第110話
東雲学園に入学して2日目。
「みんな、おはよう」
「「「おはようございます」」」
「私の日本語、どうかな? 昨日より聞き取りやすくなってる?」
「えぇ。上手な日本語に聞こえます」
昨日はスミス先生が使っていた翻訳装置の調整が上手くできていなかったらしく、少しカタコトな感じだったけど今日は普通の日本語に聞こえる。
「良かった。日本語もちゃんと勉強してる。いつかみんなと日本語で会話できるように、ワタシ ガンバリマスネ」
最後の部分は翻訳装置の電源をオフにして、先生が自分の口で発声していた。
「さて。昨日は入学式と模擬戦、それから簡単な自己紹介だけで終わっちゃったよね。今日はもう少し詳しくみんなの情報を共有しておきたい」
スミス先生が『電子ボード』にデータを送る。
教室の前に設置された縦2メートル、横4メートルの巨大な電子ボードに項目がたくさんある自己紹介カードが表示された。
「表示されてる項目を埋めていく感じで自己紹介してね。AIが自動で記入してくれる。言いたくないことは飛ばしてくれて良いけど、基本ここにある項目は強制配信でわかっちゃうことだから」
学園内でPVPが出来て、それでランクが変わることもあるらしいので隠しておきたいことがある人もいるかもしれない。俺はほとんどバレちゃてるから今更だな。
「それじゃ、颯君からいこうか」
「はーい」
何故か俺が指名された。
特に断る必要もないので席を立つ。
「その場で、電子ボード見ながら自己紹介してね」
「はい。雫石 颯です」
まず名前の項目が表示された。
次は何を説明しようか考えていると、名前の下の少し広い空欄に俺がダンジョン攻略している時の恰好が表示された。その隣の欄にはFWOで最難関ダンジョンを攻略した時のガチ装備が。さらにその下の戦闘スタイルや、リアルとゲームの時にそれぞれどの等級までダンジョンをクリアしていたのかなどが事細かに表示されていく。
「えっ、これ……」
俺の自己紹介シートは全て埋まってしまった。
「ゴメンね。颯君の情報はまとめサイトとかにも載っちゃってるし、龍之介君以外はみんな君のこと良く知ってるみたいだから」
「俺も颯にボロ負けしてから、ここに書いてあることくらいは自力で調べた」
「うん。仲間のことに興味を持つのはとても良いことだよ。特にここにいるのは日本最高峰のダンジョン攻略者たちだ。高め合うライバルとしても、共にダンジョンを踏破していく仲間としても互いの情報を知ろうとする姿勢は今後も大事にしてほしい」
そうか。もうライバルってだけじゃないんだ。
俺は過去のトラウマが原因で、誰かとパーティーを組んでのダンジョン攻略が出来なかった。でも玲奈と一緒だとそれが問題なくて、彼女と一緒なら他の誰かとダンジョンに入るのもできるようになっている。
今は直人やさきのんとだけじゃなく、龍之介や他のクラスメイトたちともパーティーを組んで攻略が出来るってこと。
配信で俺はいつもソロで活動してたからソロが好きなんだって思われがちだけど、本当は大人数でそれぞれの役割を全うしながらダンジョンを攻略していくのが好き。それがFWOの本来の進め方でもある。
何よりリアルでは命がかかってる。
ソロとか玲奈とふたりのペア攻略にこだわって危険を冒す必要なんてない。ソロで2時間かけて中ボス倒すのとかFWOでやっていたことも、現実では玲奈に止められるだろうし。
ここにいるみんなが仲間か。
Sランクと評価された人たち。
その基準は偽ハヤテを少人数で倒せるかどうからしい。
ホントに人間かってよく聞かれる俺が言うのもなんだけど、ここにいる人たちも結構ヤバいと思うよ。修行してないのに、忍者に近い力があるってことだから。
そう思うと少しワクワクするな。
最強の先生がいるだけじゃないんだ。
最強の仲間が8人もいる。
攻略の幅が広がりそう。
「ほとんどここに書かれてるんで、自己紹介は特に必要なさそうですね。改めてみなさん、これからよろしくお願いします」
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