第091話
「玲奈、今日はこれから時間ある?」
「え、今日? 今日はその──」
「第3等級『空のダンジョン』でゲットしておきたいアイテムができたの。あそこはまだ踏破してなかったから、今から行って攻略しちゃおうかと」
あえて玲奈の言葉に被せるように話す。
「……颯は今日がなんの日か知ってる?」
「ん? 今日は10月7日で、特に祝日とかじゃないよね。あっ! もしかして0と7で、玲奈の日ってこと?」
「いや、そんなんじゃ……。ううん、なんでもない。いいよ。ダンジョンに行こ!」
知らないと玲奈に嘘をついたのが心苦しい。
でも彼女の思い出に残る1日にするためだ。
「ありがと。それじゃ準備してね」
「うん。私はお父様にお出かけするって言ってくる」
「はーい」
いつもより僅かに重い足取りで玲奈が部屋を出て行った。
──***──
「事前にSNSとかで告知してませんでしたが、今日は第3等級『空のダンジョン』を攻略します!」
「…………」
ダンジョンの1階層で強制配信を見ている人向けにアナウンスをする。
いつもなら玲奈が俺の言葉の終わりを復唱してくれるが、今日は無言だった。ちょっとご機嫌斜めな感じが出ている。
ちなみに玲奈の誕生日は一般人でも知っているらしく、ダンジョン内からはいまだに見えない配信コメント欄では今頃『エレーナの誕生日に何やってんだよ』とか、『ダンジョン攻略馬鹿だから、玲奈ちゃん不機嫌になってるじゃん』みたいな書き込みがされているかもしれない。プチ炎上してる可能性が高い。
でも大丈夫。
玲奈も視聴者も、納得いく誕生日にするから。
「さぁ、いくよ。玲奈」
「う、うん」
──***──
俺たちは順調にダンジョンを攻略していた。
テンションは低いが、玲奈はいつものように俺に合わせて戦ってくれる。
この空のダンジョンでは飛行系のモンスターが出現する。鳥のダンジョンと違うのは、鳥類とは異なる不規則な飛び方をする敵が多いこと。
近接戦闘がメインの俺が実は苦手なダンジョンだ。それをわかっている玲奈は、いつもより多く攻撃にまわってくれる。何も言わなくても最適な行動をしてくれる。
誕生日にこんなことさせてごめんね。
玲奈がいつも以上に頑張ってくれてるけど、今日はあえて彼女を褒める割合を少なめにしている。いつもなら頭を撫でてあげるような状況でも我慢する。
マイナスをためて、最後に一気にプラスにする。でもマイナスが多すぎると最後のプラスでも帳消しできなくなるかもしれないので、玲奈の表情を常に気にしながらバランスを調整する。これが結構大変。
彼女が喜ぶことだけをやればいいって状況じゃないのがストレスになる。
頑張れ、俺。
そんな感じでダンジョンを登っていく。
無事に中ボスを倒し、残るはラスボスのみ。
「ハヤテが欲しいアイテムってなんだったの? もうゲットできた?」
「いや、実はラスボスのレア泥なんだ」
「てことは蒼穹シリーズか。ゲットできると良いね」
空のダンジョンラスボスであるエアクリスタル。空中を不規則な軌道で飛び回り、強固なシールドで身を守る厄介な敵だ。
不確実なアイテムゲットを目指してここまでやってきた点。そしてボス戦も自分が頑張らなきゃいけない。誕生日になんでめんどくさいことをさせるんだ──そう言われても仕方ないと思うけど、玲奈は一切文句を言わなかった。
健気だよなぁ。
ほんとに優しい。
さぁ、作戦の〆といきましょう。
「ラスボス戦、玲奈は攻撃しないで見てて」
「え、なんで? ここのボスはエアクリスタルだよ? ハヤテは相性よくないよね」
「実はエアクリスタルって、倒し方でレア泥率が変わるんだ。総攻撃回数が少ないほど確率が上がる。そんでかなり難しいけど、一撃で倒せれば確定
「そうなんだ。そんな仕様知らなかった」
「まずワンパンで討伐できない設定のボスモンスターだから」
運営の知り合いからそう聞いたことがある。でも俺はFWOがゲームだった頃、エアクリスタルを一撃で倒す方法を見つけていた。これはネットにも情報が無いし、俺が配信などで話したこともない。
「今日は玲奈のためにアイツを一撃で倒してくるよ」
「えっ? わ、わたしのため?」
「“蒼穹の首飾り”が欲しいって、前に配信で言ってたよね」
「そうだけど……。でもアレは入手条件が未解明なはず」
玲奈の言葉には答えず、ボスモンスターに向かって歩いて行く。
俺の接近にエアクリスタルが反応する。赤みがかった半透明のクリスタルがこちらにスーッとスライドするように飛行して来た。もう少し接近すれば攻撃してくるだろう。
足を止め、顔の前に持ってきた右手に左手を添える。
「闘気解放」
全力全開でやる。
絶対に成功させるんだ。
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