第115話 〈配信コメント欄〉

 

 黒のダンジョン1層目。直人が大剣でモンスターを両断し、芽依は直人と相性の悪い敵を優先的に魔法で倒していった。


〈このふたりやるじゃん〉

〈普通につえーな〉

〈さきのんの魔法選択が完璧〉

〈詠唱に無駄がないな〉

〈ハヤエレペア並みの安定感〉


 ふたりがモンスターを倒していく様子を、颯と玲奈が見守っている。


〈なんかハヤテうずうずしてね?〉

〈戦いたくて仕方ないんでしょw〉

〈頑張って耐えてるwww〉

〈それ見てエレーナ笑ってるし〉


 颯はこれまで、他人のダンジョン攻略を完全に見守ることなどほとんどなかった。初心者が苦戦しているモンスターを代わりに倒してあげるなど、いつでも自分が動くことで周囲を助けたりしてきたのだ。


 しかし今回は直人と芽依の実力を示すため、彼が手を出すことは出来ない。


〈いざという時のためだろうけど〉

〈武器装備してんだよなww〉

〈あ、でも武器しまったよ〉

〈友人を信じてるアピールか〉

〈腕組みして耐えてるwwww〉


 これは颯が戦うのを我慢をする戦いでもあった。



「ふう。これで1層目クリアだな」

「直人お疲れ」

「芽依もね」


 直人たちは危なげなく1層目を踏破した。


「いいね。ノーダメクリアだ」

「おふたりとも、お疲れ様です」

「颯が戦いたがってんの見えたぞ」

「今回は我慢しててね」

「うっ……。わ、わかりました」

「もし動きだしたら私が止めます」


〈クリアできるかどうかじゃねーな〉

〈颯が最後まで我慢できるか楽しみw〉

〈ハヤテ君、頑張れー!!〉

〈ちゃんと我慢してね!〉


 直人と芽依の戦闘が安定しているので、視聴者たちは颯が手を出すのを我慢できるように応援を始めていた。



 ──***──


 そんなこんなで最終階層。


「今回は颯みたいにボスを一撃で倒せる装備を揃えることが出来なかったので、俺たちは正攻法で行きまーす」


「直人が攻撃を耐えて、私がフル詠唱の魔法で倒す戦法ね」


 最初は何もない空間に向かって解説することに戸惑っていた直人と芽依だが、10層もダンジョンを登りながら颯の指導を受け、解説しながらモンスターを倒してくれば流石に慣れてきた。


〈凄い安定感でここまで来ちゃった〉

〈もうコイツらなら問題ないだろ〉

〈FWOの知識もしっかりしてるね〉

〈ハヤテの配信を見てたらしいからな〉

〈最後も油断せずにねー!〉


 装備チェックをしている直人たちにハヤテが近づく。


「直人、さきのん。予定変更だ」

「えっ」

「我慢できなくなっちゃった?」


「いや、違う。ボスのストーンドラゴンともふたりだけで戦ってもらう。でもここまで直人たちは安定してモンスターを倒してきた。だから視聴者の人たちはもう君らの実力を認めてくれてると思うんだよね」


〈こいつは相変わらずだなww〉

〈俺らの思考を読むなw〉

〈でも仕方ないんじゃない?〉

〈私ら、ハヤテ君に調教されてるから〉

〈なるほど。颯が凄いんじゃないと〉

〈俺らが読まれやすくなってんのか〉


「だから最後は最大戦力で無双して良い」

「おっ。マジか」

「やっちゃって良いんだね?」

「うん。今まで我慢してくれてありがと」


 この颯の発言に視聴者たちは疑問を抱く。


〈ん? 何が始まんの?〉

〈手加減してたとか?〉

〈普通に見えたけどな〉

〈安定してたけど、それだけ〉

〈颯君とはちょっと違うよね〉

〈どっちかっていうと地味だった〉


「えー、皆さん。このふたりは俺が設定したハヤテ式ダンジョン攻略講座ハードモードを修了しています」


〈えっ〉

〈ハードモードって?〉

〈なんか凄そう〉

〈最終課題が偽ハヤテとかだろ〉

〈それはヤバいww〉

〈確かにハードモードだ〉

〈いや、流石にないな〉


「直人たちは初期装備と初期スキルだけで偽ハヤテを倒せます」


〈…は?〉

〈いやいやいや、無理っしょ!〉

〈ありえんって!〉

〈先進国の特殊部隊が勝てんのやぞ〉

〈お前を基準にすんなよ〉

〈でもさ、本当に颯級になってるなら?〉

〈それこそないだろ!〉


「そんな彼らの全力はこんなもんじゃありません。ここまではあえて地味に戦ってもらってました。ちなみに直人もさきのんも、新しくできた東雲学園でSランクになってます」


〈東雲学園のSランクって〉

〈ハヤテ級の強さってこと!?〉

〈えっ、マジ?〉


「俺らはに見合う実力はありますよ」

「颯君に鍛えてもらったからね」


 いつの間にか直人と芽依が装備を切り替えていた。


〈あ、それ第6等級の!〉

〈ハヤテとエレーナが素材集めてたな〉

〈このふたりに渡すためだったんだ〉

〈一気に熟練攻略者っぽくなった〉

〈でもちゃんと着こなしてるね〉


「実はコレ、颯にプレゼントされてからまだ使ったことないんです。てか聞いて。颯って、ひどいんですよ? こんなに凄い装備を渡しておきながら、デビュー戦は相応しい場所を用意するから我慢しろって言うんです」


〈それはwwwwww〉

〈生殺しだwww〉

〈直人君、可哀そう〉

〈でも気持ちは分かる〉

〈本気装備のデビューがボス戦かぁ〉

〈やらせること無茶苦茶だ〉

〈でもこれがハヤテだろw〉

〈颯君と友達やるのも大変だね〉


「まぁまぁ。第1等級って言っても正真正銘本物のモンスターで、しかもラスボスだからさ。第2等級の雑魚相手にデビューするより良いと思うんだよね」


「そりゃ、そうかもしれないけどさ……。いきなり強すぎる装備だと身体の動きとかが変わるかもしんないだろ」


「ハヤテ式ダンジョン攻略講座ハードモードで、直人たちは身体の使い方を修得してる。第6等級の装備程度に振り回されることはないよ。俺が保証する」


〈第6等級の装備“程度”かぁ〉

〈そう言えるだけの訓練したんだ〉

〈修行は地獄だったと想像に難くない〉

〈それな〉

〈ハヤテは友人にも容赦なさそう〉

〈友人だからこそじゃね?〉

〈危ない目に合わせたくないから本気で鍛えたんでしょ〉

〈それを乗り越えたのか。アツいな〉



「颯に俺らなら大丈夫って太鼓判もらったんで、サクッとボス倒しますね」


「いっきまーす!!」

 

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