見たい、君に触れたいと思っているんだよ。だから今回、自分のプライドを捨てて、君にありのままの自分をさらけ出した。だから、どうかブラインの気持ちを汲んでやって欲しい」
真っすぐ私を見つめ、そう言った陛下。
「陛下、私はオニキスにそんな負担を強いたくはありません。オニキス、殿下が意識を失っているうちに、他国に逃げよう。そうだ、他国の王太子と婚約をすれば、さすがの殿下も手が出せなくなるだろう」
これは名案だ!と、言わんばかりにお父様が手をポンと叩いている。
「公爵、適当な事を言うな!少しお前はだまっていろ!オニキス嬢、どうかブラインを見捨てないでやって欲しい。まあ、心優しい君ならきっと、ブラインの傍に寄り添ってくれると思うがな」
「陛下、オニキスの優しさにつけ込む様なことをするのはお止めください。オニキス、お父様が間違っていた。まさかブライン殿下がこんな変態だなんて思わなかったんだ。お前が婚約破棄したいと言った時、聞いておけばよかったと今、猛烈に後悔している。大丈夫だ、オニキス。君が望むなら、たとえこの国を追われることになっても、婚約破棄をして見せるから」
「公爵、私の息子を変態扱いしないでくれ。確かにブラインは、少し行き過ぎたところがあるが、それもこれも、オニキス嬢を愛するあまりの行動なんだ。オニキス嬢、どうか分かってやって欲しい」
お父様と陛下が真っすぐ私を見つめている。お兄様も王妃様も、ブライン様の従者のヴァン様も私を見ている。
「私は…正直今日を迎えるまでは、ブライン様と婚約を破棄したいと考えておりました。ブライン様は私の事を嫌っている、そしてクロエ様を愛していると思っていたからです。でも、今日この部屋にやって来て、ブライン様がどれほど私を大切にして下さっているかよくわかりました。確かに、少し驚きましたが…」
部屋の周りを改めて見渡す。本当にいたるところに私の顔が張られているのだ。それに、私の私物も沢山あるし。このドレスなんて、私が9歳の時に気に入って着ていたものなのよね。この手袋は、デビュータントを迎えた時の物だ。
本当に大切に保管してくれている。それが何だか、嬉しい。
「それほどまでに私を愛してくださっているブライン様に、私も出来る限り答えたいと思っております。ですから陛下、お父様、どうかこのまま私を、ブライン様の婚約者でいさせてください」
そう言うと、深々と頭を下げた。
「オニキス、自分が言っている意味が分かっているのかい?殿下の傍にいたら、確実に苦労するんだよ。もしかしたら殿下は、オニキスを克服できないかもしれない」
「それはちょっと困りますが…でも、せっかくブライン様が勇気を出して自分をさらけ出してくださったのです。私も出来る限り協力したいと思いますわ。それに元々、私がブライン様に惚れて婚約を申し込んだのですもの」
そう、元々私がブライン様に惚れたのだから、ブライン様が私を愛していると知った以上、最後まで責任を取らないと。
「しかしだな…」
「公爵、オニキス嬢が出した答えだ。尊重してやろう」
満面の笑みでお父様の肩を叩く陛下。
「それじゃあ、これからもブラインの事をよろしく頼むよ」
「はい、出来る限りの事はさせていただきます」
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