第090話


 直人やさきのんと一緒にダンジョン攻略者育成のための学園への入学を目指すことになった。


 自宅に戻って回収した案内によると、新しくできる学園に入るのは試験があるらしい。だけど川崎第二高校に通っていた生徒には学科試験で加点がもらえるみたいなので、たぶんなんとかなると考えていた。


 試験の詳細が12月に送られてくる予定なので、まだ2か月以上時間がある。だから俺はこれまでと変わらず、ダンジョンを攻略しながら過ごすことにした。


 そんな9月のある日、玲奈の実家で──


「颯様、少しお時間よろしいでしょうか?」


 拠点に帰ろうと準備していた俺に執事長の藤堂さんが声をかけてきた。


 玲奈の父親で、東雲財閥総裁の信孝のぶたかさんにダンジョン攻略状況の報告するため、俺は定期的に玲奈の実家に顔を出している。


 まぁ、報告といっても俺がダンジョンを攻略している様子は強制配信されているので改めて話すことは少ない。優秀なAIの愛奈さんが記録と処理をしてくれている。だからここに来る主な目的は、玲奈の装備更新のための相談だったりする。


「はい、藤堂さん。なんですか?」


「玲奈お嬢様の誕生日が来月なのですが……。その、なにか準備をしていただいているか気になりまして」


「え、来月?」


 知らなかった。

 大切な彼女の誕生日なのに。

 

「すみません。知らなかったので、何も準備していませんでした」


 今から準備して間に合うかな?

 てか誕生日って何すればいいんだろ?


 直人やさきのんの誕生日を祝ったり、逆に祝ってもらったことはある。でもファミレスでご飯を一緒に食べたり、ちょっとしたプレゼントを贈ったりするくらいだった。玲奈が人生初彼女なので、どうするのが正解か分からない。


「来月って10月ですよね。何日ですか?」


「10月7日です」


 の日か。

 覚えやすいな。


 まだ1週間ほど時間がある。

 なんとかなると思うけど……。


 玲奈みたいなスーパーお嬢様に何をあげればいいのかな?


 欲しいものはなんでも手に入っちゃうだろうし。


「プライベートジェット持ってる玲奈は、俺があげられる程度のもので喜んでもらえるでしょうか?」


「その点は大丈夫かと。颯様からのプレゼントであれば、たとえ道端で拾った石ころでもお嬢様は大変喜ばれると思いますよ」


 いや、さすがにそれは……。

 ないこともないか。


 推しがくれるものなら何でも宝物になる。

 それがファンって存在。


 自分でいうのもなんだけど、玲奈は今でもコアな俺のファンでいてくれる。


 でもただの石ころをあげるのは絶対にしない。


 初めて一緒に過ごす誕生日なんだから。

 最高の1日にしてあげたいな。


 玲奈が喜ぶもの。嬉しいって思ってもらえるシチュエーション……。


 んー?

 どうしよっかなー。



『お悩みのようですね、颯様』


「あ、愛奈さん」


 近くにあったテレビが勝手について、玲奈を幼くした感じの女の子が映っていた。


『僭越ながら、私からアドバイスをしてもよろしいでしょうか?』


「お願いします!」


 玲奈を姉と慕う愛奈さんなら、どんなプレゼントが喜ばれるかわかるはず。


『藤堂執事長が言っていた通り、玲奈様は颯様からいただいたものであればどんなものでも喜んで受け取ってくださるでしょう。ですので私は、そのプレゼントを渡す状況を特別なものにすべきと考えます』


「な、なるほど」


『なお、玲奈様はまだ自分の誕生日を颯様が知らないことを知りません。ですので颯様は、そのまま知らなかったことにしてください』


 ……ん? 

 どゆこと?


『本作戦の全貌をご説明します。まずは──』



 愛奈さんが玲奈に喜んでもらうため、彼女の誕生日を最高の1日にするための作戦を説明してくれた。


「おぉ! そんなこと自分の推しがやってくれたって状況を想像すると、テンション上がりますね。問題は俺が恥ずかしいってことなんですけど」


「玲奈お嬢様のためです。颯様」


『そうです。我慢してください』


 このふたりは俺の味方ではないらしい。

 でも玲奈を喜ばせるための仲間だ。

 

「わかりました、頑張ります。サポートお願いしますね」


「『お任せください』」


 こうして玲奈の誕生日を祝うため、極秘作戦が開始された。

 

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