第3部 最強配信者、学園で無双する
1章 玲奈の誕生日
第086話
ハヤテとルルロロ、アマテラスとダンジョンを無事に踏破し、鳥型バディをゲットした日の夜。
「お父様、少しお話しがしたいです」
東雲玲奈は父の仕事部屋に足を運んだ。
「おぉ、良いところに来た。ちょうど今日のダンジョン攻略で、玲奈が見せてくれた雄姿を愛奈に編集させていたところだ」
他財閥の没落もあり、日本一強となりつつある東雲財閥。資産総額600兆円に迫る大財閥の総裁が、部屋の壁一面に投影された映像を仁王立ちで監修していた。その映像はダンジョンで玲奈たちが戦っている様子を録画したもの。
「いつもながら颯君は人間離れした動きをしている。新しく仲間に加わったというルルロロさんも支援役として良い立ち回りだ。アマテラスちゃんは
映像には颯たちも映っているが、それらは娘の活躍を際立たせるためのもの。
「す、すごいぞ玲奈! あんなに強そうなモンスターを一撃でっ! おぉぉ! いけ! そこだ! あっ、敵が来てる! 危ないっ! あっ……。よしっ!! ナイスだ颯君。だが玲奈を守るためにもっとそばにいてくれてもいいんだぞ。いやしかし、敵に迫られても彼を信じて遠くにいるヤバそうな敵から視線を外さない玲奈もかっこいいな!! 愛奈、今のところで玲奈の表情をもう少しアップにしよう」
『承知いたしました、
リアルタイムで映像が編集され、より洗練されていく。
「ふむ。よい、非常に良いな」
『恐縮です』
「あの、お父様。お話ししても?」
厳粛な経営者として世間一般に認知されている東雲信孝だが、愛娘のこととなると親バカが止まらない。ちなみにこの状態の信孝を知っているのは彼の妻と執事長の藤堂、AIの愛奈、そして玲奈本人である。
物心ついたころから父親がこんな状態なので、玲奈はこれが普通だと思っている。
「ああ、すまん。話しとはなにかな?」
「ルルロロさんやアマテラス様と一緒にダンジョン攻略してみて。私以外の女性とダンジョン攻略してるハヤテを見て、私はやっぱりハヤテを誰かに取られたくないって思いました」
「……彼は玲奈に一途だと思うが」
「私もそう思います。そうだと信じてます。でも私は、もっとハヤテにとってかけがえのない存在になりたい」
「そ、それって、けっこn」
「そうです。私、ハヤテと青春したいんです」
「ん?」
「私もハヤテも高校生で恋人同士なのに、一緒に通学したことないんです。一緒のクラスで勉強したり、学園祭を回ったり。夏祭りに行ったりしたこともないんです」
「そりゃ、まぁ。そうだろうね」
玲奈は日本屈指の御嬢様学校、颯はごく平凡な普通科高校に通っていた。
「ちなみに今、彼がもともと通っていた学校がどうなったか知っていますか?」
「颯君の高校? 私は知らないな。愛奈、どうなってるんだ?」
『雫石颯様が通われていた県立川崎第二高等学校は現在、黒のダンジョンに取り込まれて休校が続いています』
編集されていた映像が切り替わり、ダンジョンに飲まれた高校が映し出される。
「ダンジョンが出現してから少しの間は休校になる学校もあったみたいですが、今はほとんどの地域で普通に授業が再開されてます」
「そうだね。ちなみにわかってると思うけど、玲奈の学校も再開してるよ。だから私としては、そろそろ玲奈にも学校へ通うようにしてほしいなって思ってる」
「ハヤテがまだ学校に通えないなんて、かわいそうじゃないですか!」
「私の話しは聞いてくれないんだね」
幼少期からの英才教育により、玲奈は学年トップの成績だった。少しぐらい休んだところで大した影響はない。それは信孝もわかっていて、颯と一緒にダンジョン攻略していることに対して強く反対はしていない。
「私はハヤテと青春したいです! でも彼の学校は当面再開できない……」
「ま、まさか、玲奈の学校に彼を編入させる気か⁉ あそこは女子高だろう。私の今の力なら颯君ひとり入学させるくらい簡単だが、それは彼が羨まし──じゃなくて颯君をほかの女子生徒に盗られないかと、玲奈が今より不安になるんじゃないか?」
「そこで私は考えました。颯と私のための学校を新しく建てちゃおうって」
「は? 玲奈、何を言って」
「愛奈」
『はい、玲奈様。準備できております』
壁に投影されていた颯の高校の映像に、3Dイメージが重ねられる。
『黒のダンジョンを逆に取り込み、新たな校舎を建築します。その総工費は134億円という試算です。ここではダンジョンで得られるアイテムや装備などの知識を学び、生き残るために必要な身のこなしも修得可能。日本初となるダンジョン攻略者育成機関、東雲学園です』
「私、ハヤテとここに通いたい!」
絶対に折れない。
玲奈の目からは強い信念が感じられた。
一方で信孝は内心ほっとしていた。
娘が結婚したいと言い出すと思っていたからだ。
彼は既に颯のことを認めている。現在16歳の玲奈が18歳になるまでに世界に認められろという無理難題を出したつもりが、颯はそのクエストを受注してひと月しないうちにアメリカ合衆国大統領から世界最高のダンジョン攻略者だと認定されたのだ。
文句をつけようがない。
愛娘を嫁に出すのは心が折れそうになるので、颯に婿養子として来てくれないかと打診することも考え始めていた。しかし玲奈の要求はそれではないらしい。
颯を誰かに取られたくないなら、ふたりでダンジョン攻略していれば良い。高校に通うよりよっぽどライバルは少ない。その代わりダンジョンには危険が多い。米国大統領に認められる最強の青年が守ってくれるといっても、ゲーム世界から顕現したモンスター相手では何が起きるか分からない。特に彼らが攻略するのは、まだ他の誰も踏破していない最高難易度のダンジョンばかり。
そのため信孝としては、玲奈がダンジョンより危険が少なそうな学校に通いたいというなら断る理由がなかった。
「いいだろう。東雲学園を作る。愛奈、進めてくれ」
『承知いたしました』
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