第100話
「それでは、直人とさきのんのダンジョン攻略講座完全クリアを祝して、乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
颯は直人たちと、いつものファミレスで食事をしていた。
「いやぁ、ほんと地獄だったわ」
「でも私たち、やり切ったね」
「おふたりとも、お疲れ様でした」
「マジで強くなったと思うよ」
健闘を称え合いながら、彼らは運ばれてきた料理を堪能していく。
「あ、せっかくのお祝いなのに、こんな大衆向けのお店でゴメンね」
財閥の令嬢が食事をするには適していないという意味で直人が玲奈に謝るが、咲野は『コイツ、なに言い出すんだ』という感じの表情をしていた。
「私は大丈夫ですよ。逆に直人さんは、このお店の料理どう思います?」
「俺? 俺はここの料理好きだよ。学生でも来やすいお手頃価格なのに、高級な店の料理にも負けてない。いつも味が安定してるのも良いよね」
「ふふふっ。ありがとうございます」
「なんで玲奈ちゃんがお礼を?」
「あのね、直人。このファミレスは東雲グループ傘下だよ」
「……えっ」
「芽依さん、よくご存じで。ちなみに直人さんが食べてる和食定食、実は私がいろいろ注文を付けて商品化されたものなんです」
「なん、ですと…」
「マジ? 普段はいつも俺がコレ注文してんの。俺が好きなものがまとまってる神セットだと思ってた。玲奈のおかげでできたんだ」
それは偶然などではない。
颯が良く行くファミレスがあるという情報や、彼の好物に関する情報を配信で入手した玲奈が颯のために作らせたメニューだった。
「あ、あの。さっきはこんな店って言って、すみませんでした」
「いえ、気にしないでください。それより私は、美味しいって言葉が聞けて満足してます。学生さんたちが来やすい価格設定で、でも出来るだけおいしく量も多くってコンセプトでやってます。皆さんに気に入ってもらえて嬉しいです」
「この店はマジで神だと思う。特にあの和食定食、俺の好物ばっかりで……」
颯は過去の配信で、レーナという視聴者が彼の好物を良く質問してきたことを思い出した。その時に答えたものの多くがひとつの定食に盛り込まれていた。
レーナは、玲奈が颯の配信を見る際に使っていたアカウント名だ。
「え、まさか、えっ。マジ? もしかして、そーゆーこと?」
「今日はハヤテが注文してくれないから、もう好みが変わっちゃったかと思ったよ。今でも好きなんだよね?」
「うん。いつもは俺が注文する。でも今日は直人のお祝いだからって」
「私たちね、なんとなくメニューは被らないように注文してるの」
「いつもは颯専用メニューって感じだったけど、今日は俺が頼ませてもらった! てか、マジで颯のためにメニューを作っちゃったんだ。愛が凄いね」
「推しの夢を叶えてあげるのがファンとしての喜びなので」
玲奈の凄いところはそれだけではない。そもそもこのファミレスは東雲グループに所属していなかった。颯が配信で行きつけのファミレスがあると発言したのを聞いた玲奈が、その日のうちに全国チェーン展開しているこの店を買収してしまったのだ。
そして全ての料理を彼女が監修した。
後日、監修した料理を食べた颯が配信で、『行きつけのファミレスの料理がちょっと変わったんです。なんか、俺好みになってて嬉しいです』と言っていたのを聞いて玲奈は満足した。
推しに手料理を振舞うという疑似体験を達成したからだ。
ちなみに玲奈は、たったそれをするだけのために3千億円も使っている。
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