第084話

その日、クリエイター界隈が騒がしくなった。


『アマテラス様が憑依するバディのデザインしてくれる人を募集します。報酬など、各種条件は以下の通りです』


 最近はほとんど更新されない颯のSNS。そこに書き込まれた依頼文章が、世界中の注目を集めたのだ。



 ベースデザイン料金:100万円~

 ※出来具合によって追加報酬を検討します


 専属契約:月額30万円~

 ※アマテラス様の要望に応じて追加衣装のデザインをしていただきます

 ※依頼頻度によって追加報酬を検討します


 おまけ報酬:アマテラス様の御加護

 

 

 FWOのバディ用デザインとしては高めの報酬。でも配信で稼いでいる颯ならこのくらい支払っても良いんじゃないかと多くの人が思う程度の設定だった。


 それより彼らのファンで、かつキャラクターデザインができる人々を惹きつけたのは専属契約の方。颯たちと専属契約できれば、バディデザインをした後も彼らと頻繁に連絡が取り合える。それはファンにとって何よりの報酬だ。


 おまけ報酬とされているアマテラスの加護も注目を集めた要因のひとつ。彼女のSNSに書き込んだお願いは、簡単なモノであれば高確率で叶うのだ。そんなインフルエンサーの加護がもらえるというのであれば、記念になりそうだと前向きにとらえる人が多かった。



 颯が事前に募集を出すと配信時に言っていたこともあり、彼がこの募集文を出してから僅か1時間のうちに千件を超える応募が来ている。


 その後も順調に応募は増えていき、募集期限までになんと世界中から30万件を超える応募があった。


 クリエイターでない者が何人かふざけて応募しようとしたが、颯のDMにはクリエイター認証がされたユーザーしか書き込めないようになっていた。クリエイター認証されているプロの中にも、いい加減な気持ちで応募してくる者もいた。彼らは今抱えている仕事のスケジュール的に颯たちの依頼など絶対に対応できそうではないが、面白半分で応募していたのだ。


 そうした輩からの応募は、全て愛奈によって除外された。


 もし彼女がいなければ、颯と玲奈とアマテラスは自分たちで30万件の応募の中から本当にやる気のあるクリエイターを探さなければならなかった。



『本気度が高く、かつスケジュールを空けられるクリエイターは全応募の中で13572名です。その中からクリエイター自身の人気、デザインのクオリティなどを考慮して、私のおススメを300名まで厳選しました』


 愛奈が選定したデザイナーのデータを颯たちが確認している。


「300かぁ。もう少し何とかならない?」


『可能ですが、これ以上人数を絞りますと人気もあって能力が高いのに、納期を守らない天才型のデザイナーを候補から排除してしまうことになります』


「私は納期も大事だとおもうけどな」


『では納期遵守率でもフィルターをかけてしまってよろしいでしょうか?』


「いいんじゃない」

「私は良いよ」

「ちょ、ちょっと待つのじゃ。これを見よ」


 颯のDMに送られてきたPRデザインの中から、アマテラスが目を引かれるものを発見した。


「これ、すごく良い。なんというか、我の神性が溢れ出ておるとは思わんか」


「とても綺麗なイラストですね」

「なんて名前のデザイナーさん?」


『そちらはフランス在住のイラストレーター、ルルロロ様です。SNSでのフォロワーは300万人。世界中で人気があるラノベのイラストも担当されています。しかし私が調べたところによりますと納期遵守率は低く、次の候補厳選で排除される予定の方でした』


「依頼しても納期がかかっちゃうのは困るな」


「あ、でも待って。ハヤテの依頼を受けるために、今やってる仕事を全部終わらせたってDMに書いてあるよ」


「おぉ! やる気じゃのう」


 ルルロロから送られてきたメッセージはそれだけではなかった。


「え、なにこれ?」

「これ、ハヤテだよね」

「こっちは玲奈じゃな」


 それは颯と玲奈がダンジョンでモンスター相手に戦っている様子を躍動感満載で描いたイラストだった。


「この装備、割と最近のじゃない?」


「うん。この前パリのダンジョンで手に入れた剣だ」


『私は応募者全員の身元も調べています。その結果、ルルロロ様はドイツにある黄のダンジョンにて、颯様と玲奈様が救出された女性であることが分かりました』


「ドイツのダンジョンで?」


「あっ。もしかしてあの、金髪ショートカットの美人さん!?」


『その御方です』


 リビングのテレビに颯と玲奈がダンジョン攻略している動画が映し出される。そこには金髪美女が同行していた。


「え、この人がフォロワー300万人のイラストレーターさんなの!?」


「普通にソロでも第4等級ダンジョンで戦えてたよね?」


 ピンチになっていた彼女を颯が助けたものの、ちゃんとしたパーティーを組んでいれば余裕で人のダンジョンをクリアできる程度の実力があったのだ。


「少しFWOの話をしたけど、かなり詳しかったよね」


「ハヤテと話が合いすぎて、私はちょっと嫉妬しちゃったけど」


「あ、えと、それはゴメン」


 楽し気に話し込む颯とルルロロを見て、玲奈は複雑な感情を抱いていた。


「じゃあ、この人は止めとくか。たくさん打合せすると思うし」


 颯としても玲奈が不機嫌になる要素を無闇に増やしたくない。ルルロロ以外にも素晴らしいデザインを送って来てくれているイラストレーターはたくさんいる。


「でもあの時のハヤテ、本当に楽しそうだった。ハヤテと同じくらい深いFWOの知識でお話しできる人ってあんまりいないもんね。だから私は、もしアマテラス様がルルロロさんのデザインを気に入ったならこの人に依頼しても良いって思う」


「我はこやつの絵柄を気に入ったのじゃ」


「はい。てことで、私もこの人に一票」


 最終判断は颯に委ねられた。


 確かにルルロロと会話しながらダンジョンを出口まで下って行ったのは楽しかったと思い出す颯。 


 玲奈に嫉妬させたくないという気持ちと、またFWOのコアな情報交流で盛り上がりたいという気持ちで揺れる。彼女が超人気イラストレーターで、しかも自分たちのために依頼を開けてくれているというのもポイントが高い。


 颯は少し悩んだ末、結論を出した。


「よし。ルルロロさんにアマテラス様のバディデザインを依頼しよう!」

 

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