第085話 〈配信コメント欄〉

 颯たちがアマテラスのバディ用デザインをルルロロというイラストレーターに依頼することを決定した2週間後。


「俺はやっぱり第2等級ダンジョンでアールクリスタ回収しに行きたい」


「えー。そんなのマーケットで買っちゃえば良くない?」


 とあるダンジョン内で、颯が金髪の美女と会話していた。その様子はいつものように強制的に配信されている。


〈おっ! ハヤテの配信だ!!〉

〈お久しぶりー!〉

〈てかこの美女は誰?〉

〈すごく綺麗な人だね〉


 ダンジョンの入口付近で会話している颯と金髪美女は、配信が開始されているにも関わらず会話に集中していた。


「今はアルクリも安くなってきてるよ。しかも私たちにはあの東雲財閥が付いてるんだしさ。効率重視で行こうよ」


「それも一理あるんだけど、たまにはゲームだった頃みたいにひたすら雑魚狩り無双しながらのレア泥集めもやりたいなーと」


「……なるほど。装備が強くなってきたから今だからこそ、第2等級ダンジョンを文字通り蹂躙出来ると。確かにFWOがゲームの頃は私も下位ダンジョンに戻って良くやってたなぁ」


「トロフィーにさせられてた人は全員救出が終わったし、蘇生薬も出回ってきている。そろそろ俺たちも、少しは遊び始めて良いと思うんだよね」


「確かにハヤテ君はこれまでずっと誰かのために頑張ってきた。そーゆーことなら、私は自由にしちゃって良いと思うよ」


「ルルさん、ありがとうございます」


「はーい! 終わった? 終わったね! ふたりとも、ここはもうダンジョンの中だよ。もう強制配信されてるってこと、忘れないでね!」


 会話していたふたりの間に玲奈が身体をねじ込んで入って来た。


〈エレーナいるじゃん〉

〈今日も可愛い!〉

〈あれ、弓装備変わってる?〉

〈ほんとだ〉

〈ハヤテもマニピュレータ進化した?〉

〈いやいや、そんなことより〉

〈ハヤテの近くにいる子って、もしや〉

〈あの御方ではっ!?〉


 ダンジョン内には謎の美女、そして変化している玲奈や颯の装備。さらに颯のそばにはFWOのヒーラー装備を身に纏った幼女がいる。


 久しぶりのハヤテの配信。

 それには変化点が多すぎた。


「えーっと、そっか。そうだね」


「玲奈ちゃん、ごめんね。ハヤテ君、進行よろしく。私の紹介も忘れずにね」


「はーい! ってことで、配信を見てくれてる皆さん。お久しぶりでーす!」


〈おひさぁー!〉

〈だからSNSを更新しろとくぁwせdr〉

〈落ち着けってwww〉

〈みんな待ってたよぉ〉

〈もうちょっとこまめに近況報告しようね〉

〈自分らが世界中から注目されてる自覚を持ちなさい〉


「もっとSNS更新しろとかコメントされてるんだろうな」


「そうだと思う。でもちゃんと理由があって仕方なかったの。みんな、ごめんね。ハヤテが順番に説明してくれるから」


「うん。それじゃまず、ハヤテ式四刀流推進室に新規参入してくれたメンバーをご紹介しましょう。ルルロロさんです!」


「初めまして。ルルロロです」


〈ん? ルルロロって……〉

〈イラストレーターの?〉

〈ちょまっ、はぁぁぁああ!?〉

〈フォロワー300万人の超人気絵師なんだが!?〉


「ちなみに私、FWOがゲームだった時はルールゥ・ローロィってプレイヤー名で遊んでたよ」


〈いやいやいや、世界ランカーやんけ!〉

〈チーム戦績ならハヤテより上位のプレイヤーだ〉

〈ルルロロとルールゥが同一人物って〉

そマそれマジ?〉

〈え、えっ!?〉

〈そんな人がハヤテのブースに合流すんの!?〉


 まだまだコメント欄の書き込みは急増していくが、颯は説明を進める。


「ルルロロさんにはアマテラス様が憑依するバディのキャラデザをお願いしました。その過程で仲良くなっちゃったので、今日からはたまにダンジョン攻略にもご協力いただきます」


「私は本業が忙しいので、ハヤテ君たちとダンジョンに来るのは素材集めの時ぐらいかな。でも来た時は皆の足を引っ張らないように頑張るから、応援よろしくね!」


〈なるほど、そゆこと〉

〈エレーナの強敵になるかと思ったぜ〉

〈安心あんしん〉

〈やっぱハヤ・エレペアがいいよな〉

〈ハヤテ、浮気はダメだぞ!!〉

〈てかルルロロ様ってドイツ在住では?〉

〈え、もしかして引っ越してきたの!?〉


 コメント欄で予測されている通り、ルルロロは颯たちの依頼に即座に対応できるようにと日本に引っ越してきていた。


 アマテラス用バディのキャラデザをお願いしたいので打合せしようと颯が連絡したところ、彼女は都心の個室があるカフェで面談を希望してきた。


 まさか日本に来ていると思わず、颯たちが戸惑いながら指定された場所に向かうと、既にカフェで待っていたルルロロは何十枚ものデザイン画を提示してきたのだ。その中の一枚をアマテラスが気に入り、今日まではバディにキャラデザを投影させて細部を修正することに時間を費やしていた。


「そんなルルロロさんにデザインして頂いたアマテラス様がこちらです」


「日ノ本唯一神、アマテラスじゃ」


〈ふぉぉぉぉおおおお!?〉

〈かわEEEEEEEE!!〉

〈のじゃロリ最強!!!!〉

〈え、え!? コレがバディ!?〉

〈動き滑らかすぎんか〉

〈どんな3Dモデル創ったんだよ〉

〈3Dも凄いけどデザインもヤバい〉

〈ルルロロ様がママだもん、当然!〉


 一部には幼女を無理やりダンジョンに連れ込んだのではないかと邪推する者もいたが、ダンジョンに16歳以下が入れないのは女神が定めたルール。この場にいる時点で、アマテラスが人間の幼女でないことは明白だった。


 このバディの動作や受け答えの設定をアマテラスがしたことにしているが、実際はアマテラス自身がこのバディに憑依して動かしている。バディに憑依したアマテラスは、何の問題もなくダンジョンに入ることが出来た。


「それからこの先、敵が強くなってくると玲奈の守りが今まで以上に大切になります。だから彼女の専属護衛として、鳥型のバディを用意することにしました」


「てことで私たちは第5等級の」


「鳥のダンジョンに来てまーす」


「ばでぃ確保目指して頑張るのじゃ!」


 東雲財閥の意思決定をサポートする次世代型AIである愛奈は以前から玲奈を現実世界でも玲奈の役に立てる力が欲しいと願っていた。その願いをアマテラスが聞き入れた。鳥型バディをゲットしたら、それに愛奈が憑依することになっている。


「てことでハヤテ式四刀流推進室は今後この4人でやっていきます!」


「鳥形バディを手に入れたら、その子も仲間だよ」


「あっ。そーだね」


「可愛いデザイン作ってあげる!」


「わー、ルルさんありがと!!」



「よし。それじゃ、みんな行くよ」

「「「はーい!」」」


 颯は玲奈たちと共に鳥のダンジョンの攻略を開始した。

 

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