3章 東雲学園

第105話

 

 ピピッ、ピピッ、ピピピ─「てい」


 目覚ましを止める。


 ……あれ、おかしいな。


 いつもは玲奈の声でスッキリ目が覚める。

 でも今日は久しぶりに目覚ましの音で起きた。


「玲奈、まだ寝てるのかな?」


 今日は東雲学園の入学式がある。

 そんな日に寝坊かな。


 そう思いながらスマホを見た。


「あ、なんか玲奈から来てる」


 メッセージが送られてきていた。


『昨日言った通り、新入生代表挨拶とかで準備があるから先に行くね。寝坊したらダメだよ』


「あー、そうか。そんなこと言ってたな」


 俺が起きれたら一緒に行くけど、起きれなかったら置いてって良いと言った。


 流石に直接声かけてもらえれば起きれたと思うのに……。


 なんでだろ、まだ頭がぼーっとする。

 熱とかはないけど。


 まぁいいや。学園に行こう。

 初日から遅刻はない。



 ──***──


 ちゃんと間に合った。

 

 東雲学園の門を通り、奥に見える校舎に向かう。

 俺と同じような制服を着た人がたくさんいた。


 ただ少し様子がおかしい。


「いよいよだね」

「うん、頑張ろ!」

「ランキングあげられるかな」

「ゆうちゃんなら大丈夫だよ」


 女性の集団が会話してる近くを通ったけど、俺への反応はなかった。

 

「Cランクスタートかぁ」

「まぁ、そんなもんだろ」

「こっから駆け上がってやろーぜ」

「おう! そうだな!」


 男性集団のそばを歩いでも、誰も俺に声をかけたりしてこない。


 あ、あれ?

 俺の知名度こんなもんだっけ?


 サングラスとかマスクで変装した方が良いんじゃないかって考えてたのが少し恥ずかしくなる。


 俺には玲奈がいるから、女性からチヤホヤされたいとかはない。……いや、完全に無いって言ったら嘘になるか。告白されたいとか、言い寄られたいってわけじゃないけど、『あ、颯君だ!』とか声はかけてもらいたい。俺だって多少の承認欲求はあるんだから。


 それがこんな感じだと、なんかしっくりこない。



「ねぇ! あそこ見て!」

「あっ、アレってあの人!?」

「え、えっ。本物かな?」 

「ねぇ。声かけてみようよ」


 お、ついに気付かれてしまったか?


 女の子たちの会話が聞こえた。

 その子たちの足音が近づいてくる。


「あの、すみません」


「はい。なん──「俺になにか用かな?」


 えっ。


「は、はい! 南雲なぐも 龍之介りゅうのすけ様ですよね!?」


 女の子は俺じゃなく、少し前にいた男子生徒に声をかけたみたいだ。


「いかにも。南雲財閥次期総裁、南雲龍之介だ」


「ダンジョン攻略配信、いつも見てます!」

「この前のも凄かったですね」

「同じ学園で学べるなんて私、幸せです」


 いいなぁ、そのポジション。

 なんで俺じゃないんだろ。


 てか南雲龍之介って誰だよ。

 FWOの有名プレイヤーじゃない。


「あー、そこの君。少し俺の鞄を持っていてくれたまえ。彼女たちにサインしてあげなきゃいけないのでね」


「……嫌です」


 なぜこんな対応をしたのか自分でも分からない。


 でも今の俺は機嫌が悪かった。


 なんで誰かも知らんやつの荷物持ちをせにゃならんのだ。絶対に嫌だね。


「器の小さき男だ。だがこの俺にそんな態度をとる君に興味が湧いた。名を名乗れ。それから入学試験で判定されたランクも教えろ」


 逆にお前は俺を知らないのか。

 良いでしょう。名乗ってやるよ。


「雫石颯です。ランクはS」


「雫石? 知らんな」


「えっ」


「俺はダンジョンが現れてから今まで、ほとんどの時間をダンジョン攻略に費やしてきた。貴様がどれほどの実力者であろうと俺は知らん」


 なるほど。

 それじゃ仕方ないか。


「しかもなんだSランクって。簡単にわかる嘘を吐くんじゃない。そんなランクこの学園には存在しない」


 は? Sランクが存在しない?

 ありえないだろ。


 だって俺は、この学園設立を提案した玲奈と一緒に試験を受けてSランクだと判定されたんだから。


「龍之介様と張り合うつもり?」

「それで嘘つくとか」

「ありえないよ、マジで」

「だっさ」


 女の子たちの罵倒が胸に突き刺さる。


 う、嘘じゃないんだって!!

 どうなってんの?


 なんで誰も俺のこと知らないの!?


「まぁまぁ。この男を罵倒するのはやめなさい。美しい諸君らの口からそのような言葉が出るのは相応しくない」


「ご、ごめんなさい」

「龍之介様の仰せのままに」

「でもSランクだなんて」

「龍之介様より上なんてありえません!」


「そうだな。俺もそれには納得できない。そこでどうだろう? 今から俺と模擬戦しないか? Bランク以上であれば特例により入学前から模擬戦が可能だ」


 PVPしろってことか。


 良いでしょう。

 身の程を教えてやるよ。



 ──***──



「あ、あれ?」


 俺は地面に倒れ、天を仰いでいた。


「これで分かったか。もうSランクなどと戯言を言うなよ」


 負けた。

 片手剣を使う龍之介に、俺は全力で戦って負けたんだ。


 う、嘘だろ!?


 ありえない! 

 これは夢だ──そう思ったとき。


「龍之介、こんなところにいたんだ」


 玲奈の声が聞こえた。


「もう、なにしてるの? 入学式始まっちゃうよ」


「悪い。身の程を知らない下郎げろうしつけていたところだ」


「ふーん」


 玲奈が俺を冷たい目で見てくる。


 なんだ、なんなんだコレは!?


「ほら、はやく行こ」

「あぁ」


 龍之介の腕に玲奈が抱きつき、ふたりは歩いて行ってしまった。


 

 う、うそだ。

 こんなの嘘だぁぁあああああああ!



 

 




「嘘だぁぁあああああああ!」

 

 ピピッ、ピピッ、ピピピ─


「はっ! あ、あれ?」


 俺はベッドで叫んでいた。

 目覚ましが鳴っている。


「こ、これって。もしかして夢オチ?」


 メッセージが来ている。

 玲奈からだった。 


『昨日言った通り、新入生代表挨拶とかで準備があるから先に行くね。寝坊したらダメだよ』


 ……ま、まさかな。


 寝汗がヤバい。


 とりあえず急いでシャワーを浴びて、学園に向かうことにした。



 ──***──


「ねぇ、あそこ見て!」

「アレってあの人!?」

「えっ。本物かな?」 

「声かけてみようよ」


「…………」


「あの、すみません」


「…………」


「あっ、あの! 颯さん!」


「え、俺、ですか?」


 女の子4人に声をかけられた。


「雫石颯さん、ですよね」


「はい」


「ダンジョン攻略配信いつも見てます!」

「この前のも凄かったですね」

「同じ学園で学べるなんて幸せです」


 良かった。

 コレが現実だ。


「ありがとうございます。これから同じ学園で頑張りましょう」


「「「はい!」」」


 女の子たちが俺に手を振りながら去って行く。


 これですよ、これ。

 この感じだよ。


 俺は良い気分になっていた。


「そこの君」


 なぜか非常に気分が悪くなる声が聞こえた。


「この俺をさしおいて女性に囲まれるとは。何者だ? 俺は君に興味が湧いた。名を名乗れ。それから入学試験で判定されたランクも教えろ」


 現実でも出たな、南雲 龍之介。


 夢の中の俺は何故か彼を知らないことになっていたが、現実の俺は龍之介のことを玲奈から聞いて知っている。


「雫石 颯です。ランクはS」


「雫石? 知らんな」


「でしょうね。だから戦いましょう」


「俺はダンジョンが現れてから今まで──って、ん? 今なんと言った?」


「別に俺のことは知らなくて大丈夫です。戦闘力に自信があるんですよね。Bランク以上は特例で模擬戦が許可されてます。俺たちなら、戦って実力を認めさせた方が早いですよ」


「そうか。面白い男だ。よし、戦おう」


 PVPの申請が送られてくる。


「あ、南雲様! そいつは──」


 龍之介の付き人っぽい人が止めようとしたけど、それより早く俺はPVP申請を承認してやった。周囲に模擬戦フィールドが展開され、部外者は近づけなくなる。



 あの敗北を夢だとは思わない。


 最悪、かもしれない現実。

 そう思う。


 だから手加減はしない。

 本気でいく。



「闘気、解放!!」



 俺は全力を以て南雲 龍之介をボコボコにした。

 

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