第081話 〈配信コメント欄〉

 

「玲奈の出番無くなるけど良いかな?」

「うん!!」


〈ふぉぉぉおおおおお!!〉

〈出るぞぉ、ハヤテの闘気開放だ!〉

〈久しぶりだな〉

〈さぁ、無双しろ!!〉


 颯の配信を以前から見ていた視聴者たちはテンションを上げている。彼らは闘気解放がただの演出であることを知っているが、それでも構わないようだ。


〈闘気解放って?〉

〈え、ハヤテがもっと強くなるの!?〉

〈それはヤバくね〉

〈てかそんなシステム知らんが〉


 元FWOプレイヤーで颯の配信を見ていなかった人々からは疑問の声が上がる。


〈まぁ実際ただのフリ・・だからな〉

〈えっ〉

〈どゆこと?〉

〈強くなる効果なんてないよ〉

〈全部ハヤテの演技〉

〈でも演技に見えねーんだよな〉

〈そうそう。マジで強くなったように見える〉


 モンスターに苦戦する姿も、その後の無双も彼の完璧な演技によって本当に強化されたように見えてしまう。何より闘気解放する時の颯の姿が凛々しく、多くの視聴者たちを魅了していた。



 その時、モンスターの大群に囲まれていた颯がマニピュレータを全力で振った。彼の周囲に空間が出来る。その中心で、颯が構えた。


〈くるぞ!!〉

〈やっちゃえ!〉

〈アガってまいりましたぁぁあ!〉



「闘気、解・放!」



 颯の周りを赤いオーラが舞う。


〈やっべ、かっけぇ!〉

〈え、えっ。これ効果ないの?〉

〈ぜってぇパワーアップしてんだろ〉

〈これはアガるわ〉

〈そうだろ? 信者が増えて嬉しい〉

〈ようこそ、こっち側へ〉


 本気で四刀流が好きで、四刀流を広めたかった。どう戦えば視聴者にカッコいいと思ってもらえるかをずっと考え、颯が辿り着いた答え。


 それは世界にダンジョンが出現した今、世界の人々を魅了することに成功した。



 パワーアップした状態を演出しようと、颯が少し強めに剣を振る。


 この時の彼はあくまで一般的な高校生としての力で、マニピュレータの力を最大限に引き出して周囲の人型モンスターを攻撃したつもりだった。


 それが──


〈……は?〉

〈えっ〉

〈な、なにその威力?〉


 スキルを使っていないにも関わらず、音速を越える速度で振られた剣からソニックブームが発生した。それが颯に襲い掛かろうとした無数のモンスターを遠くまで吹き飛ばしたのだ。


 颯も驚いた表情で吹き飛んでいったモンスターを見ている。


〈うぉぉおおおおお〉

〈すげぇ! 凄いよハヤテ!〉

〈コレが闘気解放か!!〉


 何も知らない視聴者たちは、これが普通だと思って盛り上がっている。


 昔の闘気解放した颯を知っている視聴者たちは混乱し、逆に静かになっていた。


〈い、いや、ちがう〉

〈闘気解放って、こんなんじゃない〉

〈ん? ほんとはもっと威力が上がるの?〉

〈現実じゃ力をセーブしちゃう的な?〉

〈違う違う〉

〈本当の闘気解放は──〉


 何人かの古参ファンが颯の闘気解放について解説しようとした時、世界中にアナウンスが響いた。



【一部のプレイヤーが特殊クエストを達成しましたので、現在より『闘気解放システム』を解放します】



〈…………おい、マジか〉

〈わーお〉

〈闘気解放って確か〉

〈ハヤテ設定で戦闘力が2.2倍になるな〉

〈待てまて。一部のプレイヤーってハヤテか?〉

〈いや、でもタイミング的に〉

〈どう考えてもコイツだろ〉


 察しの良い視聴者たちは、一部のプレイヤーというのが颯のことで、彼の使っていた闘気解放が現実世界に実装されたのではないかと考えた。現に颯は人間離れした力でモンスターを吹き飛ばしている。


 当の颯はというと、剣を持った自身の腕をじっと見た後、何度か素振りをした。



「みなさん、朗報です。今日からほんとに闘気解放が使えるみたいです!」


 彼はいつもの感じで解説を始める。


〈それ、大丈夫?〉

〈急に筋力2倍とかなったら制御できなくね?〉

〈普通は上手くいかんよ〉

〈軽く飛んだだけでも室内なら天井にぶつかるぞ〉

〈バフみたいに知覚も上昇してるならいいけど〉

〈あれは倍率低いから何とかなってるだけだぞ〉

〈補助なしでいきなり2倍は死ぬだろ〉


 不安そうな声が多かった。

 しかしそんな心配は無用である。


 伊賀忍頭領が唯一、免許皆伝の書を渡した青年。身体能力が2倍になった程度でコントロールできなくなる彼ではない。


「どうやってこの状態に慣れれば良いのかとかは今度時間をとって解説しますね」


 颯が攻撃ターゲットに目を向ける。

 

 排除すべき敵に群がって来た人型モンスターたちは、颯から発せられる強烈なオーラが自分たちに向けられたことに気付いた。彼らの身体は自然と震え、颯に襲い掛かることが出来なくなっている。自らが狩られる側・・・・・であると強制的に理解させられたのだ。


「今日は俺の彼女が無双をお望みなので──」


 最も颯に近いモンスターが逃げようと後ろを振り返るが、そこには仲間たちがいて逃げ出すことが出来なかった。


「暴れさせてもらいます!!」


 颯による蹂躙が始まった。


 剣の一振りで数十体のモンスターが吹き飛ばされる。彼の踏み込んだ1歩で地面が大きくひび割れ、敵が何体も地割れの底に消えた。離れた場所から魔法で攻撃を仕掛けたモンスターもいたが、一瞬で間合いを詰められ颯の剣で両断された。


〈くっそつぇぇwwww〉

〈マジでチートやんw〉

〈マニピュレータ使わずにそんな飛ぶなよww〉

〈いやいやいや! 待てって〉

〈ありえなくね?〉

〈どー考えてもおかしーだろ!!〉

〈なんで得たばっかの力を使いこなしてんだよ!?〉

〈まぁまぁ、ちいせぇことは気にすんなよ〉

〈ハヤテだしな〉

〈うん、そゆことww〉


 既に颯ならこのくらい出来て当然というのが侵透していた。


 ツッコミを入れる視聴者もいるが、彼らも次第に周囲の反応に流されていく。



 『ハヤテだから仕方ない』

 『ハヤテならこのくらい普通』

 『通常運転のハヤテでした』


 彼が2階層のモンスターを殲滅した時、配信サイトのコメント欄はこのようなコメントで埋め尽くされていた。

  

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