第099話
「せやっ!!」
直人が偽ハヤテに攻撃をしかけるが、それは受け流されてしまった。直人の攻撃の威力を活かして偽ハヤテは回転し、更に威力の高い反撃を繰り出す。
「ぐっ」
地面に大剣を突き刺し、直人はなんとか耐えた。
「直人!」
「大丈夫、オリジナルほどじゃない。詠唱を続けて」
さきのんが心配そうに声をかけるが、直人はまだ余裕がある様子だった。
「回転で受け流されるし、攻撃の勢いを利用されるのが超ウゼーな。じゃあ次、これはどうだ!!」
身の丈ほどある巨大な剣を上段に構え、一直線に振り下ろす。その攻撃も偽ハヤテは回転しながら受け流してしまうが──
「そこだっ!」
振り下ろした大剣を盾のように身体の前方に構え、全力でタックルする。これはソードチャージというスキルで、タイミングが合えば敵の体勢を崩して連携技を止めることができる。剣を使った攻撃に多い線や点ではなく、面による攻撃。
この攻撃は流石に受け流せず、偽ハヤテが吹き飛ばされた。
「芽衣! いまだ!!」
「おっけ! フレイムアロー!!」
フル詠唱を終えていたさきのんの魔法が偽ハヤテのコアを貫いた。
直人たちの勝利だ。
「おぉ。ふたりともやるね」
「おめでとうございます!」
「颯君、玲奈ちゃん、ありがと」
「やっぱアレ強すぎ」
「でも1回で倒してるじゃん」
事前に偽ハヤテを想定して俺と特訓してはいたけど、まさか一発で討伐成功させるとは思ってなかった。
「オリジナルと違って回転軸が分かりやすい。カウンターもできたし」
すごいな。
偽ハヤテの弱点にもう気づいたんだ。
弱点ていうか、俺との違いか?
「偽ハヤテって呼ばれてるだけだな。所詮は偽物」
「ん?」
「颯に全く勝てる気がしなかったから、偽ハヤテとやっても勝てないんじゃないかって思ってたんだ」
まぁ、訓練では俺に攻撃をかすらせることもできてなかったけど、俺だって痛いのは嫌なんだから仕方ないでしょ。
「新しくできる学園で颯が先生になることがあったらさ、あの訓練はやめた方がいいと思うよ。たぶんほとんどの生徒が自信をなくす。せめていけるかなって思わせるくらいの手ごたえをくれよ。なんで毎回ボッコボコにされなきゃなんないんだよ」
「でも直人は乗り越えたじゃん」
彼はハヤテ式ダンジョン攻略講座(ハードモード)をやり切った。その結果俺と偽ハヤテの攻撃の質が違うことに気付けるようになった。素晴らしい成長だ。
「俺は芽衣が応援してくれたから。正直、何回か心折れてるからな?」
愛の力は偉大ですね。
「とりあえずこれで課題はクリアってことで良い? そろそろダンジョンで本物のモンスターを狩ってみたい」
「そうだね。卒業試験はクリアしたし、明日からダンジョン入ろうか」
「よっしゃあ!!」
直人がガッツポーズして喜んでいる。
俺たちが今いるチュートリアル用エリアでは様々な等級のダンジョンからモンスターを疑似召喚して戦闘訓練が可能だった。
しかしあくまで訓練なので、モンスターを倒してもアイテムや装備はゲットできない。スキルレベルを上げるためのポイントがたまることもなく、強くなる実感も得られない。
それを思うと、初期スキルのみで偽ハヤテの攻撃に耐えた直人はかなり強くなっているといえるだろう。これは楽しみですね。
「直人、さきのん。ハヤテ式ダンジョン攻略講座(ハードモード)のクリアおめでとう。今の君らの力なら、ほとんどのモンスターに苦戦することはないよ」
「クリアおめでとうございます」
「やってやったぜ!」
「頑張ったねぇ」
「そんなおふたりに、俺と玲奈からささやかながらプレゼントがあります」
アイテムボックスから装備一式を取り出して直人たちに手渡した。
「お、おぉぉ。今借りてるやつとクオリティ違いすぎんか?」
「すっごく強そう」
そうでしょうね。
訓練用って言ってふたりに渡していたのは初心者にしては強いけど、偽ハヤテと戦うなら正直物足りないかなって感じの装備。
そんな装備でも技術さえあれば偽ハヤテは倒せる。ハヤテ式ダンジョン攻略講座(ハードモード)はその技術を身に着けるためのものなので、装備はあえて弱いものを渡していた。
「もしかしてだけどさ、今俺らが着てるこれって、そんな強くない?」
「うん」
「特殊な魔法がかけられてて、死なないようになってるとか」
「チュートリアルエリアでは致命傷受けても死なない仕様だから、そんな魔法かけてないよ。ダメージ軽減がちょっとある程度」
俺の言葉を聞いて、直人が青い顔をしていた。
「俺、颯がくれたのだから、きっとすげー隠し効果がある装備なんだって思ってた。ダメージ喰らっても平気だろうって」
「見た感じそのままの装備でした」
ハヤテ式ダンジョン攻略講座を受けると基本は攻撃を受けないような心構えをつくるところから始まる。俺から強い装備を渡されたと思い込んでいても、これまで大きなダメージを追わないような立ち回りをしてきたから教育は成功しているといってもいいだろう。
「マジかよ……」
「騙したつもりはないんだけど、とりあえずごめんな」
「もういいよ。で、この装備は逆に見た目だけとか?」
「違うよ。今この世界に存在する最強の装備」
「それも最高レベルまで強化済みです!」
「えっ?」
「直人、もらったのを装備してみて。すごいよこれ」
さきのんが既に装備を変えていた。
今は実際に装備を着脱するか、ステータスボードを使って装備を変えることも可能だった。これなら女性でも周囲の目を気にせずダンジョン内で装備を変えられる。
「お、おぅ」
直人もステータスボードを操作して換装する。駆け出し攻略者の恰好をしていた直人が、数千時間FWOをプレイした廃課金者のような装備になった。
「な、なんじゃこれ⁉」
「ステータス補正ヤバくない?」
大剣を使う重戦士用にチューニングされた最強の壁装備。これを纏って防御スキルを発動させれば、偽ハヤテに全力で攻撃されても余裕で耐えきるだろう。
現在最強の中ボスって呼ばれてるアイツでも所詮は第3等級のモンスター。現在解放されてる第6等級ダンジョンで確保できる素材を大量に使って創り上げ、更に東雲財閥の財力で最高レベルまで強化を施した装備の前では強敵たりえない。
「これ、ほんとに貰っていいの?」
「うん。頑張って訓練受けてくれる直人たちのために、俺らも頑張ってこの装備を創ってきたんだから。ふたりにもらってほしい」
「でも買ったら、すごく高いよね」
「先行投資だと思ってください。最難関ダンジョンをクリアしていけば、その装備を創るのに使った資金はすぐ回収できます」
「そ、そうなんだ」
「わかった。頑張って貢献するね」
プレゼントは気に入ってもらえたようだ。
これで本格的に動き出せるな。
「ふたりとも、ハヤテ式四刀流推進室へようこそ」
アタッカーの玲奈とさきのん。ディフェンダーの直人、回復役のアマテラス様、それから攻守可能な万能型の俺と、サポート役のルルロロさん。この6人による新体制でダンジョン攻略を進めていこう!
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