第37話 ブライン様からは逃げられない様です

「王妃殿下、今の話は本当ですか?だから殿下は、オニキスに冷たく当たっていたのですか?」


お兄様が急に話に入って来た。


「ええ…」


「それでは殿下は、オニキスに触れるどころか、顔も見る事も出来ないという事ですよね。そんな状況で結婚しても、オニキスは辛いだけではありませんか?それに、オニキスに触れられないのに、どうやって夜の方を済ませるのですか?世継ぎだって、絶望的です」


「確かにそうね…でも、これから少しずつオニキスちゃんに慣れていけば…」


「婚約して8年経っていますが、未だに顔を見る事も触れる事も出来ないのですよ。どうやってオニキスに慣れろというのです?」


お兄様が王妃様に詰め寄っている。確かに私に触れられない、顔も見られないのだとすると、いくら愛されていてもそれはそれで辛い。


「ジョンソン、落ち着きなさい。王妃殿下、息子が失礼いたしました。ただ、殿下の状況を伺った限り、オニキスとの結婚は、物理的に不可能かと…」


お父様までここに来て、そんな事を言いだしたのだ。これはもしかすると、本当に婚約破棄という流れになるかもしれない。ブライン様も、私の顔を見ただけであれほどまでに出血してしまうのならば、彼の体の負担を考えても、やっぱり私とは婚約破棄をした方がいいだろう。


「クロエ様、やっぱり私は、ブライン様とは結婚できませんわ。ですから、クロエ様が…」


近くでまだ顔が引きつっているクロエ様に話しかけた。


「無理無理無理!私、ああいうストーカー気質の人間は本当に無理なのよ。本当に気持ち悪いわ。ほら、私の腕、見てみなさい。鳥肌が立っているでしょう」


腕を捲り、私に見せてくるクロエ様。終いには父親でもある伯爵に、もう帰りたいと訴えている始末。あれほどまでにブライン様を愛していると言っていたのに…


ふとお父様サイドを見ると、お兄様と王妃様、さらに陛下まで加わり、言い合いをしている。


「公爵、それにジョンソン、確かに君たちの意見もわかる。でも、ブラインは今回、自分のブライドを捨て、オニキス嬢に真の姿を見せたんだ。これから少しずつ、オニキス嬢に協力してもらい、彼女に慣れていったらいいではないか。それに何より、ブラインがオニキス嬢以外とは絶対に結婚しないと言っていてな…とにかく、もう少し様子を見てやって欲しい」


そう言って頭を下げる陛下。そんな陛下に対し、お父様も考え込んでいる。


「陛下、あなた様の気持ちは分かりました。ただ、よく考えたら、我が娘、オニキスは伯爵令嬢と共謀し、殿下や我々を騙し、無理やり婚約破棄を進めようとしました。やはりこのまま娘にはお咎めなしという訳にはいきません。オニキス、お前にはしばらく修道院で反省してもらう。そこでいかに自分が浅はかな行動をしたか、反省するんだ。分かったな!」


急にお父様が、私を修道院に入れると言い出したのだ。


「分かりましたわ。私は確かに、皆様にご迷惑をお掛けしました。ただ、どうかクロエ様は不問でお願いいたします」


「ああ、さっきクロエ嬢の話は、不問で纏まったからな。それじゃあ、早速修道院の手配をしよう。そうだ、殿下の魔の手が及ばない、他国の修道院にしよう。すぐに手配をしないと。陛下、という訳で、オニキスはしばらく修道院で反省する事になりました。ですので、ブライン殿下との婚約は白紙に戻させていただきます。さすがに修道院に行く娘との婚約は続けられませんので。とにかく、殿下の意識が朦朧としている間に、書類を作成してしまいましょう」


「公爵…お前ってやつは…」


ジト目でお父様を睨んでいる陛下。お兄様も大慌てで、書類を準備する様に使用人に指示を出している。どうやら私は、本当に修道院に行くそうだ。


「…公爵…僕からオニキスを守る為、あえて王族の魔の手が伸びない修道院にオニキスを避難させようとしているね…でも、そんな事はさせないよ…オニキスは不問に処す…そして僕と結婚するんだ…これは王族の決定事項だ…そうでしょう、父上…」


「殿下、まだ出血が止まっておりません。とにかく横になってください」


フラフラとこちらにやって来たブライン様が、お父様に向かって呟いた。ただ、目はうつろで半笑い、そして何より、まだ鼻から血が出ている。はっきり言って、怖い。そんなブライン様を連れ戻そうと、従者や護衛騎士がブライン様の腕を掴んだ。


「公爵、もう一度言います。オニキスを修道院に逃がすことは許さない!もし逃がしても、徹底的に調べ上げて取り戻すからね。オニキス、君も僕から逃げられると思ったら大間違いだよ。君は僕と…」


私の方を見つめ、呟こうとした瞬間再び鼻血が噴き出たのだ。


「殿下!また出血が。すぐに止血剤を準備してくれ!」


「と…とにかく…僕からは逃がさないから…」


ほぼ白目をむいたブライン様が、従者たちによって再びベッドに寝かされた。


「公爵、悪いがもうブラインからは逃げられない…どうか諦めてくれ」


陛下がお父様の肩を叩きながら、呟いた。さすがのお父様も、これ以上は言えない様で、何とも言えない顔をしていた。


どうやら私は、ブライン様から逃げる事は出来ない様だ。

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