第129話
静岡県に出現した木叢のダンジョンにて。
「いや、ここはマジでキツいな」
「こんなの相手にペア攻略とかアホだろ」
「颯君たち、バケモンっすね」
光になって消えつつある巨大モンスターの亡骸を前に、南雲 龍之介や黒崎 慎吾、一ノ瀬 一馬が休憩しながら颯たちの異常さを改めて感じていた。
第6等級ダンジョンは8名以上のパーティーを組んでの攻略が推奨される難易度。ここより高難易度のダンジョンが解放され、そこで得た装備を纏えば少人数での攻略も難しくはない。
しかし龍之介たちが辿り着いたこの7階層まで、颯と玲奈はたったふたりで踏破していたのだ。
「颯君はひとりで10人分の働きしちゃうからね」
「アタッカーもタンクもできる」
補助系魔法使いの羽鳥 涼香と、拳闘士の武宮 葉月も龍之介たちのパーティーに参加していた。彼女らは今、5人で木叢のダンジョン攻略を進めている。
「颯君はアタッカーやタンクだけじゃなく、司令塔でもあるっす」
「あー。そっか」
「玲奈ちゃんが誰よりも彼の指示を忠実に実行するね」
「颯が削るのに時間がかかる敵は東雲が倒す」
「あのペアはマジで最強っす」
「でもさ、俺らは5人もいるんだぜ。弱音吐いてらんないだろ」
彼らはあと半日で、このダンジョンの中ボスを撃破しようとしていた。
それが颯から課されたミッションなのだ。
「さぁ、休憩終了だよ!」
「よっしゃ。いくか」
「ちゃっちゃと中ボス倒しにいこーぜ」
「でもタイミングは調整しないとダメだよ」
「通信できねーからな。時間で合わせるしかない」
「颯君たちなら大丈夫でしょ」
自分たちの言動も女神にチェックされていることを想定し、彼らはダンジョン内で作戦のことを話し合わない。
ただ互いに話し合って決めた時間を守り、約束の場所にたどり着くのみ。
「問題は俺たちの方かも……」
「それも大丈夫だよ」
「はい。大丈夫っす」
「だって私たちは──」
「ハヤテ式ダンジョン攻略講座のハードモードをクリアしてるからな!!」
地獄の特訓を乗り越えたことが彼らの自信に繋がっていた。
──***──
その頃、颯と玲奈、直人、芽依は神奈川県に出現した木叢のダンジョンにいた。
「さて。俺たちが追いかける感じになっちゃった」
「女神が戦うのって、最初だけだからな」
「Sクラスのみんなに負けてらんないね」
「頑張っておいかけよー!!」
ダンジョンに入る前に配信を確認し、龍之介たちが7階層まで攻略を進めていることを把握していた。
「あいつら残り3階層だけだろ? 追いつけるか?」
「追いつけるかじゃなく、追い越さなきゃ」
「うん、そうだね」
「火力なら負けないよ!」
改めて装備の確認をしながら、颯がダンジョンの奥を見据える。
「よし、いこう」
「「はーい」」「おう!」
植物系のダンジョンは比較的モンスターを倒しやすいので、同一の等級内では一番先に攻略される。そのため颯と玲奈はここの攻略を進めていた。
しばらく攻略を止めていたとはいえ、モンスターと戦った感覚はまだ身体が覚えている。ゲームだったFWOと現実のダンジョンとの間で微妙な差が生じることは多々あるが、それもまだ記憶に新しい。
「直人、右の方から強い攻撃くるよ。スキルで防いで」
「了解!」
「さきのんは詠唱はじめて。合成魔法じゃなくて良いから」
「おっけー」
「玲奈は……。うん、その感じで引き続きよろしく」
「はーい」
どの敵を狙えば颯の支援になるかを十分に理解し始めている玲奈は、彼の指示を予測して行動を開始していた。
言葉をかけられなくても動ける。
それは推しの思考を完璧に理解した証。
玲奈は満足げな笑みを浮かべ、遠方のモンスターに強烈な攻撃を放っていく。
颯と玲奈のペアで7階層までノンストップで攻略できた。そこに現時点で最高峰の装備を纏い、鬼教官の課す訓練を乗り越えたタンクとアタッカーが追加されたのだ。
攻略速度が上がらないわけがない。
彼らはFWOがゲームであった時に特定のプレイヤーがやっていた
そして、その日の昼頃──
「ふぅ。なんとか予定してた時間に間に合った」
中ボスの玄武を倒し、颯たちはラスボスの部屋の前にいた。
「いよいよだね」
「俺たちは初めての対女神戦だ」
「ちょっとドキドキする」
直人と芽依は不安そうだった。
「大丈夫だよ。みんなは強いから。それに一度女神に勝った俺がいる。俺は強いよ」
普段はあまり使わない言葉で颯が直人たちを勇気づける。
彼の声が力になった。最強の仲間がいると再確認した直人たちの表情に、不安の色は残っていない。
それを確認した颯がボス部屋の扉に手をかけた。
この状況を強制配信で見ているであろう視聴者たちに意気込みを伝える。
「みんな! 俺たちは今日、
それはかつて誰にも使いこなせないと思われていた四刀流で、FWO運営が設定した高難易度ミッションを次々クリアしてしまった最強配信者のセリフだった。
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