第098話 女神と定春
「……ん? なんだこれ。警告?」
女神が創り出した空間で、この世界にダンジョンを実装する作業を進めていた定春がモニター上に表示された警告を見て手を止める。
「黒のダンジョンが、浸食されてる?」
はじめてのエラーに困惑した定春は女神の元へ向かった。
「女神様。少しいいですか?」
「あ、定春! あなたが私に話しかけてくれるなんて珍しいね」
いつもは作業に集中している定春に女神が絡みにいくことがほとんどだった。そのため女神は少しテンションが高くなっている。
「で、なにか私にお願いごと?」
「いえ。初めて見るエラーが出たので、そのご報告です」
定春が手を翳すと、空中にモニターが現れた。そこには黒のダンジョンを飲み込むように建設されている学園が映し出されている。
「どうやら日本でダンジョンを取り込もうとしている人がいるようです」
「あー、そうなんだ」
「そうなんだって、反応薄いですね」
「日本の神は結構力を持ってるから、いつかはこーゆーことをしてくるって思ってた。私が神域にダンジョン出現させたのも怒ってるみたいだし」
「は? に、日本の神?」
定春はアマテラスの存在を聞かされていなかった。
「そう言えば定春にまだ言ってなかったね。この世界には私が来る前から各国に神がいるの。あ、でも各国っていう括りは違うかも。その神を信仰する人がいる場所に神が生まれる感じかな」
「……実際こうして女神様がいるんですから、本当に日本古来の神がいると言われてもそれを疑うことはしません。ちょっと驚きましたが」
「うん。それで今回の件だけど、放置で良いよ」
「良いんですか?」
「私は後から来た神だからね。あんまりやりたい放題すると在来の神が私をやっつけようって動き始めちゃうかもしれない。だから初等級ダンジョンを取り込まれたぐらいで反撃したりしないの」
既にやりたい放題しているのでは? ──そう定春は思ったが、神のスケールは良く分からないので聞き流すことにした。
「ところでこの建物は何かな? ダンジョンを研究したりする感じ?」
「人間界のインターネットにアクセスして情報を取ってみました。どうやら研究もするみたいですが、メインの目的は人材育成ですね」
「人材育成っていうと、ダンジョン攻略だよね」
「ちなみに他国は既にダンジョン攻略者の育成機関を設立して、活動を開始していました。先進国では日本が一番遅い動き出しです。でも、それじゃなんでいまさらエラーが出たんですか?」
「だから日本だけが神の力を借りて、本当の意味でダンジョンの解析を始めたんだよ。一番遅く始めたけど、一番早く核心に迫ってる感じかな」
自分のダンジョンが解析されているというのに、女神は笑顔だった。
「いやぁ、嬉しいね。人類が英知を集結させて、在来神の協力も取り付けて私たちが創り出したダンジョンを攻略しようとしてる。私たちが創った難敵を彼らがどんなふうに攻略してくるのか、想像するだけでワクワクするね!」
それはゲーム開発者と似たような心境。
定春も同意できる部分があった。
「この場所から、私に挑戦する人が現れる。そんな予感がするの」
「そんな簡単に倒されないでくださいね。俺はまだまだ実装したいシステムがたくさんあるんですから」
「私だってまだ人類が必死にあがいて成長する姿を見たい! やられるつもりなんてないから! 定春も頑張ってサポートしてね」
「はい。お任せください」
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