第126話 〈配信コメント欄〉


 林のダンジョン、5階層。


 颯たちは無数の樹木系モンスターに囲まれていた。

 

「直人、玲奈とさきのんを頼んだ」


「おっけぇ! 思いっきり行ってこい!!」


 炎を纏った剣を4本装備し、颯が敵に突撃していく。


 全速力での直進。それは玲奈と組んでから、彼女の守りを常に頭の片隅に置いていた颯があまりやらなくなった攻略方法。


〈はっやwww〉

〈迷わず行くじゃん〉

〈防御系の仲間が出来たからな〉

〈エレーナ守護から解き放たれたか〉

〈あぁ、そゆこと〉

〈これが本来のハヤテなんだ〉 

 

 全力の颯は、普段より生き生きとしていた。


〈なんか颯君、楽しそう〉

〈うん。FWOしてた時みたい〉

〈ペア攻略が板についてたけど〉

〈そいやソロ専だったな〉


 しかし今の颯は、ソロで戦っていた時よりも強くなっている。


「さきのん! 風魔法ちょうだい!!」


「はーい。いっくよー! ウインドアロー」


 無詠唱で颯に向けて放たれた風の矢。


 それを颯は目視することもなく魔纏まてんした。


〈はいはい。出ました魔纏〉

〈ノールック魔纏はヤバすぎww〉

〈まてんって、なんだっけ?〉

〈対抗属性の武器に魔法を纏えるの〉

〈ハヤテは火属性の剣を使ってるから〉

〈なるほど、風が対抗属性になると〉

〈魔纏するとどうなるんです?〉

〈見たまんまかな〉

〈火力が上がるんだよ〉


 火力が大幅に強化された炎の魔法剣を携え、颯が再度モンスターの群れに向かって突進していく。


〈お、おぉ……〉

〈これはヤバいっすね〉

〈でもコレやる人少ないのはなぜ?〉

〈俺もリアルじゃ初めて見た〉

〈タイミングがめっちゃむずいの〉

〈ゲームでもなかなか成功しない〉

〈成功率3%とかのキャラコンぞ〉

〈え、それゲームでですよね〉

〈ゲームで成功率3%の技を〉

〈現実でやっちゃってるってこと!?〉


「さきのん! !!」

「はーい!」


 再び放たれる風の矢。

 それを颯は容易く魔纏する。


 颯が望む場所に最適なタイミングで魔法を放ってくれる咲野芽依がパーティーに加入したことで、颯は魔法のスクロールを消費することもなく、いくらでも自由に魔纏が出来るようになった。


 四刀流で相手するのが大変な敵は玲奈が遠距離射撃で倒してくれる。その玲奈と芽依の守護は直人が請け負ってくれる。


 ソロでなくなった颯は、最大戦力でモンスターを蹂躙出来るようになったのだ。


〈おかわりってwww〉

〈こいつは変わんねーな〉

〈ダメージ喰らうとか思ってなさそう〉

〈実際どうなんだろ?〉

〈仲間の魔法なら大丈夫らしい〉

〈でも熱いとかは感じるんやて〉

〈それって確か脳がバグるやつ〉

〈実際はケガとかしてないのに、思い込みが強すぎると身体に傷が出来ちゃう〉

〈でも中国の攻略団は仲間ごと魔法撃ってるぞ〉

〈なんかイメージ次第でダメージ負わないんだと〉


 いくつかの情報リンクがコメント欄に貼り付けられる。


〈要約すると仲間を信じりゃ良い〉

〈明らかに熱そうな火を放ってくる仲間を信じれば熱くないって?〉

〈いや、熱いのは変わらん。ダメージを喰らわないだけ〉

〈信じてても熱いんだ〉

〈じゃあ、あの風の矢って〉

〈普通に手が切れる感覚あるだろうな〉


 視聴者たちが考察する通り、ウインドアローを生身で受ければパーティーを組んでいる仲間が放ったものであっても手を切り刻まれる感覚がある。


 しかし颯は痛がる素振りも見せない。


〈痛くないんかな?〉

〈ふつーに痛いだろ〉

〈仲間の攻撃でも痛いって報告がある〉

〈じゃあ颯が異常なのか〉

〈アイツ、マジでなんなん?〉

〈初心者さんは真似しちゃダメだぞ〉


「あっ。この魔纏は普通に痛いので、どうしても必要じゃないなら真似しない方がいいですよー!!」


〈ちゃんと注告してくれたw〉

〈やっぱり痛いんだ〉

〈痛いなら止めろよ〉

〈そんなに急がなくても良いじゃん〉

〈そうそう。十分早い攻略よ〉


「痛い思いしてまで急がなくて良いってコメント来てそうですね」


〈うん、たくさんきてる〉

〈流石だな〉

〈もはやコメント見えてる説〉

〈分かってんならゆっくりやれよ〉


「でもちょっと想像してください。貴方たちが心血を注いてプレーしているゲームの管理者マスターが、名指して挑戦状を送りつけてきたとしたら?」


〈そ、それは……〉

〈テンション上がっちゃうね〉

〈頑張る選択肢オンリー!〉

〈ならハヤテとエレーナだけで行けば良くね?〉

〈あー。それはありだな〉

〈ふたりでも行けるっしょ〉


「ちなみに俺と玲奈だけで攻略する選択肢はありません」


〈なんで?〉

〈普通にいけるくね〉

〈君らなら大丈夫だって〉


「俺が女神入りウンディーネを撃破していなければ、今回は玲奈とふたりで挑戦したでしょう。でも俺は以前ソロで女神様ちゃんをボッコボコにしてます」


〈うん、覚えてる〉

〈あれは爽快やった〉

〈ボッコボコだったなww〉

〈どーでもいいけど、女神様ちゃんって呼び方ウケる〉

〈それは思ってたwww〉


「たぶん今回、俺対策がされてると思うんですよね。四刀流封じとか、前回の俺基準で大技を積んでくるんじゃないかと」


〈なるほど〉

〈前回のハヤテは強かった〉

〈いや、強すぎた〉

〈エレーナがかかってたからな〉

〈まるで鬼神の如く〉

〈颯に最新マニピュレータって諺が産まれてたし〉

〈あったなー。そんなの〉

〈四刀流の奥義も初披露した〉

おぼろね〉

〈アレはかっこよかった〉

〈だから女神様ちゃんも強化個体に乗り移ってくるって予想してるわけね〉



 モンスターを殲滅した颯が玲奈たちの場所まで戻って来た。


「てことで俺たちは」

「この4人で連携を強化して」

「フローラに入った」

「女神様ちゃんを──」


「「「「ぶっ飛ばしにいきます!!」」」」


〈息ぴったりww〉

〈もう行けんじゃね?w〉

〈既に連携完璧説〉

〈こいつらに隙なんてないだろ〉

〈今から更に強くなれる?〉

〈ハヤテ舐めんな。ハヤテだぞ〉

〈いや、意味わからんww〉

〈でも確かに。期待はしちゃう〉

〈こっからも楽しみだな〉

 

 彼らが既に最強だと理解している。

 しかし期待せずにいられない。

 

 これから彼らがどんなことをしていくのか興味が尽きないのだ。


 視聴者は颯たちの更なる成長を楽しみにしていた。

 

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