第101話

 

「そろそろ新しくできる学園の名称をお伝えしようと思います」


 料理を食べ終え、デザートが運ばれてくるのを待っていると玲奈が切り出した。


「それって俺たちが通う学園の?」

「どんな名前かな」

「やっと決定したんだね」


「はい。決定した、というより──という感じです」


 ん? どゆこと?


 直人とさきのんも俺と同じように疑問を抱いた様子。


「でもまだネットには情報が出てないよ」


 玲奈がもったいぶるので、さきのんが自分で調べ始めた。

 

 ただ、それすらも玲奈の作戦だったみたい。


「調べても出てきません。私が許可するまでは」


「それって──」



「新しくできるダンジョン攻略者育成機関の名前は、東雲学園です」



「し、東雲学園」

「てことは」

「そーゆーことだよね?」


「私がお父様に設立を打診しました」


 マジかよ。

 

 え、てことは今までの全部茶番?


「玲奈ちゃんが新しい学園設立の発案者で、東雲財閥がそれを実行したってこと?」


「あれって、国主導のプロジェクトなんじゃ……」


「アメリカ合衆国大統領が最強って認めてくれたハヤテがいるんです。それを交渉材料にして、国家プロジェクトってことにしてもらいました。その方が学園の卒業生にも箔が付きますし、不穏分子の排除に国家権力を使えます」


 直人たちは知らないと思うけど、今の総理大臣って東雲財閥が擁立した人らしい。官房長官もそうだし、最近そうした東雲系の政治家が増えてるってことを玲奈から聞いていた。


 現在の東雲財閥は自分たちで起案したプロジェクトを国家主導のものってことにできてしまう力があるらしい。よくわからんけど、なんかヤバそう。


「それじゃ俺らって、あんなに頑張って訓練しなくても颯と同じクラスになれた?」


「はい」


「お、おぉ……。ストレートなご回答、ありがとうございます」


 もう少し濁して言ってあげた方が良かったんじゃない?


「でも直人さんが頑張ってくれたおかげで、私たちは最難関ダンジョンにみんなで一緒に挑戦できます。颯もそれを望んでたみたいなので」


「颯が? なら颯もこのこと知ってたの?」


「いやいやいや。なんも聞いてないよ。直人たちと一緒にダンジョンを踏破していきたいって思ってたのは確かだけど」


「これは私の独断です。ハヤテは本当に何も知りません。頑張らなくても一緒のクラスになれるってなったら、彼が訓練を楽なものにしちゃうかなって思いまして。みなさんに黙っていたことは謝ります。すみませんでした」


 玲奈が深く頭を下げた。


 俺は気にしないけど、直人たちが怒っているかもしれないと彼らの方を見る。


 しかし、俺の心配は杞憂だった。


「玲奈ちゃん、謝んなくていいよ」

「その通り。さ、頭を上げて」


「は、はい」


「俺らのことを想ってやったことなんでしょ? 俺だって颯と一緒にダンジョンに挑戦できるってなってテンション上がってるの。とりあえず颯に聞きたいんだけど、俺ってほんとに高等級のダンジョンでも通用する?」


「うん。それは俺が保証するよ」


 初期スキルのみで偽ハヤテの連撃に耐える重戦士なんて、世界中探してもそんなにいないはず。直人とさきのんは現在、伊賀忍集団を除けばこの世界でトップクラスの対モンスター戦闘技術を有している。ただしそれとダンジョン踏破能力は少し違う。


 攻略ルートのショートカットやトラップ回避、回復アイテムの使用タイミングなどもダンジョン踏破には欠かせないスキルだ。そーしたのは一緒にダンジョンを攻略しながら教えていこうって考えていた。


 今の直人たちが普通に戦って負ける敵はいないのは確かだ。


「少しだけダンジョンの仕組みとか勉強すれば、直人たちはもう第6等級ダンジョンでも踏破できる実力がある」


「ほら。こんな風に颯が言ってくれるまでになれたんだから、玲奈ちゃんを責めたりするわけない」


「これからの時代、ダンジョンを踏破できる能力があれば生活に困ることはなさそうだもんね」


「そういってもらえて、ほっとしてます」


 黙っていたことを気にしてたんだろうな。


 俺にはもうひとつ気になることがあった。


「直人たちと一緒に学園に行くって決めたのは、新しく学園ができるって情報を知った後。だから東雲学園の設立はその前に決めてたんだよね?」


「うん、そうだよ」


「それはどうして? 俺と玲奈なら、ダンジョン攻略者を育成する教育機関に通う必要なんてないよね」


「それは、だって私……ハヤ…と、一緒に……の」


「えっ。なんて?」


「ハヤテと同じ学校に通いたかったの! ただそれだけよ。悪い⁉」


 お、おう。

 久しぶりに出たなツンデレ(?)。


「玲奈ちゃん、顔真っ赤だ」

「か、かわいぃー! この子可愛い!」


 直人とさきのんが茶化して、玲奈は耳まで赤くなった。


「もう! 知らない!!」


 恥ずかしさから逃げるように、玲奈が俺の脚とテーブルの間に頭を入れてきた。テーブルで直人たちからは彼女の姿が見えにくくなる。


 多分だけど、ファミレスでこんなことしたことに関しても後で恥ずかしくなって後悔するんだろうな。それも可愛いけど。

 

 俺は玲奈が落ち着けるよう、プルプル小刻みに震えている彼女の背中をしばらくさすってあげることにした。

 

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