第114話 〈配信コメント欄〉

 

 東雲学園が始まって初めての土曜日。


「みなさん、お久しぶりです! ハヤテ式四刀流推進室のお時間です!!」


 颯がどこかのダンジョンにいる様子が強制配信され始めた。


〈来た来たきたぁぁああああ!〉

〈待ってたよぉぉ〉

〈お帰り、ハヤテ〉

〈今回はどこ攻略するの!?〉

〈この感じは、黒のダンジョンか?〉

〈は? なんで第1等級ダンジョン?〉

〈ねぇ待って。なんかイケメンがいる〉

〈可愛い女の子も〉

〈えっ、この人ら誰?〉


「ダンジョンの中に入るとこんな感じなのか。聞いてはいたけど、ほんとにカメラもなんもない空間に向かって話してるんだ」


「見てる分にはちゃんとカメラ目線だったから、目印とかあるって思ってた」


「そんなのないよ。毎回なんか良い感じに配信されてる。鼻ほじったりすると全世界に見られるから、注意してね」


「それは絶対にしない」

「うん。しないよ」


〈なんか仲良さげだな〉

〈ハヤテの友人?〉

〈掛け合いが数年来の友って感じ〉


「あ、ご紹介が遅れました。今日は高校で出来た友人ふたりも一緒に攻略していきます。直人と、さきのんです」


「直人です」


「咲野って苗字ですけど、颯君みたいにさきのんって呼んでね」


 数億人に個人情報を晒すことになってしまうのだが、偽名やプレーヤーネームを設定したところでずっと一緒に攻略していたら、いつかは本名で呼んでしまう。ということで彼らは最初から普段の呼び方でいくことにしていた。


〈やっぱり友達か!〉

〈直人君イケメン!!〉

〈さきのん可愛いぃ!!〉

〈彼女さんいるのかな?〉

〈いや、普通にカップルだろ〉


「あ、このふたりは付き合ってるんで、そこんとこよろしくです」


〈なんだぁぁぁorz〉

〈ちょっとショック〉

〈イケメン美女カップルやww〉

〈マジ妬ましいわ〉


「いつも颯の配信見てて、コメント欄と絶妙な掛け合いしてたから実はなんかが見えてんじゃないかって思ってた。でもほんとに何の反応もないんだな」


「こんなので良くおしゃべりできるね」


「そうなんだよぉ! なんの反応もないから実はいつもドキドキしてるの! 」


「でも後で配信見返して、視聴者さんとの掛け合いが成功してた時は謎の達成感があるんだよ」


〈え、そなの?〉

〈そーなんだ〉

〈なんとなくわかるな〉

〈書き込み数多いから、誰かはヒットするだろ〉

〈そーゆうんじゃないんよ〉

〈なんていうかこう、一体感が欲しい〉


「俺らの行動に対して、たくさんの人が書き込んでくれた感想とかコメントが一致してると嬉しい」


「それはなんとなくわかる。俺も颯の配信ずっとみてたから、自分と似た感想を持った人がたくさんいるって思うとテンションが上がった」


〈直人君、こっち側だったんだ〉

〈ハヤテと攻略できて良いなぁ〉

〈でもコレ、命かかってんだって〉

〈そう易々と入れんわな〉

〈ダンジョン怖い〉


 この世界にダンジョンが出現して間もない頃は多くのFWOプレイヤーがダンジョンに挑戦していた。しかしゲームの様にモンスターを倒すことは難しく、命を失う危険もあることから現在は軽い気持ちでダンジョンに入る人は少ない。


〈でもハヤテに寄生は許さんぞ〉

〈ガチの親友とかならいいだろ〉

〈そこは自由にさせてやれよ〉

〈これからはダンジョンで稼ぐ時代〉

〈だからこそだろ〉

〈自力で努力しないのはズルい〉

〈まぁ、確かに羨ましくはある〉


「そろそろ直人たちが自力で強くならないのはズルいって書き込みされてそーな気がします」


「えっ、そうなの?」


〈やっぱりコイツ見えてんだろww〉

〈そうとしか思えないタイミング〉

〈見えてないとしたら勘が良過ぎww〉


「なので今回、俺と玲奈は」

「攻略のお手伝いをしません」


〈は? マジ?〉

〈友人なんだろ?〉

のふたりを戦わせると?〉


 颯と玲奈は第6等級ダンジョンで得られた素材を使用した装備を纏っている。一方で直人と芽依はチュートリアルを終えるとゲットできる初心者装備だった。


「俺らが手伝わなくても。装備を渡して育成ブーストさせなくても、このふたりなら余裕で黒のダンジョンを踏破できるってことをお見せします」 


 FWOでは上級者が不要になった装備を初心者にプレゼントして、初級ダンジョンで無双させる『育成ブースト』が流行っていた。公開後ある程度時間が経ったMMORPGではよくあること。


 初心者は序盤のダンジョンを強い装備で無双する快感を味わえる。育成ブーストする側は初心者から感謝されて自己顕示欲を満たせる上に、ゲームのプレイ人口を維持することにもつながる。


 颯は直人たちに最強装備を渡しているが、この黒のダンジョンではそれを使用させないことにした。危なくなりそうならすぐに助けるつもりだが、基本はふたりの力のみで攻略させる予定。視聴者がふたりにヘイトを溜めないようにするのが目的だ。



「それでは第1等級、黒のダンジョン攻略を開始しまーす!」


「攻略すんの俺らだけどな」

「颯君は見てるだけね」


「あ、ごめん。なんかいつもの癖で」


 先頭を歩こうとして前に出た颯が後ろに下がる。


〈身体が勝手に動くやつww〉

〈ダンジョン攻略バカがwww〉

〈条件反射で攻略に行くのおもろい〉

〈ハヤテ、我慢できるかなぁ〉


 颯の代わりに直人が前に出た。


「さて、初めての実戦ですね」


〈おっ。この口上は〉

〈もしや──〉

〈ハヤテのオマージュ?〉


 それは颯が現実に出現した黒のダンジョンに初めて入った時の言葉。


「ハヤテ式四刀流──の教えを受けた俺らが、行けるとこまでいってみまーす!!」


〈駆け出しには良いセリフだ〉

〈この子、ハヤテのファンじゃんw〉

〈大剣持ってるし四刀流じゃねーな〉

〈でも全然おっけー!〉

〈ハヤテの修行受けたんでしょ〉

〈直人君、良いよ。私は応援する〉

〈いいねいいね〉

〈さきのんも頑張れー!!〉


 直人はそこまで意識してやったことではない。ただ颯の動画をいつも見ていたから、自然とその言葉が口からでた。それが颯ファンたちに対して、自分も颯の配信をずっと見てきた同士であるというアピールになった。

 

 たった一言。しかし正解を選んだ彼は、実力を示すまでもなくアンチを減らすことに成功していた。

 

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