第107話

 

「ハヤテ、入学初日から何やってんの」


 入学式の前に自分の教室に向かい、中に入ると玲奈に声をかけられた。


 たぶん、さっきの龍之介の件かな。


「えっと、アレはいろいろと事情がありまして」


 夢の中で玲奈を寝取られたから、その仕返しに全力でボコしたって言って納得してもらえるとは思えない。自分でもやりすぎだったと反省してる。


「なんかSNSとか掲示板では……その、私が可愛いって認めさせるために戦ってくれたって言われてるみたいなんだけど、そうなの?」


 ん? なにそれ?

 それは俺、知らないな。

 

 アレは俺の一方的な八つ当たりだ。


 どうやって説明しようか悩んでいると。


「その通り。戦って負けたから、東雲玲奈が可憐だということは認めよう。だが俺の嫁も可愛い。それは譲らん」


 南雲 龍之介が来た。

 彼も俺らと同じSランク。


 龍之介はソロで偽ハヤテ倒せる攻略者なので、当然このクラスになる。


 というか話しを合わせてくれるんだ。

 コイツ良い奴だな。


「闘気解放まで使うのはやりすぎました。ごめんなさい」


「いや、大丈夫。真の実力者との差を知れた。今後は君レベルの強さを目指すよ。近くに世界最強がいるのはありがたいな。きっと俺も、今までより強くなれる」


 俺と戦ったあと、彼は付き人さんから色々聞いたみたい。


「それから俺たちは同じ教室で学ぶ同士だ。敬語は不要」


「おっけー。それじゃ、これからよろしくね」


「あぁ。よろしく」


 龍之介が手を差し出してきたから握手する。

 これでお互い恨みっこなし。


 恨みは、俺が夢の中の龍之介に抱いてただけだが。


 財閥の御曹司って言うと西園寺 日紗斗のイメージが強かった。でも龍之介は真っすぐで良い感じがする。


 そう言えば日紗斗は来ないのかな?



「あ、颯おはよー」

「おはよ、颯君。玲奈ちゃん」


 直人とさきのんが教室に来た。


「おはよ」

「おはようございます」


「お前、朝からなにやってんの?」


 直人が動画を見せてくる。

 誰かが俺たちのPVPを撮っていたみたい。


「玲奈が可愛いって、認めさせてた」


 とりあえずその路線で押し通すことにした。


「あはは。バカだねぇ」

「でも玲奈ちゃん満更でもなさそう」


「か、彼氏が自分のために戦ってくれたってなったら、それは嬉しいですよ」


 耳を赤くしながら玲奈が説明している。それが可愛い。さきのんたちもそう思っているみたいだから、今後こうやってからかわれるのが増えそうだなぁ。


 で、からかわれた後は拠点で俺に泣きついてくると。


 それを慰めつつイチャイチャできる。


 いいねぇ。

 良い循環だ。


 入学初日から、玲奈と同じ学園で学ぶ新たなメリットを発見してしまった。



「あの、もしや近衛さ──「近衛 直人です。よろしく!」


 龍之介が直人に話しかけたら、被せるように直人が自己紹介していた。


 なんか龍之介は直人のこと知ってる感じだったけど、なんで財閥の御曹司が一般人の直人のこと知ってるんだろ?


「……はい。南雲 龍之介です」


「颯ともう仲良くなったんだ。俺、この東雲学園の元になってる高校で颯の同級生だったの。俺とも仲良くしてね」


「承知しま──じゃなくて、わかった。よろしく」


「私は咲野 芽依です」

「東雲 玲奈です」


「みんな、よろしく」


 その後担任の先生が来るまで、俺たちは最新のダンジョン攻略情報について話し合いながら過ごした。

 

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