第39話 オニキスは…~ブライン視点~
「う~ん」
重い瞼を持ち上げると、見覚えのある天井が。僕、どうしたんだったっけ?重い体を持ち上げようとすると
「殿下、まだ起き上がらない方がよろしいです。どうか横になっていてください」
「ヴァン、僕は…」
回らない頭で、今日の出来事を思い返してみる。僕はどうして横になっているんだっけな…
そうだ、今日はオニキスとあの女を呼び出して、それで…
そうだ、僕はオニキスの目の前で、盛大に鼻血を吹き出してしまったんだ。それでこの部屋に運ばれてきて…ダメだ、それ以降の記憶が全くない。
「ヴァン、もしかしてオニキスは、この部屋を見たのかい?」
「…はい、バッチリとご覧になっておりました。オニキス様だけでなく、メッション公爵や公爵令息、さらにはミレィシャル伯爵やクロエ様までバッチリご覧になっておりましたよ。クロエ様に至っては、完全に顔が引きつっておりました。さらに殿下の事を、虫けらを見る様な眼差しで見つめておりました」
「あの女の話なんてどうでもいいんだ。それよりもオニキスだ。オニキスの顔は引きつっていなかったか?やっぱり僕とは婚約破棄をしたいと言っていたのではないか?あぁ、こんな部屋をオニキスが見たと思ったら、僕はもう…」
急にめまいがし始めた。もうダメだ、きっとオニキスは、僕の事を気持ち悪い男だと思っているだろう。もう僕とは口もきいてくれないかもしれない。
「殿下、落ち着てい下さい。確かにメッション公爵は殿下の変態っぷりに怒り狂い、なんとかしてオニキス様と殿下を婚約破棄させようと躍起になっておられました。それを必死に陛下が止めておりましたよ。ちなみに、オニキス様の寝具やドレスなどは、全て公爵が回収していきました。公爵の性格上、殿下に協力した人物を徹底的に調べ上げるでしょうから、きっともう、公爵家からオニキス様の私物を取り寄せる事は厳しくなると思います」
「何だって!僕の宝物を公爵が持って行っただと?ふざけるな。ただでさえもうオニキスには会えないかもしれないと言うのに…僕の唯一の安らぎでもある、オニキスの私物まで奪われるなんて…それももう取り寄せられないなんて。もう僕は生きている意味がない…このままいっその事…」
「殿下、落ち着いて下さい。本当にあなた様は大げさなんですから」
「誰が大げさだ!ヴァン、君なら持っているのだろう?オニキスの私物を。いつもの様に、出してくれ。今オニキスの香りを嗅がないと、僕は…」
「ブライン、またそんな気持ち悪い事を言って。本当にお前は…今日は出血が酷かったから、ゆっくり休みなさい。それからオニキス嬢の件だが、彼女の意向でお前との婚約は破棄しないとの事だ。本当にオニキス嬢は優しいな。これからはお前を支えていきたい、お前がオニキス嬢を克服するまで、全力で協力すると言っていたぞ。ブライン、オニキス嬢の気持ちを無駄にするような事だけはするなよ。よかったな、ブライン」
いつの間にか僕の部屋にやって来ていたのは父上だ。
「父上、それは本当ですか?本当にオニキスがそう言ったのですか?」
「ああ。ただ、公爵はかなり不満そうだったから、もしかしたらオニキス嬢を隠してしまうかもしれないな…」
「何ですって!おのれ、公爵め。僕からオニキスを奪おうだなんて。とにかくオニキスの期待に答えないと!こうしちゃいられない、今から筋肉アップの訓練を行います。オニキスは筋肉が付いた男が好きみたいですので」
「殿下、落ち着いて下さい。あなた様は今、貧血気味なのです。とにかく薬を飲んでください」
すかさず僕の前に苦い薬を出すヴァン。本当にこいつは…でも、オニキスの為だ、なんとか薬を飲み切った。
「ブライン、嬉しい気持ちは分かるが、とにかく今は体を回復する事を優先しろ。それから、明日からもきっと大量に出血をするだろうから、医師の監視の元、オニキス嬢と一緒に訓練を行おう。念のため止血剤と血を作る薬だ。ヴァン、状況を見て飲ませてやってくれ」
「はい、かしこまりました」
「それじゃあ私はこれで失礼する。ブライン、今日はとにかくゆっくり休め。それと、明日にはオニキス嬢が登城する。今日はもう、モニターを見るな。また出血したら大変だからな。ヴァン、モニターを見られない様にしておいてくれ」
「はい、かしこまりました」
「父上、こんな時にオニキスの姿を見られないだなんて!出血をしない様に気を付けますので、どうかオニキスの姿を…」
「ダメだ!とにかく今日は休め。いいな」
そう言うと、父上は部屋から出て行った。
「殿下、とにかく今日はお休みください。明日またオニキス様に会えますので。殿下とオニキス様の未来の為にも、ゆっくり休んでください」
「…分かったよ。今日は休むことにする」
そう伝えると、ヴァンは安心した表情をして部屋から出て行った。ヴァンが出て行った姿を確認すると、急いでスペアのモニターを取り出した。こんな事もあろうかと、準備しておいたのだ。
早速可愛いオニキスの姿を見ようと思ったのだが…
「あれ、つかないぞ。どうなっているんだ?クソ!なんでつかないんだ!」
何度押しても、モニターの映像が映らないのだ。そうか、今は着替え中か。そう納得し、一旦モニターを消す。でも、その後何度付けても付く事がない。
さすがにおかしいと思った僕は、すぐにヴァンを呼び出した。
「モニターが付かないんだ!一体どうなっているんだ?」
「殿下、今日はモニターは見てはいけないと、陛下にも言われていたでしょう。どこからこのモニターを持ち出したのですか?本当にあなたって人は…」
「それよりも、モニターが付かないんだ。まさか故障か?今すぐに調べてくれ」
「はぁ~、分かりましたよ」
すぐに調べるヴァン。
「これは…どうやら盗撮機が全て取り払われた様ですね。盗撮機が取り払われては、もう映像を見る事は出来ないです」
「何だって!すぐに公爵を呼べ!」
そう伝えたのだが…
「殿下、今日はとにかく諦めて下さい。それでは私はこれで」
「おい、待て。ヴァン!」
僕を無視して、ヴァンは部屋から出て行った。結局この日は、可愛いオニキスの姿を見る事が出来なかったのだった。
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