第128話

 

「獣のダンジョン踏破を祝して、かんぱーい!」


「「「乾杯!」」」


 いつものファミレスでジュースを片手に今日のダンジョン攻略について話し合う颯たち。


「白虎戦、思ったより楽勝だった」

「私の魔法が要らなかったもんね」

「設定が変わってないなら余裕かな」

「私たちスキル解放率も高めだし」


 彼らは危なげなくラスボスの白虎を倒していた。


「みんな、体力とか大丈夫そう?」

「疲労は今晩寝れば回復するぐらい」

「怪我もないね」

「うん」

「なら明日から木叢のダンジョン入ろうか」

「俺はいけるよ」

「私も」

「同じく!」


 何百、何千人という攻略者が攻略のために傷付き、疲労し、心を折られてクリアを断念する第5等級ダンジョン。そんな場所を突破した翌日に彼らはもう次のステージに向かおうとしていた。


「だいぶから」

「それな」

「もう準備できたって」

「みんな、さすがだね」


 そう言いながら意味ありげな笑いを浮かべる颯たち。


「あの作戦、バレてないのかな?」

「相手は神様だからなぁ」

「この会話聞かれてたりするかも」

「バレてなきゃとラッキー、って思おう」

「そうそう。やることは変わんない」

「ただ気付かれてなければ、女神の驚いた顔を見られる」


 第6等級、木叢のダンジョン。

 そのラスボスに女神が憑依する。


 颯は二度目となる女神との対戦だ。


「今回は颯を名指しで挑戦しに来いって感じだもんな」

「対颯君のステータスで待ち構えられてると思わないと」

「ハヤテが私たちと一緒ってのも考慮されてるかな」

「たぶんね」


 ソロで女神に挑んだ時と違い、今の颯には仲間がいる。それも彼と同じレベルでダンジョン攻略を推し進められる強い仲間たちだ。


 流石に女神がそれを意識しないというのは考えられなかった。


「あれだけボコボコにしたから、女神も流石にハヤテを注視してるんじゃないかな」


「そうかもしれないけど、泉のダンジョンで対峙した時の感じから女神ってあんまり現実の情報を集めてないとおもうんだよね。あの当時のままだったらうまくいく」


 玲奈や直人たちと一緒に挑むことまでは把握されていて問題ない。彼らはもう一段階上の、女神の想定を超える作戦を準備している。



「それじゃ、明日の攻略について話そうか」


 食事を終え、落ち着いたところで颯が切り出した。


「木叢のダンジョンだから出てくるのは植物系」

「俺は今日ゲットしたバディと戦うのが楽しみ」

「残念だけど、それは出来ないよ。直人」

「え、なんで?」


 彼らは先ほど獣のダンジョンを踏破し、そのトロフィーとして獣型バディをゲットしていた。雄々しいその背に乗って戦う自身の姿を妄想していた直人に、颯が現実を突きつける。


「FWOは4人1組のパーティーが基本ってのは良いよね?」

「お、おう」


 ダンジョンの難易度に応じて、そのパーティーを何組まで増やせるかが変わる。第1等級ダンジョンは1組が最大となるが、第2等級からは2組のパーティーを組むことが可能になる。つまり8人で攻略が出来るのだ。


 そして難易度が上がる第4等級ダンジョン以降では3組まで、計12人で挑戦可能になる仕様だった。


 許容される人数内でパーティーを組めば、誰かがモンスターを倒せばその貢献度に応じてスキルポイントが割り振られる。またパーティーメンバー同士の魔法やスキルでダメージを負わなくなる。


「バディってパーティーが4人以下の時しか使えないんだ。ちなみにバディもメンバーのひとりとしてカウントされる」


「2人パーティーだったらバディも2体まで。3人パーティーだと誰かひとりのバディしか参加させられないんです」


「な、なんでそんな仕様なの!? 俺もライガーと一緒に暴れたかったのに」


 ライガーというのは直人が獣のダンジョンで手に入れたトラ型のバディ。


「バディって、少人数で素材集めする時のサポート役なんだ。だから本格的にダンジョン攻略する時は使えない」


「もしかして直人、知らなかったの? 颯君も玲奈ちゃんも、バディ持ってるのにつれてきてないじゃん」


 はっ、と何かに気付いた彼は絶望を顔に浮かべた。


「マジかよ……」


「第6等級とかだとまだ使えないけど、これから素材集めする時には使えるからさ。元気出せよ」


 第4等級ダンジョンなどに戻り、4人を2組のパーティーに別けてゲットしたバディを試してみるという案もあったが、彼らはそれを選択しなかった。


 颯たちを待つ人がいるからだ。

 作戦を進めなければならない。


 そのため彼らは明日、女神が待つ木叢のダンジョンに挑戦する。

 

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