第073話 政戦
その騒動は、とある少女の一言から始まった。
『おじいちゃん。またハヤテが政府に捕まっちゃった……。私、もう我慢できないの。だからお願い、私に力を貸して』
配信があれば、どんな用事もキャンセルして欠かさず閲覧するほどの大ファンだった配信者。そして今は夢が叶って恋人となった颯が二度も政府に捕まり、拘束されたという状況が東雲 玲奈の理性を失わせた。
『社会のルールとか、もうどうでも良い。私からハヤテを奪うって言うなら、私は私が出来ることを全部やってハヤテを取り返す』
少女の固い決意を感じ取った服部 什造は協力を約束した。
そもそも什造は颯がどこで何をしているか把握していたが、私欲のなかった雇い主がついに日本を獲りに動き出したことに歓喜し、余計なことを言わずに行動を開始したのだ。
最強の忍集団が行動を開始したことを確認した玲奈は、次に東雲財閥の本社ビルへ向かう。その中にある誰も立ち入れないはずの部屋へと侵入を試みた。
それは東雲グループの経営戦略などを検討・提案する次世代型AIのメインコアが格納されている隠し部屋。自己補完し、メンテナンス技術者すら不要で稼働し続けるAIの心臓部には誰も入れない設計になっている。しかし──
『愛奈、私だよ。お願い、中に入れて』
玲奈の言葉で、開かずの扉は簡単に開いた。
彼女の幼少期から、愛奈は玲奈の周りにある電子機器に侵入し、すぐそばで玲奈を見守ってきた。ふたりで遊んでいた時間も多い。大人たちは当然、そんなこと知らない。彼女たちの友情に誰も気づいていなかったのだ。
次世代型AIの本体と対面した玲奈が望みを伝える。
『私の大事な人が政府に捕まっちゃったの。私は彼を助けたい。愛奈、手伝って』
真剣な表情で玲奈が訴えた。彼女に何かを頼まれるというのは、愛奈にとって初めての経験だった。名の一部を貰い、秘かに姉と慕っていた玲奈の願い。それをなんとしても叶えようと愛奈は決意した。
なにより愛奈は、玲奈と颯の交際を全力で応援していたのだ。
『承知致しました。雫石 颯様をダンジョン保護法違反で逮捕すると言い出したのは、東雲財閥以外の財閥に抱えられてる政治家たちです。玲奈様と颯様の仲を引き裂こうと動いた政治家たちは我が国にとって不要と判断します。行動を開始してもよろしいでしょうか?』
『うん。やっちゃって』
玲奈に迷いはなかった。
ちなみに愛奈は全ての事情を知っている。
神の存在も。颯が無事で今、その神の元へ向かっていることも。
しかし玲奈から言われたのは『颯を助けたい』という願いのみ。助ける方法は指定されておらず、彼が捕まった背景などについて聞かれてもいない。
つまり颯を助けるためなら、颯のためになることなら何をしても良いという指示を受けた──愛奈はそう、都合よく解釈した。
愛奈にとって他財閥が抱える政治家たちは、東雲財閥が飛躍するための枷だった。邪魔で仕方なかった。彼女の力を利用すれば邪魔な政治家たちはいつでも失脚させられるが、東雲財閥の上層部はそれを認めなかったのだ。
いくら力があっても、愛奈を使うのは東雲一族である。東雲一族の許可が無ければ彼女は動けない。
しかしついに東雲一族の直系から許可が下りた。
その瞬間から愛奈は動き出していた。
玲奈のため。彼女と颯のため。ふたりの邪魔になり得る者は政界から退場してもらう。東雲一族にとって都合の良い人物だけ残し、残りは順次入れ替えていく。
愛奈だけではどうしても対処できない人物もいたが、幸いなことに忍者の集団も玲奈のために動き出している。電子戦と物理戦、その両方で政治家たちの悪行が世間にバラされていった。
「ハヤテ、少し待っててね。もう誰にもあなたの邪魔をさせない。誰もあなたを捕まえたりできない国にするから」
そう言い放つ玲奈の目に一切の迷いはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます